黄竜と左慈

 黄竜に嘘がバレて天界へと連れ戻された左慈。

 穏やかなお爺ちゃん口調と違い、若々しく威厳ある言葉で左慈を威圧する黄竜。


 黄竜「さて、早速本題に移るが。左慈よ。黄皓とかいう呪術師を滅した時に、お前は約束したな?」


 左慈「これに関しては、小生も弁明したいのだが」


 黄竜「言い訳など不要だ。事実確認をしているだけだ。お前は約束したな?」


 左慈「はっ。はい」


 黄竜「我の遣いである玄武に何と言ったか覚えているな?」


 黄竜の威圧感の前に、左慈の口調も親に怒られる少年のようになる。


 左慈「もう呪術の痕跡が残らぬように消し去っておくと約束しました」


 黄竜「そうだな。で、どうだ?」


 左慈「できてませんでした」


 黄竜「そうだな。素直になって、俺も嬉しいぞ。人手が足らぬならそう言えばよかったのだ」


 左慈「約束した手前、できませんと簡単に言えなくなりまして」


 黄竜「その結果、どうなったと思っている!俺が呉の兵共を魔眼で動けなくするしかなかったのだぞ。その結果、俺が興味を抱く男の負担を減らしてやるのに大変であったわ!」


 左慈「す、すみません」


 黄竜「アァ?」


 左慈「ご、御迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」


 黄竜「そうだな。ここまで1人の人間に肩入れするなど久しぶりの感覚だ」


 黄竜は肉塊を捏ねて、人の形を模ると息を吹きかける。


 左慈「そのようなものを人の形にして、何を?」


 黄竜「あのような機械もどきと同じと思うな」


 ポワンと少年が現れた。


 黄竜「ふむ。我ながら天才だ」


 ???「パパ。ママ。ごめんなさい。ごめんなさい。ボクが弱いばかりに産まれてあげられなくて、ごめんなさい。ごめんなさい?ヒッ。竜?ボク、食べられるの?」


 黄竜「うむうむ」


 左慈「いや、思ってたんと違う反応!?」


 黄竜「うるさい!操られた人間がどれだけいたと思っている!そいつらを縛るのに力を使い過ぎただけだ。後で、戻しておく」


 ???「へっ?ボク、また死ぬの?そんなの嫌だよ。お願いします。お願いします。竜神様、ボクは、あんなに悲しそうにしてるパパとママに伝えなきゃならないことがあるんだ。だから、殺さないでください」


 黄竜「ふむぅ。何やら肉塊の反応があるから利用したが。何やら訳ありのようだな。話してみよ哪吒よ」


 ???「哪吒?」


 黄竜「名前が無いのは不便であろう?それゆえ、我が付けた名だ」


 哪吒「あ。ありがとうございます。その、ボク」


 哪吒が起こったことを話す。


 黄竜「うっうっ。そうか。そうか。哪吒は、優しいのぉ。両親に最期の別れをしたいんじゃな。良かろう。その2人にだけ、お前の姿が見えるようにしてくれよう。その代わり、このポンコツの代わりに退魔の仕事を担ってもらうこととなるが良いか?」


 哪吒「退魔?」


 黄竜「人でありながら悪魔に魂を売った者たちのことじゃ」


 哪吒「パパを苦しめたような奴のこと?」


 黄竜「そうじゃ、な」


 哪吒「ボク、やっつけるよ」


 黄竜「そうか、やってくれるか。では、最期の別れができるように、あの2人にだけお前の姿が見え、話すことができるようにしてくれよう。しっかりと別れの挨拶をしてくるのじゃぞ。ワシは、その間、コヤツを絞らねばならんのでな」


 哪吒「ありがとう黄竜様。初めは、竜神って怖いと思ってたけどお爺ちゃんみたいなのだとボクも嬉しい」


 黄竜「ホッホッホ。そうかそうか。この爺で良ければ、可愛い哪吒のため力を貸してやるぞい」


 哪吒「うん。ありがとう黄竜様」


 こうして、哪吒が自分が亡くなった血溜まりの上に立っている頃、黄竜の左慈への説教はまだ続いていた。


 左慈「いや、小生も驚いた。哪吒はとても良い子である」


 黄竜「おい、左慈。誰が口調を戻して良いと言ったのだ?お前、哪吒のお陰で、助かったと安堵しているのでは無いだろうな?」


 左慈「い、いえ。そのようなことは」


 黄竜「人の身でありながら方士となれたのは、誰のお陰か忘れたわけではあるまいな?」


 左慈「はっ。はい。黄竜様が人に取り憑いた退魔を見抜くのが人の身の方が都合が良いと」


 黄竜「その結果がどうだ?于吉に始まり袁胤、黄皓、呂壱とどれだけ出せば気が済むのだ?于吉には南華が殺されたのだぞ。死んで仙人にした荘子ソウジを殺されるなど。本来ならばあってはならんことだ」


 ???「そう、左慈方士を責めてやりますな。この通り、黄竜様のお陰で、再び南華仙人として、力を取り戻しつつあるのですから」


 左慈「荘子殿、すまない」


 黄竜「魂まで砕かれていないのが幸いであっただけだ。そう甘やかすな。この男は、職務を怠慢してたのだからな。左慈よ。金輪際、劉玄徳1人の肩を持つことは許さん。蜀漢にも呪術とやらの悪しき魅力に取り憑かれる者がいるかもしれんのだからな」


 左慈「しかし、それでは黄竜様が目をかけている劉義賢も」


 黄竜「目をかけているだけで、手を貸したのは気まぐれだ。本来ならば己の力で、どうにかせねばならんことだ。貴様のポンコツのせいで、手を貸す羽目になっただけのこと。まだ何かあるか?」


 左慈「しょ、承知しました」


 南華仙人「左慈よ。お前にしては、珍しく黄竜様を怒らせてしまったのぉ」


 左慈「面目次第もない」


 黄竜によって、コッテリと絞られた左慈は、今後、呪術師なるものが暗躍しないように、監視を徹底することを決めるのだった。

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