催眠が解ける

 話は少し遡り、孫翊の暗殺を図った盛憲と辺洪を斬り殺した後のこと。


 徐薊「兄さん・傅嬰、助かったわ。これで叔弼も」


 孫翊「何故、2人を殺した徐薊。そうかお前は、呂壱様を裏切るのだな。死ね」


 徐元「危ない薊!」


 愛する孫翊から殺気を向けられて動けなくなっている徐薊を弾き飛ばして、剣の鞘で受け止める徐元。


 徐薊「兄さん!」


 徐元「俺のことは気にするな。義弟にお前を斬らせることにならずに済んで、何よりだ」


 孫翊「お前も邪魔をするのだな徐元。今まで、義兄として、重用してやったのにその恩を仇で返すのだな。ならお前も死ぬが良い!」


 そこに孫匡と孫朗が入ってくる。


 孫匡「孫翊兄上、何をやってるんだ!操られるなんてみっともない!」


 孫朗「孫翊兄さん、負けちゃダメだ」


 孫翊「うるさいうるさいうるさい。お前たちまで、俺を殺しに来たのだな。殺してやる!周泰・孫河・董襲・蒋欽、コイツらを殺せ!」


 周泰「孫翊様のために」


 孫河「呉王様に手は出させん」


 董襲「呉王様に剣を向けて、生きて帰れると思うんじゃねぇぞ」


 蒋欽「全員、ここから生きて帰さねぇからよ」


 その頃、孫策たちは、化け物となった呂壱と孫暠を左慈に任せて、孫権たちを向かわせた城内の孫翊の寝室に向かっていた。


 孫静「兄上、愚息が本当に申し訳なく。これが終われば、職を辞し、隠居したいと」


 孫堅「確かに甥が罪を犯したのは明白だ。だが、俺は今この地の当主ではない。そのことは、翊と話すのだな」


 孫策「そうだぜ叔父貴の責任じゃねぇ」


 周瑜「しかし、あのようなことまでできてしまうとは、呪術とは角も恐ろしいものなのだな。伯符、本当に身体は問題ないか?」


 孫策「心配すんな公瑾。張角のオッサンに渡されてる薬もきちんと飲んでるからよ」


 呂範「それにしても、まさか孫策。お前が行方不明になってた理由が蜀漢の領土に行ってたからだったとはな」


 孫策「まぁ、俺は気を失ってからわからねぇけどよ。公瑾のことだ。言いづらかったんだろう」


 呂範「そうだな。あの後からだ。徐々に孫翊の様子がおかしくなったのは」


 孫策「俺たちと付き合いの長いお前だから弟の異変にも気づいたんだろ」


 呂範「ふむ。まぁ、そのせいで真っ先に捕えられたがな」


 寝室に近づくと呻き声が聞こえてきた。


 孫策「この声は権!嘘だろ怪我してんのかよ!待ってろ今助けてやる」


 寝室の扉を開け放つと孫権が孫匡と孫朗を守るように周泰の前に立ちはだかっていた。


 徐元「董襲殿、目を覚まされよ!」


 董襲「うるせぇ。劉備に国を渡す売国奴が」


 徐元は董襲の相手で、手が離せず。


 傅嬰「ハァ。ハァ。ハァ。蒋欽殿、それが本当に貴殿のやりたかったことなのか!」


 蒋欽「売国奴共は、皆死んでしまえ」


 傅嬰は蒋欽の相手で、手が離せず。

 孫権が孫翊と周泰と孫河の相手を一手に引き受けながら孫匡と孫朗と徐薊を守っていた。


 孫権「孫翊、お前は愛するものを自分の手にかけるつもりか。良い加減、目を覚ませ!」


 孫翊「ククク。呉王である俺を裏切り国を売る売女など愛してなどいない」


 徐薊「そんな。嘘よ。叔弼」


 孫翊「気安く俺の名前を呼ぶな。売女が」


 膝から崩れて、涙を流す徐薊。


 孫権「徐薊、今の孫翊の言葉を真に受けてはダメだ。気を強く持ってください」


 周泰「死ね」


 孫権「しまった。うぐっ。周泰、僕がわからないのか?目を覚ませ」


 孫河「ガラ空きだな」


 孫権「はぐっ」


 孫権は、左腕を周泰に斬りつけられ、腹の辺りを孫河に斬りつけられても体勢を崩さずに対峙していたのだ。


 呂範「孫河、お前見損なったぞ!共に共に孫策を。いや孫家を盛り立てると誓ったのではなかったか!簡単に操られるなど恥を知れ!」


 孫河「俺は孫家を守っている。裏切ったのはお前だ呂範」


 呂範「孫策、孫河のことは俺に任せろ。お前は、孫権を」


 孫策「わかった。そっちは、頼んだ呂範」


 周瑜「周泰、君ほど孫権様のことを守ってきた男が主君に刃を向けるなんて、目を覚ますんだ」


 周泰「孫権、裏切り者。孫翊様、守る」


 孫権「ハァ。ハァ。うっ意識が」


 倒れそうになる孫権を支えたのは孫堅だった。


 孫堅「権、良くやった。後は、父に任せよ。匡に朗、権の治療を頼んだぞ」


 孫匡「はっはい」


 孫朗「お任せを」


 孫堅「翊よ。家族を傷付けても目が覚めんとは、この大馬鹿者が!」


 孫堅の渾身のストレートが孫翊を殴り飛ばした。

 その前に立ち塞がる男がいた。


 孫堅「朱治、久しいな」


 朱治「孫堅か。裏切り者がノコノコと帰ってこれたものだな」


 孫堅「お前ほどの男でも操られるとは、嘆かわしいものだ」


 対峙して、しばらく経つとまるで糸が切れた操り人形のようにその場に脱力して倒れ込む。

 呂壱と孫暠が死んだことによって、催眠が切れたのだ。

 膝をつき、涙を流した徐薊は、血を流していた。

 そう、ショックで孫翊との子供を流産してしまったのだ。

 間も無く、呉に仕える宮廷医師が駆けつける。


 医師「残念ですがお腹の子は」


 徐薊「そう。私はこの子を守って上げられなかったのね。産んで上げられなくてごめんなさい。うっうぅ」


 医師「お役に立てず」


 徐薊「いえ、私のことより、あっちの方が深刻な状態よ。行ってあげて」


 医師「はい」


 孫匡「孫権兄上、目を開けてください!」


 孫朗「そんな孫権兄さん!」


 医師「危険な状態です。ですが残念ながら私にできることは」


 孫匡「そんな」


 ???「ふぅ。どうやらここに来て正解だったようじゃ」


 ???「勘とやらもたまには当てになるものだな」


 そう医療のスペシャリストである2人である。

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