豫章を治める孫静
豫章郡を治めていた孫静は、いち早く呉の異変に気付いて、兵を送ったのだが、その兵からの連絡が途絶えた。
孫静「やはり呉で何か変事があったことは明らかか。様子を見に行かせた兵も戻らぬとあっては疑いようも無いか。
孫暠「父の頼みとあらば」
孫暠は、孫静の長男である。
だが孫静は、息子である孫暠の野心に気付いていなかった。
孫暠は、様子を見に行って、あろうことか嘘の報告をした後、戻らなかった。
それどころか、あろうことか呂壱と共謀して、次期呉王を狙い、孫翊の暗殺をも画策していたのである。
孫暠「呂壱、孫家の奴隷のお前が上手くやったものだな」
呂壱「孫暠様か」
孫暠「様付けなど要らん。よくやったな呂壱。遠くを虚で見つめる孫翊ならば、俺でも簡単に暗殺できそうだ」
呂壱「孫暠、それはまだ早い。劉備を招き入れて、劉備によって孫翊が殺されたことにして、呉以外の地での民意を得るのが必要だと言ったであろう」
孫暠「そうであったな。孫翊の事を裏切った部下どもは、まだ曹丕とお前が通じてると思ってるのか?」
呂壱「そのように演じましたからな。我が友を王位に付けるために、于吉の弟子と自称し、呪術を独断で学んだのだ。全ては、孫暠のため」
孫暠「お前のような忠臣を持てて、俺は幸せ者だ。だが気を付けろ父が怪しんでいる」
呂壱「流石、賢臣と言われる孫静だ。厄介だな。いっそのこと誘き寄せる方が良いか」
孫暠「いや、用心深い父のことだ。警戒して来ないだろう」
呂壱「それは困ったな」
孫暠「どうした?」
呂壱「劉備に尻尾を振った孫策を捕える事に成功した。それどころか孫堅や孫権まで、ここに来るそうだ」
孫暠「成程、全員殺して、継承権が順当に俺になるようにしたいわけか。考えたな」
呂壱「誘き寄せるのを嫌がるフリとか大変だったが。後は、孫匡や孫朗にも孫堅が帰ってくるとの手紙を送れば、警戒せずにこちらに来ると踏んだのだが。このままでは、継承権が孫静となるな」
孫暠「なら俺がこのまま連絡を途絶えさせて仕舞えば良い。子供には甘い父のことだ。俺のことを心配して、自ら様子を見に来るはずだ」
呂壱「実の父を殺すという話をしてるのに、嬉々としているか」
孫暠「これが嬉しく無いわけがない。ようやく、この俺が呉の王となれるのだからな」
呂壱「それでこそ孫暠だ。計画に抜かりはない。劉備を招いて、宴を開いた後、警戒心を解かせ、翌日の夜に孫家の者たちを暗殺して、罪をなすりつけて、劉備を処刑する」
孫暠「あぁ。今からその日が楽しみだ」
連絡の途絶えた孫暠を心配する孫静。
孫静「孫暠も戻らないとあっては、いよいよ怪しいな。こうなっては、兵を率いて、乗り込むのが良いか」
呉で何が起こるかわからないからこそ慎重な孫静は、動けなかった。
だが、この判断が良かったと言える。
孫静は孫堅と再会することとなったのだ。
孫堅「噂には聞いていたが本当にお前が豫章を治めていたのだな幼台」
孫静「兄上にもう一度、お会いできるとは。若に姫に、お久しぶりです劉備殿」
劉備「反董卓連合以来でしたか?お変わりがないようで安心しました」
孫静「いやいや。兄上を交州に追いやり、孫策様に付いた。どの顔で兄上に」
孫堅「気にする必要はない。牙の抜けた虎よりも勢いのある虎の方が良いだろう」
孫静「そのようなことは。しかし、此度はどうして呉へ?」
孫堅「翊の奴に婿殿が和解がしたいと呼ばれてな」
孫静「今、呉に入られるのは、良くないかと。何か怪しいのです」
孫堅「しかし、子供に会いたく無い父など居ないであろう」
孫静「罠かと」
孫堅「どうして、そう思う?息子が親に会いたくなったのかも知らないであろう?」
孫静「呉の様子を見に行かせた兵も我が息子も戻って来ないのです。何か異変があったとしか」
孫堅「どうやら幼台、お前は呂壱の奴に操られていないようだな。なら、話しても良かろう」
孫堅が孫静に事の次第を話す。
孫静「では、孫策様も中に?」
孫堅「うむ。翊の説得に向かうと言ったのだ。恐らく、捕まったのだろう」
孫静「そういうことでしたら、俺も兵を連れて」
孫堅「そんなことをすれば、呂壱にお前まで気付いていると思われよう。素通りさせた我らを追いかけるというのはどうだ?」
孫静「兄上は相変わらず野蛮な方法を思い付きますな。良いでしょう。せいぜい逃げてくださいよ兄上」
孫堅「あぁ」
孫尚香「孫静叔父様と追いかけっこなんて何年振りかしら」
孫静「姫が馬に乗ると駄々こねた頃なので、4歳の頃かと」
劉備「尚香は、そんな時からお転婆だったのか?」
孫尚香「玄徳様はお嫌い?」
劉備「そんなことはない。それにしても追いかけっ子は禁止だ。お腹の子に障っては、どうする?本来ならこんな危険な事に付き合うのすら」
孫尚香「はーい、そこまで!このお腹にいるのは虎と龍の子供だよ。大丈夫。大丈夫」
孫静「逞しく育ちましたな」
孫堅「あんなじゃじゃ馬を迎え入れてくれた婿殿のお陰だ」
翌日、別れを告げる孫静。
孫静「では、今から3日後に追いかけます」
孫堅「うむ。そのぐらいであれば、ちょうど呉に着く頃に追いつかれるだろう」
こうして、じわじわと呉包囲を進めるのだった。
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