　馬超の元に益州情勢と漢中の張魯の情報が届けられた。

　馬超「それは真か？」

　韋康「父のところの者からの情報ゆえ我らを動かすための策の可能性も捨てられませぬが益州が内乱に突入しているのは間違いないかと」

　馬超「ふむ。であれば、漢中の話も事実の可能性が高いか。この涼州よりも漢中のが守りは硬い。それが無傷で手に入るなら移り、漢中から長安へと奇襲するべきか」

　王異「孟起様、理に適ってはいます。ですが何やら裏がありそうで怖いです」

　楊笙鈴「馬超様、ここは斥候を送り込み漢中の状態を把握してからでも遅くないのでは」

　馬超「いや、この話が事実なら劉璋殿か反乱軍が漢中に目をつけるのは明白だ。良し、ありったけの兵糧と民たちを連れ、我らは漢中へと移る」

　？？？「お待ちください馬超様！それは愚策となります！ここ涼州にて、曹操軍を防ぐが上策です！我らが力を合わせれば、曹操軍にも抗うことができます！」

　馬超「姜維（キョウイ）であったか。お前の父には、俺も幼い頃から助けられてきた。お前の言、もっともなのだろう。だが、俺は父を捨てることも曹操に膝を折ることもできぬ軟弱者なのだ。すまぬ」

　姜維「いえ、馬騰様の供をした私の父を心配してくださることを大変嬉しく思います。ですが、状況は刻一刻と覚悟を決める時がいずれ来ることを」

　馬超「わかっている。皆、苦労をかける。全軍、漢中へ進軍を開始せよ」

　馬超軍が涼州を放棄し、漢中へと軍を進めた情報を掴む鍾繇。

　鍾繇「ほぉ。乗ってくるかは半々であったが乗ったか。全軍、我らは漢中への進軍を変え涼州を取る。しっかり働いてもらうぞ公孫度よ」

　公孫度「わかっておる。我らは曹丕様に降伏した身、この命が尽きるまで、従う所存だ」

　鍾繇「いい心がけです。曹丕様が当主についた暁には、重用されるでしょう。しっかり働くのですよ」

　公孫度「うむ」

　鍾繇は司馬懿からの命を受け、漢中を取るそぶりを見せるようにと言われていた。司馬懿曰く、今の漢中は防備はおろかその領土を守るには厳しいそうだ。それゆえ、馬超に魅力的に映るように情報を流し、涼州から追い出し、涼州を弄せず手に入れると馬超はまんまと司馬懿の策に嵌ってしまったのだ。漢中についた馬超は絶望に暮れていた。そして、涼州の各郡に曹操軍の旗がはためいているとの報告を受けたのである。

　馬超「まさか、この荒れ果てた地が漢中だと言うのか！？いかん、すぐに全軍、涼州へと引き返すのだ。これは偽報だったのだ。まんまと嵌ってしまった。皆、すまぬ」

　馬柳「兄上、顔をおあげください。我らは皆無事なのです。まだ立ち直れます」

　馬鉄「兄貴、1人のせいじゃねぇ。俺たちも最終的には従ったんだ」

　馬休「兄さん、ここはこの漢中で何か策を考えるべきだよ」

　馬雲緑「馬超兄様、皆んながいればなんとかできるはずよ」

　姜維「いえ、こんな荒れ果てた地で守れないでしょう。こうなっては、この漢中をも放棄して、劉璋殿の元に身を寄せるか反乱軍に与するかしかないでしょう」

　韋康「姜維殿の言に一理ある。ここまで漢中が悲惨であるとは想像できんかった。だが過ぎてしまったことを悔やんでいる時間はない。ここはどちらかの庇護を受け、この屈辱を注ぐしかない」

　馬超「まさか、こんな凄惨なことになっていようとは」

　馬超が見た漢中は、漢中城を除く全ての県が焼け落ちて、そこら中に死臭が漂っていた。無事であった漢中城の周りも流民で溢れていて、通るたびに食い物を求められる。馬超は善意の人だ。救えるならと米を渡し続けた。その結果、漢中城に籠城するなど到底不可能であった。馬超は悉く失策を重ねてしまったのだ。漢中に向かい涼州を失い、その漢中は寄る辺とはならず。劉璋に仕えるか反乱軍に与するかしかなかった。

　龐淯「父と母の分まで、馬超様を支えると決めた。しかし、反乱軍に手を貸すことなどできようか？」

　龐徳「孟起、某も龐淯を推す。ここは劉璋殿に手を貸し、益州にて曹操と抗うのが良いかと」

　閻行「俺は強い方と戦いたい。反乱軍には結構な奴らがいるそうじゃねぇか。悩む必要はねぇだろ」

　成公英「全く閻行は相変わらずだな。だが、寄る辺を至急手に入れなければならないのは事実。劉璋殿は漢室に連なる者、恩を売るのは良いことかと」

　王異「孟起様、私は反対です。反乱軍の数があんなに多いのは異様です。劉璋の治世が悪かったという証明でしょう」

　楊笙鈴「私は、馬超様に従います」

　姜維「王異殿の言に信を置けるかと。あの反乱軍の多さは異常です。それ程、劉璋に反対する者たちが多いのでしょう」

　馬超「いや、漢室に弓を引くことはできぬ。ここは劉璋殿に手を貸すとする。全軍、劉璋殿の元へと向かうぞ」

　馬超はこの最後の選択でも失策した。王異や姜維の言う通り、劉璋の奥底にあるのは全ての女を自分のモノとする酒池肉林である。それは、馬超の妻や妹も例外ではない。今は、兵力を欲する劉璋が我慢したとしても、益州の内乱が落ち着けば、必ず手を出してくるだろう。そういう男だ。だが幸か不幸かは、わからぬが反乱軍に手を貸すことを決めた劉備軍がいることは救いとなるかもしれない。このことを聞いた鍾繇は笑いが止まらなかった。

　鍾繇「そうかそうか馬超は民一人一人に兵糧を配ったか。ハーッハッハッハッあの大馬鹿者が、その兵糧を持って、漢中に籠城されれば厄介となったものを。まこと、恐ろしいのは司馬懿じゃ。全て読んでおったのじゃからな。全軍、漢中を抑え、長安の防備をさらに盤石なものとするぞ。資材もどんどんと運び入れるのじゃ」

　公孫度「承知した」

　こうして、司馬懿を全く弄せずして、涼州と漢中を手に入れた。その勢いのまま益州をも併呑するつもりだったのだが、それを曹植によって邪魔されたのだ。この邪魔が劉備に時を与えたのは言うまでもない。しかし、劉璋軍に馬超軍が加わったことをまだ知らない。簡単に行く戦いとはならないのは言うまでもない。