南海城外の攻防戦(破)

 士祇によって城壁に集められた民たちは、目の前の光景が信じられなかった。劉備軍が何の罪もない民兵を容赦なく虐殺していたのだ。

 士祇「見よ。これが貴様らが仁君などと崇めた男の真の姿だ」

 民老「なんということじゃ。こんなの王道などではない覇道じゃ。劉備は悪魔に魂を売ったんじゃ」

 民男「許せねぇ。息子をよくも。俺が絶対に敵を討ってやるからな」

 民女「あぁ、どうして、あの人々の中には女性も居たのに、劉備は女性は殺さず自分のものにするんじゃなかったの。死にたくない死にたくない」

 士頌「死にたくないなら争うしかありませんよ皆さん。さぁ、この水を飲みましょうか?大丈夫です。辛いことは全て忘れますから」

 士幹「はーい、皆さん、こちらに並んでください。その苦しみから解放されますからね」

 列を為し小さい瓶の中に水みたいな物が入ったのを飲み干すと。まるで理性を失ったかのように武器を取り、城外へと出て行った。

 士祇「全く、良い実験生物だ。アイツらも操られて殺されただけだというのにな」

 士頌「士祇兄上〜、沢山打ったから沢山打ったからご褒美くださいませ〜」

 士幹「ずるい〜私も〜」

 士祇「全く可愛い弟たちだ。そんなに潤んだ瞳で見ずとも抱いてやろうぞ」

 士祇は、人で実験を繰り返すサイコパスだった。芭鐚朔もその被害を受けた1人。元々、心優しかった青年の脳を何度も薬で弄くり回した。その結果、痛覚を失い斧を振るうだけの化け物と化したのだ。失敗だった。元々は洗脳するための薬の開発だった。だが、これは理性を失わせ凶暴な力を得る代わりに人の命令を聞かない。そんな奴に言うことを聞かせるなんて不可能だ。だから、欲に忠実にさせた。自分たちよりも相手の方が肉が多いと。そぅそれだけで良かった。実験は何度も繰り返された。牛を解体して肉にしていた男には、牛の皮を被せて、脳を弄ってやった。その結果、一言二言しか話せない状態にはなったが命令を聞くようになったので牛面と名付けた。何度も人体実験による副作用によって自分の身体を傷付け、身体中傷だらけになった男には、それを逆に与えることに興奮を覚えるように脳を弄り、サボる村人たちに容赦なく鞭を鞭打つサディストと成り果てたので、獄卒と名付けた。その2人も城外にいる。趙雲の撤退により痛手を受けた劉備軍の先陣は、張郃へと変わった。対峙するのは獄卒である。

 獄卒「勇士たちよ聞けーい。目の前にいるのがかの有名な河間の張郃である。なんと中世的で美しい顔立ちであろうか。あぁいうのは、鞭を何度も鞭打ち屈服させるのが良い。者共かかれ〜」

 獄卒の率いる部隊は、女が多かった。

 女兵士A「あの人を討てば、獄卒様の愛が受けられるのですね」

 獄卒「煩い!」

 バチーンと鞭で鋭く打たれた女兵士は、痛みで顔を歪ませるのではなく恍惚の表情を浮かべていた。

 女兵士A「あぁん。獄卒様〜、御褒美をありがとうございます〜」

 それを見て、吐いてしまう張郃。

 張郃「うぷっ。なんだ、あの奇妙な形は」

 高覧「そういう愛もあるってことじゃねぇのか知らんけど」

 張郃「まさか高覧、お前も私にあんなことを」

 高覧「するわけねぇだろ!女傷つける趣味とかねえわ!大事な妻にそんなことするわけねぇだろ」

 張郃「なんだ?よく聞こえないが」

 高覧「なんでもねぇよ!」

 張郃「これ以上、殿に心労を与えるわけにはいかない。藩鳳・麹義、女兵士は捕らえよ」

 藩鳳「無茶言うぜうちの大将様はよ」

 麹義「ふむ。しかし向かってくる奴らを殺さず捕まえるとなると骨が折れますな」

 女兵士たちは、捕まえようとする藩鳳隊と麹義隊にもの凄い速さで、斬りつけ、切り付けられたものたちは、喉から血を吹き出し、倒れた。喉斬りである。か弱い女たちが身体を掻っ捌くのは相当な力が必要だろう。ならばどうするか、人体の弱点とされている喉・頸ならば力を加えずとも的確に捉えれば絶命させられる。

 藩鳳「馬鹿な!?なんて速さだ。お前たち捕まえるのは止めだ。殺せ殺すのだ!」

 麹義「お前たちは藩鳳隊を援護せよ。散れ」

 だが逃げようとしたものは、背を文字通り晒されている頸を切り付けられて、バタリと倒れた。

 藩鳳「なんだこの女?まずい」

 藩鳳は咄嗟に喉を守って、剣で防御したのを見て距離をとって消えた。藩鳳自身は、事なきを得たが藩鳳隊の半分以上の命が奪われた。そう、この女兵士たちは躊躇がない。腹を貫かれようが目を潰されようが、喉を的確に狙うのだ。その結果、相討ちとなるものたちが多かった。

 張郃「何をしているの!殺してはダメと」

 藩鳳「この状態でそんなことできるかよ!」

 麹義「彼らを捕まえる前にこちらが全滅するのは必定」

 張郃「彼らは民なのよ!」

 高覧「これも戦場だ。こちらが死んでは元も子もない覚悟を決めるのだ儁乂!」

 張郃「!!!!わかったわよ。全軍、目の前の敵を駆逐しなさい」

 藩鳳「良し来た。全員、喉と頸を守りつつ向かってくる女兵士の動きをよく見て仕留めよ!」

 麹義「近付かれる前に弩にて、容赦なく射抜け」

 女兵士たちは、また1人また1人と討ち取られた。だが、張郃の姿がなかった。

 張郃「どうして君たちは戦う!」

 女兵士A「ウフフ」

 女兵士B「さぞかしつまらない男としか付き合ってこなかったのね」

 女兵士C「獄卒様の愛の鞭を受ければ、わかるわ。女の喜び。女の幸せが。全ての女は獄卒様という強い男の前に屈服するべきなのよ」

 女兵士D「貴方にも獄卒様の偉大さを教えてあげるわ」

 躊躇した張郃の腕と脚を斬りつける女兵士たち。

 張郃「うぐっ。力が抜ける。何をした?」

 女兵士A「ウフフ」

 女兵士B「私たちは全ての男を殺し、全ての女を獄卒様の下僕にするのよ」

 女兵士C「だるまにしても良いのだけど、それじゃつまらないでしょ」

 女兵士D「だからこの麻痺薬で、痺れさせてあげたわ。こうすれば動けないでしょ」

 張郃「私が躊躇したから。藩鳳と麹義だけでなく高覧の言葉で覚悟を決めたのではなかったのか。弱い自分が情けない」

 張郃が連れて行かれるかといったところで、女兵士たちを容赦なく貫く男の姿があった。

 高覧「儁乂をあの豚の下僕にするだと?変な言葉が聞こえてきたと思ったら。ってもう聞こえてねぇか」

 張郃「高覧、すまない。また、助けられたな。うぐぐ」

 高覧「おい(なんか今日の儁乂は艶っぽいな。何考えてんだ鎮まれ鎮まれ)肩貸してやるからよ。とにかく一旦退くぞ」

 張郃「趙雲殿も退いた今、私まで退くわけには」

 高覧「馬鹿野郎、殿がそんなことで怒る人間かよ。違うだろ。俺らの仕える殿は、誰よりも臣下の身を案じるそういう男だろ」

 張郃「そうだったな。高覧、私はどうやら動かない。お姫様抱っこを所望しても良いか?」

 高覧「なっなっなっ何言ってんだよ!らしくもねぇ。ほらしっかり歩け」

 張郃「手厳しいな。今なら私のことを好き勝手できるぞ」

 高覧「俺は強引は嫌なの。同意が良いのっていつも言ってるだろうが」

 張郃「そうだったな」

 高覧「いつのまにか男口調に戻ってるしよ。弱さを見せられねぇって気張ってんだろ。馬鹿」

 張郃「そうね」

 獄卒の配下の女兵士は全滅させたが張郃は麻痺して動けず、藩鳳隊と麹義隊においては、4分の3もの兵を失った。この戦いは、劉備軍の負けと言えるだろう。残った藩鳳隊と麹義隊の指揮権を夏侯蘭に任せ、高覧は張郃を抱えて、襄陽へと撤退することとなった。

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