合浦の戦い(急)

 予想に反して、一進一退の攻防をしている奴隷どもを見て、上機嫌で梓巫のことを辱めている慄苦と臆巣。

 慄苦「おぉ。ひんやりとしたかプルプルの唇がたまらねぇぜ。もっとその裏のところに舌を這わせんだ。だからそこじゃねぇって言ってんだろうが。ここだここ。あっ目が見えねぇんだったか。悪りぃな。ほらよ」

 慄苦は強引に梓巫の首の後ろを掴んで誘導する。

 臆巣「兄弟は容赦がねぇな。見えてねぇんだからよ。2人で穴として使えばいいってのによ。ほら逃げんじゃねぇ。俺のは刀流より大きいだろう?」

 梓巫「カハッ。ゴホッゴホッ。刀流様に手を出さないで、私が何でもしますから。刀流様を解放して!」

 慄苦「無理だなぁ。アイツは良い駒だ。事実、劉備軍と真正面から当たって、一進一退だ。いやぁ愉快愉快。自分たちを助けに来てくれた劉備を自分たちで苦しめてるんだからなぁ」

 臆巣「ギャハハ。違いねぇ。オラァ。もっと締めろ。この雌豚が!」

 梓巫「イタイイタイ。お願いだから乱暴にしないで」

 慄苦「なら口答えせずに言われたことだけをやれば良いんだ。オメェはもう刀流の妻じゃなくて俺たちの雌奴隷なんだからよ」

 臆巣「壊れるまで使い潰して、刀流のことなんて忘れさせてやるからよ」

 梓巫「うぅ(刀流様、どうかどうかはやまらないで、貴方様が死んでしまったら私は。私は)」

 その2人に忍び寄る男たちは皆、士祇軍の兵の服を着ていた。

 慄苦「ガハッ。なんでお前らが?」

 臆巣「兄弟!?お前ら反乱か?何を。ゴフッ」

 ???「道中で手に入れていた正解だったんだな。にしても俺、影薄すぎやしないか?」

 ???「そんなことはないですよ。韓当様が影が薄いなんてことは。なっお前ら」

 韓当兵B「そうですよ。そんなことはないっすよ」

 韓当兵A「ほらコイツもそう言ってますし」

 韓当「本当か?普通こんだけ近づいたら気付くと思うんだよな。誰も気付いてくれないんだな」

 韓当兵C「(えっいらしてたんですか?とは口が避けても言えない)」

 韓当兵D「韓当様、何処ですか。終わりましたよ」

 韓当兵A「馬鹿野郎!何してんだ!」

 韓当「俺の兵たちにも気付かれてないんだな。髪が無いのが悪いのか。のんびり屋なのが悪いのか」

 韓当兵B「この馬鹿が!韓当様がますます暗くなって、認識できなくなるだろうが!」

 韓当「認識できなくなる?それは嫌だな。良し、今日から明るく行こう。イェーイ、韓当だぜ」

 韓当兵C「俺が悪かったっす。そんな韓当様見たくないっす。お願いだから戻して欲しいっす」

 韓当「そうか」

 梓巫「クスクス。声だけしか分かりませんが緊張感のない人たちのようですし敵ではないとわかって安心しました。あの、刀流様の元に私を連れて行ってはくださいませんか?」

 声のする方を振り返った韓当は同意の後にびっくりする。

 韓当「わかったんだな。うっひゃー、こんな服があるんだな。まるで裸なんだな」

 韓当兵A「(鼻血たらたら)あっ、これよかったら」

 韓当兵B「(鼻血たらたら)お前ずるいぞ抜け駆けは!これ羽織ってください。俺がさっきまで来てたやつですけど」

 韓当「ダメなんだな。ちゃんとしたものを渡してやるんだな」

 渡された服を手探りで触りながら受け取り、慣れた手つきで着る梓巫。

 梓巫「みっともない姿を見せて申し訳ありません。捕虜となった時からこうなることは覚悟していたのですが刀流様のことを想うと申し訳ない気持ちでいっぱいで」

 韓当「にしても無事で良かったんだな」

 梓巫「あの、とても良い気をお持ちですね。何というか春の暖かさのような優しい気です」

 韓当「そんなこと初めて言われたんだな。部下にすら姿がわからないと良く言われるんだな」

 梓巫「そうなのですか?私には、ハッキリと気が見えるのですが。寧ろ、兵士さんたちの方がぼんやりですわ」

 韓当兵A「そんな馬鹿な!?」

 韓当「嬉しいんだな。では行くんだな」

 韓当たちは、本当に何もしていない。普通に裏から入り、城壁の上で高笑いしている声が聞こえて、それがたまたまこの合浦城の城主を務めていた慄苦と臆巣だったというだけだ。韓当の頭の薄さ。ゴホン。影の薄さが本当に都合よく都合よく発動したのだ。いや、本当はもっと影あるから。流石にこんなに薄くないから。ゴホン。そんな感じで、なんとも拍子抜けする形ではあるが合浦城は落城したのだった。そして、お互い抱き合っている2人。

 刀流「なんとなんと御礼を言えば良いかわからん。梓巫、すまない。あんな外道どもに穢ささてしまった」

 梓巫「いえ、刀流様が本当に無事で。怪我をなさっていますね?」

 刀流「隠せんか。民兵たちが馬鹿をしでかそうとしてな。助けようとしたらこの有様だ」

 孫堅「あの時は肝を冷やした。俺の剣の間合いに踏み込んできたのだからな」

 刀流「申し訳なかった。貴殿と刃を交えてわかったことがある。長沙の暴れん坊という言葉に聞き覚えは?」

 孫堅「!?なっ何のことかな。さっぱりわからんなぁ」

 黄蓋「殿の悪名がここまで轟いてましたか。ガッハッハ」

 程普「誤魔化せてませんぞ殿」

 刀流「やはり貴殿のことであったか。機会があれば一度手合わせをしてもらいたい。あの時は心が踊ったのだ。そんなに強い男が長沙ってところにいらなかと」

 梓巫「ほら、じっとしていてください」

 刀流「うぐっ。本当に目が見えていないのかと思うぐらい。お前の瞳は透き通っていて、惹きつけられる」

 梓巫「不思議なのですが刀流様のことだけはハッキリと見えるのです。身体の何処が弱いかとか。何処を怪我しているとか。色々と」

 刀流「わーわー。恥ずかしいことをいうな」

 孫堅「何処にいる男も妻という存在には弱いものだな」

 そして、もう1人再会を果たしていた。

 劉備「魏攸殿ではないか!」

 魏攸「劉備殿、お久しいですな」

 劉備「劉虞殿の件、惜しい方を亡くした」

 魏攸「その言葉だけで劉虞様も救われましょう」

 劉備「そうであれば良いが。ところで魏攸殿はどうしてこちらに?」

 魏攸「劉備殿も参加してもらって、ささやかには劉虞様のことを送れたのですが、やはり親戚にも知らせるべきだと思いましてな。幽州に向かおうとしたところ何故か交州に。やれやれ歳は取りたくないですな」

 劉備「そうでしたか。ですが確か、劉虞殿の親戚と言えば、丘力居殿が先日、連れてきていたような」

 魏攸「そうでしたか。それではそちらの方に」

 劉備「今度は付き添いましょう。私も劉虞殿には散々世話になりましたので」

 魏攸「そうですか。ならお言葉に甘えるとしましょう」

 劉備「是非」

 こうして合浦を落とした劉備であったが、未だ影響力を持つ士祇は徹底的に劉備の黒い噂を流し続けた。その結果、他のところでの劉備のイメージを回復させることはできなかった。だが頼もしい味方を得ることもできた。刀流が劉備に恩を返すため力を貸したいと提案してくれたのだ。頼もしい味方を加えて、劉備一行は合浦郡の南に位置する朱崖しゅがい郡へと歩みを進めるのであった。

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