下雉海上戦の進展

 江夏にある下雉では、孫権率いる呉水軍と劉琮率いる荊州水軍の睨み合いが続いていた。

 孫権「向こうはどんどんと船影が増えている。それにこの霧はなんなんだ。見通しまで悪くなってきている」

 呂蒙「荊州の気候は荒れると聞く。これもその一つなんでしょうな」

 凌統「にしても、どうするんですか?このまま睨み合いなんかしてても一向に孫策様と合流できないんじゃないですかね」

 顧雍「なら、この霧の中、突撃すれば良いと言うのか!それこそ大きな痛手となろうが!」

 蒋欽「そんな声あげて怒ってんじゃねぇよ政治しかできねぇ野郎が。引っ込んでろ!」

 吾粲「政治ばっかりで悪かったな。そちらこそ、何もわかっていないではないか!こんな見通しの悪い霧が出てるのだ。警戒するのは当たり前だろうが!」

 董襲「警戒、警戒ってうるせぇんだよ。相手がどんだけいようが突撃して全て海の底に沈めちまえばそれで終いだろうが!」

 闞沢「あれは、敵船?この霧の中、敵船が近づいてくるというのか。まずい。地の利は向こうにある。もしや、こちらの場所が手に取るようにわかっているのでは?」

 孫権「攻め寄せてくる敵船に急ぎありったけの矢を打ち込むんだ!」

 董襲「そうこねぇとなぁ。蒋欽、どちらが多く倒すか勝負と行こうや」

 蒋欽「フン、良いだろう。後で吠え面欠くなよ董襲」

 董襲と蒋欽の矢によって、敵船がこれはたまらないと逃げていく。

 董襲「ハッハッハ。俺に恐れを抱いて、逃げていったわ」

 蒋欽「何言ってんだ董襲。俺に恐れを抱いて逃げてったんだ」

 顧雍「おかしい。何かがおかしい。この霧、こちらは見通せてすらいない。相手は本当に見通せるのか?いや、攻めてきたことを考えれば見通せる何かあるんだろう。だがなんだ。このいいようのない不安は」

 周善「結局、お前らは何もしなかったよな。政治しかできねぇんだからよ。戦のことは黙って見とけってんだよ!」

 この顧雍の不安は当たっている。劉琮が何をしていたのか?それは、この霧の中、呉の水軍を奇襲するため。とある必要なものを集めるためだったのだ。

 劉琮「よしよし、濃い霧が出てきましたね」

 蒯越「まさか、劉琮様の読み通り霧が出ようとは」

 蒯良「どうして、今日霧が出ると?」

 劉琮「水蒸気と急な気温の低下、後はかきまわす程の渦巻いた激しい風、霧の発生の条件が整っていたんだよ。といっても、諸葛亮先生の受け売りだけどね」

 文聘「うおーん。うおーん。劉琮様が立派になられて、涙が止まりませんぞー」

 劉琮「だから、仲業、抱き付くな。涙を拭くな。服がビショビショにって、ひゃっ、そこは。こんの変態!」

 文聘「ふぎゃっ」

 蒯越「どうなされたのです劉琮様?胸に手が触れた程度で」

 劉琮「胸に手が触れた程度ですって?こんの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!船頭さんたちにこの霧の中、人の形をした藁草を付けた船を出すように伝えておいてよね!」

 劉琮は言うだけ言って、顔を真っ赤にして、突然走り出して、部屋へと閉じこもった。

 蒯良「一体、どうなされたのだ劉琮様は?頬を赤らめて、あれではまるで女子では?」

 蒯越「よくわからん?」

 文聘「!?俺としたことが劉琮様にひどいことを!」

 蒯越「どうしたのだ文聘」

 文聘「すっかり男らしくなられて忘れていた劉琮様はその言っていいのだろうか?いや、言うべきか?その、劉琮様は、えーっと男ではないというか。なんと言いますか。その。あー、まどろっこしいのは向かない、はっきり言う。女なのだ」

 蒯越「はぁ!?」

 蒯良「劉、劉琮様が女ーーーーー!?」

 船頭「劉、劉琮様が女ーーーーーーーーー!?」

 荊州水軍兵「劉、劉琮様が女ーーーーーーーー!?」

 文聘「劉、劉琮様が女ーーーーーーー!?」

 蒯越「お前が言ったのに何を驚いてるんじゃ!」

 蒯良「兄上、お待ちを。何故、文聘は劉表様も言ってないことを知っているんだ?」

 文聘「えーっと。話していいのだろうか?うーん、でも劉表様に誰にも言うなって言われたんだがな。うーん、でも、あー、まどろっこいのはやめだ。はっきり言う。よし、劉琮様が産まれて、5年ほど経った時のことだ。劉表様に呼ばれて、劉琮様の御守り役を仰せつかった時、初めてお会いした劉琮様は、髪の毛も今よりも長く、パンダが笹の葉食べてるぬいぐるみを抱いて、女性が着るヒラヒラしたような服を着ておられた。そして、隣にいた蔡嫉様に今日より劉琮様を男として、教育してほしいと」

 蒯越「そのようなことが。いや、確かに劉琮様は男というには、華奢のようだとは思っておった」

 蒯良「だとしたら女の身体で太守となり、水軍を率いようというのか?そのような危ないこと、誰が許可したのだ」

 文聘「殿だ。劉琮様は優秀だと。女であるから何だと言うんだと。それに自分の養子だから任命するということでもない。劉琮という1人の人間を見込んで太守に任命するんだと。だから文聘、お前は今まで通り劉琮のそばで支えてくれと。なのに、俺は皆の前で、劉琮様が女であることを知られるきっかけを作ってしまった。どう謝れば」

 一方、その頃部屋に閉じこもった劉琮。

 劉琮「まだ胸に仲業の感触が。みんなの前で驚いて、思いっきり頬を張り手しちゃったけど胸が高鳴ってて、恥ずかしくて逃げてきちゃった。仲業、怒ってないかなぁ。嫌われてたらどうしよう。コッソリ、伺おうかな。あれっ船頭さんと水軍のみんなが何か言ってる?私が女だって、バレてる!?ど、ど、ど、ど、どうしよう。仲業が話したの?嫌い嫌い嫌い大嫌い、、、、でもやっぱり好き。どうしたら良いのーーーーー」

 というようなやりとりがあったとか無かったとかあったとか。こうして、霧の発生を呼んだ劉琮によって、奇襲をかけるために必要な弓矢の調達をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る