公孫瓚の思惑

 義賢が公孫瓚と劉備が作戦会議をする陣幕に呼ばれたのは盧植の病が治った直後であった。公孫瓚は軍師である盧植、参謀の高誘、客将の劉備と共に反董卓連合に加入するにあたり参戦が不透明な韓馥・劉虞への備えを如何にするかの協議を行なっていた。その場に義賢が呼び出されたのだ。


 義賢「失礼致します」


 公孫瓚「よくきてくれた劉義賢よ。先生の病のこと助かったぞ。韓馥と劉虞に関して其方の意見を聞きたいと思ってな。呼んだ。遠慮なく言ってくれ」


 義賢「では、僭越ながら劉虞に関しては戰をするべきではありません。むしろ取り込むべきです」


 盧植「うむ。ワシもそう思う」


 公孫瓚「帝を僭称する族を取り込むだと解せぬ」


 義賢「いえ、劉虞は皇族です。皇族に対して、討ち取ったなどとなればこちらが人心を失うだけでしょう。揉めることを避け、仲良くすることができないのなら取り込むべきです。それに公孫瓚殿の敵は劉虞でも韓馥でもないのではありませんか?そうですね袁紹だったりして」


 公孫瓚「!?。ワハハハハハ。実に面白い男じゃ。劉備の弟で無ければワシの家臣に取り立てたいところじゃ」


 劉備「兄弟子殿!?」


 公孫瓚「劉備よ。安心せい。そのようなことはすまい」


 義賢「話を戻します。韓馥も反董卓連合の加入を悩んで一旦待っているのです。それは何故か?自分が表立って参加したわけではないと圧力に屈したのだと思わせたいからです。あの男は小心者ゆえ反董卓連合が万が一負けた場合の可能性も視野に入れて1番被害の少ない位置にいようと考えているのです。その男を屈服させるのは簡単です。力と圧倒的兵力を見せてやれば良いのです。そのためにも劉虞の軍を取り込むのは、必要不可欠でしょう」


 盧植「うむ。韓馥の領土と劉虞の領土を手に入れられれば河北制覇を虎視眈々と目論んでいる袁紹を牽制できるかと劉義賢殿の策は的を得ていますな」


 公孫瓚「先生もそう言うのであれば、間違いはあるまい」


 高誘「でもよ。どうやって劉虞を取り込むんだ?皇族ってことはよ。プライド高いんじゃねぇのか?」


 公孫瓚「ここに漢室に連なるのに飄々としている弟弟子がおるがな」


 高誘「成程」


 劉備「兄弟子方、待ってください!?まさか説得は俺にやれと」


 公孫瓚「これ以上の適任がいるか?」


 高誘「いませんな」


 盧植「うむ。劉備なら劉虞を説得できるやもしれん。昔から人を惹きつける魅力は人一倍であったからな」


 劉備「先生まで!?失敗してもお咎めはなしでお願いしますよ」


 公孫瓚「うむ」


 こうして義賢の劉虞を取り込んだ方が良いとの案を受け、説得の適任に兄である劉備が選ばれたのであった。


 劉備「全く、丁のせいで、酷い目にあったぞ。一体どうやって劉虞殿を説得するべきか?」


 義賢「劉虞殿の説得なら簡単ですよ」


 劉備「!?。丁、詳しく教えるのだ」


 義賢「そんなに肩を掴んで振らないでください兄上」


 劉備「すまない」


 義賢「劉虞殿も内心では朝廷への忠誠心を示したいのです。ですがその朝廷を保護しているのが董卓です。それゆえ反董卓連合に加入することは、朝廷への反逆になると自制しているのです」


 劉備「それの何処が簡単なのだ」


 義賢「わかりませんか?反董卓連合に加入する面々の全てが董卓を討伐したいと思っているのでしょうかねぇ。俺はね。思惑のない連合はないと思っているんですよ。実際董卓の治世は悪いですがそれは族上がりのものどもによるところが大きい。実際董卓だけ見るのなら討つほどではないでしょう」


 劉備「何を言う。女を宮中に呼び宴会三昧で、旦那のいる女でもお構いなし。挙げ句の果てにはその旦那の首を刎ねたとも聞く。どう考えても悪逆非道の所業であろう」


 義賢「兄上は片方の意見にしか耳を傾けられない人ですね。では董卓に囲われた女から嘆願書はあったでしょうか?」


 劉備「!?。そんなの董卓を恐れて出せぬだけであろう」


 義賢「その可能性ももちろんありますが。別の見方もできるでしょう。董卓が旦那のいる女を助けた」


 劉備「何を言う。旦那のいる女に何があったというのだ」


 義賢「旦那による暴力ですよ」


 劉備「!?。そんなの推察ではないか」


 義賢「えぇ、ですが董卓は宮中に呼んだ女を一糸纏わぬ姿にしたと言います。それだけ聞けば悪逆非道な行いに映るでしょう。ですがその目的が身体に暴力痕のある女性を見つけ、助けることだったとしたら。その旦那の首を問答無用で刎ねたこともその女性を助けるためであったとしたら」


 劉備「全ては推測ではないか。確信がない」


 義賢「えぇ、ですが偏った見方をしていては、見えないものもあるということです」


 劉備「では、反董卓連合とは一体何のための連合なのだ」


 義賢「朝廷の権威の失墜を明らかにし、諸侯が成り上がるための楔です。それゆえ、公孫瓚殿も河北の情勢を有利にするべく反董卓連合を利用していたでしょう」


 劉備「兄弟子が!?」


 義賢「韓馥殿は反董卓連合への不参加を理由に攻め落とし。この機に劉虞殿まで亡き者にしようとしていました。とても信頼に足る人間ではないでしょう。私利私欲で動くのならこちらもそれを利用して兄上の地位を優位にするのみです」


 劉備「まさか、話をしただけでそこまで考えたのか?」


 義賢「えぇ、俺は兄上のためにならないことはしませんから。劉虞殿の説得に関しても韓馥殿を攻めることに関しても兄上にも一定の利害があると判断したのです」


 劉備「丁、わかった。では劉虞殿の元へ参るとしよう」


 義賢「はい」


 この時の韓馥軍には確か優秀な軍師や将軍が居た。兄上に天下を取らせるための貴重な戦力を公孫瓚軍に迎え入れて口説くのも良い。靡いてくれれば儲けもんなのだから。今は寄る地も持たぬ兄上だが俺は知っている。兄上がいずれしょくという一大国家を築くことを。だが強国であるに勝てなかったことを。勝つためには魏に居た優秀な軍師や将軍に勝てるだけの戦力が必要なんだ。魏に行きそうなものでも引き抜ける可能性があるのならどんどんやっていく。そのためにも先ずは劉虞の説得を成功させなければならない。そう決意を固める劉義賢であった。

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