書籍第2巻発売記念SS(3)

『植物魔法で気ままにガーデニング・ライフ2~ハクと精霊さんたちの植物園~』

 2024年11月15日発売いたしました。

 記念SS第3弾はちょっと長めです!

 これで終わりですよ~( ´艸`)



 ◆◇ ラビラビさんの研究 ◆◇


 ハクとバートンとメエメエさんが、地下熟成庫をあとにして、上階へ戻っていく背中を、ラビラビさんは真っ白な手をフリフリしながら見送った。

 彼らが見えなくなったあとも、しばらく廊下の真ん中でポツンと立ち尽くしている。

 無表情な白兎さんは、徐々に口元がニヨニヨし出した。

 それからクルリと振り返って、地下倉庫に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。


「やりました! 名前をもらいましたよ! ラビラビさんです! 魔力が増幅しました!!」

 兎だけに、廊下をピョンピョコ飛び回り、全身で喜びを表していた。

 熟成庫の中で働いていた、ミディ(中級精霊)ちゃんたちが飛び出してきて、みんなでラビラビさんを讃えている。

 実はこのミディちゃんたちは、今までのハクの無茶な要望に、一緒に立ち向かってきた同士なのだった。

 苦楽をともにしてきた仲間だからこそ、ラビラビさんのパワーアップを素直に喜んでくれている。

 精霊さんたちは基本全員、無垢っ子なのだ!


 飛び跳ねて天井に頭をぶつけたラビラビさんを、みんなは温かい眼差しで見守っていてくれた。

 ラビラビさんが床にうずくまって悶絶しているのは、自業自得だから仕方がないよね。



 さて、名前をもらって魔力が増幅したラビラビさんは、ますます研究に没頭した。

 メエメエさんから押しつけられる無理難題にも、サクサク対応できるようになっていった。



「お豆腐を作ってください! これは岩塩採掘場から転送されてきた岩塩です。これでなんとかしてください! あと、一緒に岩石やらも届いているので、成分分析をして活用できるものは有効利用してください!」

 自分の言いたいことだけ言うと、こちらの返事も聞かずに、メエメエさんはとっとと戻っていってしまった。


「毎回簡単に言ってくれますね! 私の苦労も知らないでッ!!」

 ラビラビさんはメエメエさんがいなくなった空間に向かって、トルネードキックを放っていた。

「おのれ! 黒羊のサンドバッグでも作りましょうかッ!」

 ラビラビさんの恨みは深い――――。


 さて、豆腐を作るためにはにがり(塩化マグネシウム)が必要だ。

 ラビラビさんはひとつうなずくと、ゴーグルを装着して作業に取りかかった。

 メエメエさんが置いていった巨大岩塩の塊を用意すると、それに向かって採掘ハンマーを振り下ろす!

 気合いを込めて打ち込むべし!


「テヤァ! とりゃぁ! オラオラオラァッ!?」

 ガンガンガンガン! 

 滅多打ち!!


 凶器を持つとひとが変わるのか、日頃の鬱憤を晴らすべく、魔力を込めてハンマーで打ち砕いていく。

 飛び散る岩塩を遠巻きに眺めているミディちゃんたちは、粉砕作業が終わるやいなや、ホウキとチリトリを持ってテキパキと集めていた。

 手元の岩塩を砕き終わると、ラビラビさんは満足そうに笑っている。

「いいストレス発散になりました!」

 腰に手を当て、満面の笑みを浮かべながら、額の汗をぬぐっていた。

 兎は汗をかかないので、実際はただのパフォーマンスだけど。


 岩塩粒を集め終えたミディちゃんたちに、次の作業を指示する。

「その岩塩をさらに細かく砕いて、さらし布に包んでください。湿度高めの、時間巻き巻き部屋にでも吊るしておけばいいでしょう。下にお皿を置くことを忘れずに。――適当に放置しておけば、多少はにがり成分が滴り落ちるでしょう」

 岩塩はミネラル成分が少ないので、大量の岩塩を細かく砕いて、複数個吊るしておいた。


 忘れたころに行ってみると、少量のにがりがお皿にたまっていた!

 こうして、ラビラビさんは岩塩からにがりを採取することに成功したのだった。



 さて、豆腐の材料は大豆。

 これを水に浸けてひと晩ふやかしたら、ミキサーの魔道具ですり潰す。

 お鍋に倍量の水を入れて沸かし、それにすり潰した大豆を混ぜて、弱火で八分煮込む。

 ラビラビさんの研究室で働くミディちゃんが、焦がさないようにグルグルとしゃもじを回していた。

 それからおよそ八分。

 さらし布でこして、おからと豆乳に分ける。

 うっかり火傷しないように注意して、作業を進めるミディちゃんの額に、本物の汗がにじんでいた。

 

 豆乳の温度が少し下がったら、そこへラビラビさんが少量のにがりを回し入れる。

 温度が高いと湯場ができるけど、それはそれで食べればいいと、ラビラビさんは適当に考えていた。

「分離するのを確認します!」

 ラビラビさんとミディちゃんが、お鍋の中を真剣にのぞき込むこと数分。

 無事に分離が確認できた。

「よさそうですね!」


 そのままフタをして十分経ったら、小さな穴がいくつも開いた容器に、さらし布を引いてその中に詰めていく。

 平らになるように押し入れて、あとはそのまま放置すればいい。

 水切れしたものをスプーンで食べてみれば、初めて作ったにしてはおいしいと思った。

 とはいえ、これで満足しているようでは研究員の名が廃る。

「ふむ、何度か試作を重ねてみましょうか……」

 ラビラビさんがレポートをまとめているあいだに、残った豆腐はミディちゃんたちがぺろりと食べ終えていた。


「…………」

 振り返ったラビラビさんの眉間に皺が寄っていたらしい。

 とりあえず、残ったおからでドーナツを作ってみんなで食べよう。

 開発研究者の特権だよね!



 それからというもの、豆腐作りに精を出すミディちゃんたち。

 おぼろ豆腐、絹ごし豆腐、木綿豆腐を完成させ、さらに木綿豆腐を乾燥させて凍らせた凍み豆腐を作った。

「よし! 次は油揚げです! 揚げるときは注意してください!」

 ラビラビさんの指示で、ミディちゃんが完全防備で油鍋に向かった。

 油揚げ、厚揚げ、がんもどきができたころには、揚げ物名人となって、温泉のお食事処に配置転換されたそうだ。

 ひとりのミディちゃんが、その道を極めようとしていた!


 そんなわけで、お食事処のメニューに豆腐料理が加わった。

 豆腐の味噌汁に涙するハクの姿を見て、お食事処の調理担当ミディちゃんが燃えた。

 みそ味の鍋には料理人のジェフが飛びついて、いろいろなレシピを学んでいったらしい。

 こうして、ラドクリフ家の食卓に徐々に和食が普及していったのだった。

 今では白米も普通に食べられている。


 おからドーナツはマーサとリリーのお気に入りになっていた。

「おからは身体にいいよね。あれってダイエット食だっけ?」

 と言った、うっかりハクの一言が原因だった。

 豆腐を使ったデザートといえば、豆腐のカスタードプリンに豆腐シフォンケーキなどもある。

 普通におやつで食べてもおいしいので、ミディちゃんたちの大好物になった。

 酒呑みの大人たちにも好評で、冷ややっこと枝豆がおつまみの定番になっていた。

 白和えなども好まれたとか。


 そののち、岩塩採掘場で天然にがりが発見され、さらに植物園が海につながることによって、にがりも安定供給できるようになってゆく。

 こうしてハクの植物園は、徐々に豊かさを増していくのだった。


 一件落着と、次の研究に取りかかろうと席を立ったラビラビさんの元へ、黒い影が近づいていた。


 研究室の扉がバーンッと開け放たれる!

 ラビラビさんとミディちゃんたちは、ビックリしてその場で固まった!

「至急、川エビ養殖用の、超栄養価の高い水草を開発してください!」

 黒羊が遠慮もなく、飛び込むと同時に叫んだ!?


 ラビラビさんは反射的に飛び上がる!

 ダンダンダンッ! 

 三段跳びで加速すると、床を蹴って大ジャンプ! 

 両足をそろえて超高速で黒羊めがけて飛んでいった。

 黒羊のメエメエさんのお腹に、両足トルネードキック! が、ひねりを加えて食い込んだ!

「ゴフゥッ!!!」

 メエメエさんは身体をくの字に追って、ものすごい勢いで扉の外に消えていった!


「総員! ただちに研究室のドアを閉鎖――ッ!?」

 ラビラビさんが着地と同時に絶叫した!

 ワラワラとミディちゃんたちが動き出し、扉も木窓も鍵を閉めて完全に遮断する。

 ここでは間違いなく、メエメエさんは嫌われ者だった――――。




 ◆◇ おまけ ラビラビさんとアルじーじの出会い ◆◇


 岩塩採掘場で実験を終えてから、シュワシュワの水を求めて南の森を探索していた、アルじーじとジジ様一行が戻ってきた。


 一行がのんびりと休息を取ったそのあとで、アルじーじに新しい精霊さんを紹介しよう。

 白衣を着た白兎の研究員、ラビラビさんだよ。

「アルじーじ、こっちが新しい精霊獣のラビラビさんね。肥料から始まって、お味噌やお醤油を開発してくれたんだよ!」

「初めまして、ラビラビと申します。ハク様の植物園で物作りの研究をしています。以後お見知り置きください」

 真っ赤なお目目がチャームポイントの、体長五十センテの真っ白兎さんが、ぺこりとお辞儀をすれば、アルじーじも真顔でお辞儀を返していた。


 いつもだと笑ってフレンドリーに接するはずなんだけど、今日はなんだかおかしいねぇ?

 首をかしげる僕と精霊さんたちの横で、アルじーじはラビラビさんと固い握手を交わしていた。

「やぁやぁ! 君がハクの植物園を陰から支える精霊さんだね! あのミソスープは絶品だったよ! 私も賢者などと呼ばれている、一介の探究者なのだ! 君からも多くを学ばせてもらいたい! よろしくお願いするよ!」

 言動はいつもどおりハイテンションだった。


「こちらこそ、今後はさまざまな分野で、ご協力いただければうれしいです」

 ラビラビさんは普通に対応していたけれど、それから二言三言重ねるうちに、すっかり意気投合したみたい。

 研究者と探究者で、通じるものがあったんだろうね?

 なんだか難しい話を始めてしまったので、僕は精霊さんたちとその場を離れ、植物園に遊びに出かけた。


 その後、数々の門外不出品が生み出されていくことになるんだよね!

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