ゆらぎの国のクロ
難波とまと
第1話 刻《とき》持ち
ここは”ゆらぎの国”。
お金が存在しない国、価値の評価は時間。
善いことをすると時間が増え、善くないことをすると時間が減る世界。
≪事件発生≫
うっすらと朝霧がかかる川辺に二人、男性と女性がの姿が浮かび上がる。しばらくして、女性は倒れ、男性が走り去った。
昼になり、川岸をジョギングしていた夫婦が川辺で血を流している女性を発見し、小さな町は騒然となった。亡くなった女性の年齢は20~40歳、事故か事件か? 町では珍しいことでもあり、地元の警察、住人は動揺を隠せず、女性の話は1日もたたずに町中に知れ渡っていった・・・
≪少し時間は遡り、事件当日の朝≫
「やっと着いた!」
クロは電車から降りた。周囲を見渡すと森が色づき始めている。ハイキングに向かう人々と共に改札を出て地図を確認しながら歩いていると女性が追いかけてきた。
「待って、待って、待つです!!」
カスミが追いかけてくるのをみて、クロは頭をかきながら待っている。カスミは探偵をしているクロの助手として働いているのだが、そそっかしい部分があって、今も駅を出たときに手袋を落としてハイキングに来た人に拾ってもらっていた。
『親切にすると翌日の時間が増えるため優しい行いを見かけることは多い。いや、ハイキングする人は皆さん優しい気もする。』
とクロは遠めに見ながら手袋を拾ってくれた方に会釈をする。
「クロ、今日はどこに行くのです?」
追いついたカスミが唐突に聞いてきた。そういえば目的の場所を伝えていなかった。クロは探偵の依頼が無くても、ほとんど事務所には居らず外に出かけることが多い。
今日は泊まりで出かけているのだが、気軽に出かけるスタイルに慣れしまい、出かける前に予定をカスミに伝えていないことを思いだした。
「今日は和菓子を買いに行こうかと思って」
とカスミにお店の場所を伝える。
「・・・遠い・・・です。」
「遠いかな。まあ、ゆっくり歩いて行こうか。こうやって、街、景色を見ながら、そこに住んでいる人の生活を感じるのも、探偵にとっては役に立つもんだよ」
「ふぅ。・・・私、
歩くのが疲れたのか、ふてくされてカスミがボヤいている。
「
「
「すごい妄想の爆発・・・。
この国では”有難い”、”感謝”が見えない通貨となり、翌日に自分の”時間”として体内に支払われて返ってくる。時間を長くする方法、そんなことはみんな知っており、当たり前のことを言っていることはわかっている。
「実は私、昨日、いっぱい感謝してもらったんです。だから今日は時間が長いんです。いいでしょー。後で動画をたくさん見よっと。」
と妄想が止まらない。
『貯められる通貨があったらいいのに』
カスミの妄想を聴いて、クロはそう考えていると。
「あっ、ありました。水ようかん屋さんです!」
とカスミが目的の和菓子店を発見した。
「このあたりでは丁稚羊羹って言うみたいだよ。夏場に食べることが多い水ようかんと違って、寒い時期のお菓子だね。このお店は一品のみの取り扱いで、夏場はお店閉まってるって。開いたのは今日からだよ。」
掲示を見ながらクロが話す。お店を出ようとすると
「川で女の人が死んでるって!」
そう言いながらお店に入ってくる人とぶつかった。
クロとカスミは目を合わせる。
「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」
「OKです!」
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