⒋ 分目(2) 突然の誘い

 入学式から三日後。


 そろそろ悠人にも学校での友達ができ始め、青春を謳歌おうかしたい男子達の間では布都部ふつべ高校に在籍ざいせきする女子高生達の話題で持ちきりだった。


「未予さんってなんつーか、一見どこにでもいるごく普通の女子高生って見た目をしているけど、案外そこが可憐かれん洒落しゃれっ気がないからこそ、その自然体がしんに女としての魅力みりょくが伝わってくるっていうか。

 まあぶっちゃけ、可愛いよなぁ~」


 クラスのムードメーカーのチャラそうな一人の男がそう言うと、その周りのいた男子達が同時に相槌あいづちを打つ。ただ一人、悠人を除いて。


「はぁ?あいつのどこが可愛いんだよ。どこか人を馬鹿にするようなこと言うわ、人の名前は覚えようとしないし」


「お前なあ、その発言は多くの男子生徒を敵に回すようなものだぞ。

 というか、その未予さんと最近一緒にいることが多いってうわさされてるけど、お前らってぶっちゃけどんな関係なのさ?

 もしかして付き合ってるとか………」


「ほんと、それはマジ無いから」


「こんなにも躊躇ちゅうちょなくキッパリと否定するとは………。

 じゃあそこまで言うなら聞くけどよ、ズバリお前が一番好きな女は一体誰なんだ?教えろって」


「そりゃあ、我が妹一択で決まりだよ」


「うわぁ、シスコンかよ」


「そんなこと言うくらいなら、証拠見せてやるさ。確か最近パジャマ姿で自撮りした写真を俺の携帯端末にアップしていた筈……あっ、これこれっ!

 いやぁ~、昨日未予に充電していなかったことで怒られてしまったから、その反省をまえて充電しておいて良かったよ。

 ……って、ちょっ、タイム!みんな寄ってたかって見たら、俺が押しつぶされて………うわぁあああああぁぁぁぁ――――ッ!」


 周囲を男子達は悠人の言葉に聞く耳を持たず、空中投影された紫乃の写真見たさにぞろぞろと人が彼の元へと押し寄せていった。


「うひょ~、マジかよ。正直お前の妹なんて言うほどあれなんだろうとか思っていたけど、こうして見ると確かに可愛いな。

 そうだ!この写真を俺らの端末にも送ってくれないか?頼むよぉ~~」


「駄目に決まってんだろうがッ!ってか、見たなら早く離れろお前らぁあああああぁぁぁ――――ッ!」


「いやいや、そこですんなりと退いてしまうのはつまらないっしょ?

 だ・か・ら・さ。ここはまず、お前の妹に電話して写真の許可が得られるかどうか聞いてくれよ。

 本人の了承りょうしょうが得られれば、お前にどうこう言われる筋合いは無いってものだろう」


「その理屈りくつは間違ってるだろうがッ!」


「そんなこと言ってないで、早く電話しろよぉ~~」


「駄目なものは駄目だ」


 それもそのはず。これは兄のプライドに掛けて妹を守る義務があるのだ。


 だがこの状況を打破する手を一つも持ち合わせていない。


 一体、どうすれば………。彼が困っていると、は突然現れた。


「目崎さん、探しましたよ。ほら、どいたどいた。さて、一度ここを出ましょう」


「えっ?あっ、ああ………」


 彼はであるにも関わらず、今はこの押し潰された状況からのがれたい一心いっしんで思わず彼女に誘われるがままに二人で教室を離れた。


「えっと、良く分かりませんが、さっきは助かりました」


「あっ、良いんです、良いんです。……本当はああいう男子共は消してやりたいのですが」


「後半、なんて言ったんだ?」


 小声で何やら物騒ぶっそうなことを口にしていた少女であったが、悠人の耳には聞き届いていなかった。


「いえ、なんでもありません。それよりも突然で申し訳ありませんが、目崎めざき悠人さん。貴方を神眼者しんがんしゃとお見受けして頼みがあります。私と手を組みませんか?」


「へっ?」


 これが神眼者プレイヤー-『裏目魔夜うらめまや』との出会いであり、その日をさかいに――、彼はクラスの男子達の絡みを避けるように、常に一定の距離を置くことを心に誓うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る