第十三章 対決

60本目

 馬車から外の様子をこっそり覗き見る。やって来た馬車がこちらに気付くとゆっくりと速度を緩めて止まった。


 これは異様な光景だと思う……手前に子供、その奥に横付けの馬車……どう見ても普通じゃ無い。


 馬車から武器を持った男が二人、それに続いて気難しそうな顔のおじさんが出てくる。

 最初の二人は護衛なのか前方に立つと、その後ろのおじさんは警戒をしながらドランに話しかける。


「子供がここで何をしている、後ろの馬車は何だ?」


「要件なんかわかってるんだろ? 王子様を返せよ誘拐犯」


 そのセリフを聞いた途端に護衛の二人が武器を構える。片方は剣を、もう片方が杖を……魔法を使うのかも?


「何処でそれを……お前、ただの子供では無いな?」


「おお、その反応は大当たりだな。さすがアーリャの読み通りだ」


 その言葉を聞いたわたしはジョブの力を使い馬車の後ろを木で塞いだ。それに気付いたおじさん……もう犯人は決定だから誘拐犯……は驚いている。


「これは……罠に嵌められたと言う事か。王族達は平和ボケしていたかと思っていたが、まさかこれ程の早さで手を打ってくるとは……」


「ごちゃごちゃ言ってないで王子返せよ」


 ドランはあくまでマイペースに答えている。


「しかたない、れ……子供だからと言って容赦するな」


 誘拐犯の命令を聞いて護衛剣士はドランに向かって走り出し、護衛魔法使いは杖を構えて魔法の詠唱を始めた。


 その刹那、魔法使いの肩に矢が突き刺さる……オーレスさんが屋根から弓を射ったのだ。護衛魔法使いは溜まらず杖を落としてしまった。


「くっ、伏兵がいたか……何とかしろ」


 誘拐犯は狙撃を恐れて馬車の陰に隠れ、護衛剣士は疾風の如くドランに斬りかかる。その剣をドランは木刀で受け止めた。護衛剣士は真剣が木で出来た剣に受け止められた事に驚き、ドランの木刀を二度見している。


「僕が神聖付与魔法をかけた木刀ですよ……切る事なんて不可能です」


 馬車の陰から自分の魔法の効果を確認して得意げなケニー……確かに凄いけど相手には聞こえていないからね。


「それじゃ俺も行くぜ!!」


 ドランが護衛剣士の剣を押し返すと、もの凄い低い姿勢で相手の側面に回り込むと目にも止まらぬ速さで木刀を繰り出した。

 護衛剣士はドランを見失ったが反射的にその攻撃を受け止める……なかなかの使い手なのかもしれない。


「へぇ、やるじゃん、ならこれはどうだ!!」


 護衛剣士の剣を往なすと次々と攻撃を繰り出していく。相手も負けていない……剣を受け止めながらも反撃を繰り出すがドランは身軽な身のこなしで飛んでしゃがんで相手の攻撃を回避していった。


「こんな子供がこれだけ使うなどありえん!!」


 ずっと無言だった護衛剣士も子供にしか見えないドランの実力に思わず声を漏らす。1分ほど息もつかせぬ攻防が続いた後、ドランが間合いを離して剣を構えると……


「特別に見せてやる……【疾風】!!」


 ……その途端にドランは剣を振り上げた姿勢で護衛剣士の背後に立っていた。え? なにその漫画の必殺技みたいなの?


 どうやら目にも止まらぬ速さで護衛剣士を攻撃したみたい。声も無く倒れる護衛剣士……それを見てドランは呟いた。


「……またくだらぬものを切ってしまった」


 目を閉じながらの決め台詞……だから、木刀だから切っていないよ。

 でも凄い、サムライのジョブのスキルなのかな? 護衛の魔法使いの方も肩と太ももにオーレスさんの放った矢が刺さっていて膝を着いている……残りは誘拐犯だけだ。


「くっ、かくなる上はこれを使うしか……」


 なにか奥の手を使おうとしているみたい……嫌な予感がする。


「ドラン、急いで誘拐犯を!!」


「おう、任せろ!!」


 急いでかけていくドラン、だけど馬車の陰に立っていた誘拐犯のいる辺りから妖しい紫色の光が放たれるとそこから何かが飛び出してきた!!


『ガルルルルルルルルッ……』


 黒い大きな狼!? そこには馬車よりも大きい魔物が現れた。


 大昔に戦争で使われていた魔物を使役する魔道具があるって話を聞いた事あるけど……まさかそれなの!?




 ……あと一歩という所で、まーくんの前に黒い狼が立ち塞がったのだった。




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