第64話 正体

 扉の向こうに「彼女」はいた。


 地べたに座っていたけど、背はワタシと同じくらいに見えた。小さい男の子みたいに髪は刈り込まれている。汚くはないけどくたびれている黄ばんだ服を着た、やせ細った少女の姿がそこにはあった。


 少女はどこからどう見ても「人間」だ。神様がどんなか知らないけど、この子が「神様」ならワタシだって神様名乗ってやるよ?



◇◇◇



 ノワちゃんが連れ去られたと知った時、ワタシは女神ソフィア様を頼った。ワタシの問い掛けに答えてくれた女神様だけど、その時疑問に思ったことがある。


 なんていうか、「女神様」ってなんでもお見通しで話してくれると思ってたけど、その返事は勉強を教えてくれる「先生」みたいだった。


 思い切って「女神ソフィア様は何者ですか?」って聞いたら「わからない」って返事が聞こえた。



 それから、ワタシは女神ソフィア様とお話をするようになった。怪しまれないように、毎日ちょっとだけ質問をして「彼女」について知ろうとした。

 他にも歴代の聖女様、聖ソフィア教団の歴史を調べて、女神様の正体を探った。


 過去の聖女様にはまったく共通点がなかった。


 最初はそんなもんか、と思っていたけど、後から別の発想が浮かんできた。「共通点がない」のに理由があるんじゃないかって……。


 女神様からはなにも話してくれない。ただ、問いかけには応えてくれる。そして、ワタシはある日、こう尋ねた。


「女神ソフィア様は、外へ出たいの?」


 彼女は「ここから出たい」と言った。



 女神様は、この言葉を投げかけてくる聖女を待っていたんじゃないかな? だからばらばらの女性を「聖女」として選び続けたんじゃないの?


 普通に考えるとおかしいところはたくさんある。女神様が普通の人間なら、何歳なんだよって話になるし、ずっとここにいるんならなんで聖女を選べるんだよって話にもなる。


 だけど、ノワちゃんの居場所について聞いた時の答えをワタシは思い出した。


 女神様ってひょっとして、この大神殿にある入信者の情報や日々のお悩み事といったあらゆる情報をもっているんじゃない?


 何年生きてて何歳かわかんないけど、わけわかんないくらい膨大な情報の蓄積から「最適解」を導ける人なんじゃないかなって……?



 女神様が望んで、ご神託をくれていたのならそれでいい。だけど、「ここから出たい」ってことは、やらされてるんだよね?


 この国のみんなのお悩みを聞いて解決し続けた女神様だ。なのに、女神様の願いを聞いてあげないなんて不公平だよね? ワタシが聖女に選ばれた理由がこれならやらなきゃいけない。



 お部屋でノワちゃんとふたりきりのとき、思い切ってこの話をしてみた。


 女神様をここから外へ出すにしても、ワタシ1人で、この頭じゃどうしていいかわかんない。ワタシが力を借りれるとしたら彼女しかいなかった。

 そして、ノワちゃんがもしこの話を信じてくれなかったり、協力できないって言われても……、ノワちゃんが無理だったら誰だって無理だと思えるんだ。



 そしてノワちゃんはワタシの期待を裏切らなかった。


 女神様が、多分人間で大神殿の外へ出たがってる、その手助けをしたい……、こんな話をあっさり信じてくれて知恵を絞ってくれた。


 やっぱ最高だぜ、ノワちゃん!



 ノワちゃんの「大神殿で迷子作戦」のおかげで、女神様が閉じ込められていると思う場所へ続く「道」だけはわかった。元々は隙を見て侵入しようて話してたんだけど、やっぱり警備がきついのなんの。


 結局、いろいろと考えて女神様の居場所と思われる場所の警備が一番緩むのは、「ご神託」のときだとわかった。そりゃ聖女が話聞いてんだから、逃げ出すわけないもんね?



 ――と、考えた末に本日、女神様救出作戦を実行に移したわけ。


 ノワちゃんの殺人ビンタがサフィールに決まるとは思わなかったけどね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る