第8章 揺れる心

第50話 秘密

「パーラ様、なにか良いことでもあったのですか?」


 ご神託の聞き取りを終えて、部屋に戻るワタシにサフィールが問い掛けてくる。


「いんやー? 別に、いつもの可愛いパーラ様だけど?」


 サフィールはワタシの顔を少しの間じっと見た後、首を捻ってから前を向きなおした。こいつマジで殴ってやろうか?


「以前はあれほど嫌がっていたご神託に、最近はずいぶんと前向きに赴いているようですから」


「ワタシだってそれなりの期間やってりゃさ、としての自覚も出てくるわけよ、ご理解頂けますか、サフィールさまぁ?」


 あえて憎たらしい言い方をしているのにサフィールは表情ひとつ変えやしない。ノワちゃん、マジでこいつの魅力教えてくれよ?


「国や教団の歴史、制度についてのお勉強もずいぶん熱心にされているそうですね? もしやノワラ様に聖女の座を奪われてしまうと焦ってらっしゃるのでは?」


 珍しくサフィールが冗談とわかる口調で話をしている。


 たしかに、ここ最近はお部屋に教団のさまざまな資料を持って来させて読み漁っている。大神殿の中でも一部の人たちから、「パーラ様が心を入れ替えられた」と噂になっていると聞いた。


 ノワちゃんが連れ去られた件がきっかけになったのは事実だ。ワタシの身代わりになって危険な目に合ってしまった。それなのに今でも影武者を続けてくれている。

 もちろん、教団からの報酬とかサフィールに会えるとかノワちゃんなりの事情もあるかもしれない。それでも、傍にいてワタシを支えてくれているノワちゃんにワタシは、ワタシなりのやり方で応えたいと思った。


 それは、誰が見ても――、ノワちゃんから見ても立派な「聖女」になることだ。このワタシがこんなマジメくさい考えをするなんてホントに驚きだ。一緒に過ごしている時間とともにノワちゃんの影響を受けているのかな?



「ノワちゃんが聖女様の役目を全部代われるんならその方がお国のためかもね? だけど、現実として『ご神託』を聞けるのはワタシなわけじゃん? ノワちゃんがいる分、今までの聖女様より絶対楽できてんだから、ワタシももうちびっとくらいがんばんないと、って思ってるわけよ?」


「良い心掛けだと思います。是非ともお言葉使いから優先的に学んでいただきたいものですね?」


 サフィールの話はいっつも「お言葉使い」に帰結する。もう諦めろってんだ。今でも神殿の外にはバレてないんだから一種の才能じゃんよ?


「うっせえ! サフィールに言われるとやる気無くすわ!」



 いやー、ノワちゃんはすっごいわ。この国に「働きたくない選手権」あったら優勝できると思ってたワタシを変えていくなんてね。


 けどね……。ワタシがご神託を嫌がらなくなったり、お勉強するようになったのは他の理由もあるんだ。これはまだノワちゃんにも話せてないけど……。



 いつかきっと……、いいや、必ず伝えるからね?

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