第46話 禁足地

 この国のある一角に、黒くて高い石壁で隔離された地域がある。そこは「禁足地」と呼ばれ、近付くことを禁止されている。


 罪人の隔離施設、または処刑場、魔法によって呪われた人を隔離している、女神様のご加護が届かないところ……、いろんな噂がある場所だ。ただ、どれが正解なのかどれでもないのか私は知らない。そして、私の身近にいる人でそれを知っている人はきっといないと思う。


 ただただ幼い頃から「踏み入ってはならない」と教わってきた場所だ。



「ノワラ様、ご安心下さい。私……、いや我々は貴女を信用してここへお連れしました。ですから貴女も私を信用してついてきてください」


 馬車は途中、幾重もの警備を抜けて黒い壁の真ん前まで辿り着いた。サフィール様がそこで降りたので私も続いて地面に足を付けた。



 初めて近くで見た「黒い壁」、それは聖ソフィア大神殿の屋根よりさらに高いのでは……、と思うほど高く、何者の侵入も逃亡も許さないようにどこまでも続いているようだ。


 陽射しが強くて暖かかったはずなのに、壁の前にくると急に背中がうすら寒く感じた。それに踏み入ってはいけないような圧迫感を感じる。それは幼い頃からの刷り込みで私が拒絶しているのか、それともこの壁が私を拒絶しているのか、どっちなのだろう……?


 私が壁の迫力に気圧されてる横をサフィール様は、一切の躊躇なく進んでいく。独り残されそうで怖くなって、慌てて彼の背中を追いかけた。


 壁の間近まで来ると、門があって、そこには治安維持隊の制服と似た格好をした人が数人立っていた。

 私の知っている治安維持隊の制服は白が基調の服だけど、ここにいる人たちは服の色も壁に溶けてしまいそうな黒だった。腰には剣を収めた皮の袋をぶら下げている。


 サフィール様の背中にくっついて門に近寄ると、格子状になった鉄の門が上に引き上がっていく。そこを潜ると同じような鉄の門がもうひとつ見えてきたが、それも近付くと勝手に上がっていった。



 私は今、陽の光が届かないを歩いている。視界の先には光。黒い壁の向こう側が眩しく輝いている。心臓がとても高鳴っていた。私は無意識にサフィール様の袖の端っこを掴んでいた。恥ずかしかったけど、今は得も言われぬ恐怖の方が勝っている。

 一方のサフィール様は、後ろの私を振り返る様子もなくずんずんと「向こう側」を目指して進んでいく。


 壁を抜けると、強い光が視界を奪った。目がこの光に慣れたとき私の前には一体どんな光景が広がっているのだろう?


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