エピローグ

新・バアイゼインゼル

『――ということで、ぜひとも。この新たな観光地として手を組みたいのです。どうでしょうか?』


 ◆


 ニーナから呼び出しを受けたセルジオ達はすぐに、人間界のデアドリットシュタットの長である彼女と面会をした。

 ニーナからの報告では嵐の中からこちらへと呼びかけをしていたとのことだったので、ずぶ濡れになっているのではないだろうかという予想があったため。彼らは急ぎ門へと向かったのだったが――。


『これはこれは初めまして、私はバーナデット・フロスト。デアドリットシュタットの長です。この度は――』


 門へと到着した俺たちが見た光景は、嵐の中に立っている女性。しかし彼女は全く濡れることなく。むしろ彼女の周りだけ太陽で照らされ。さわやかな風が吹いているような状況で、綺麗な白く長い髪を揺らし頭を下げているデアドリットシュタットの長。バーナデット・フロストの姿だった。

 余談だが護衛?とみられる周りの御付きの人は全員ずぶ濡れ。そして暴風のため立っているのも厳しいという状況だった。


「セルジオ。あの人――なんの魔術使ってるの?」

「――ぱっと見。風かと」

「ですね。風の魔術を使い自分の周りだけ嵐をはじかせてますね。これはルーナ様と同等の可能性――いや、単にお金のために必死――」


 不思議な光景を見たセルジオ達は始めコソコソと話していたが。そのあとさすがに戦う意思のない人たちというのはすでにわかっていたので、そもそもずぶ濡れの護衛たちはもう身体ががたがた震えていてそれどころではなさそうだったので、ニーナに頼み町の中で休んでもらうことにした。

 そしてその間にセルジオ達はバーナデットと話し。会談をすることになった。

 もちろん中心となって話すのは――。


「では、バーナデットさんご用件は?」

「ちょっと待った!なんでソフィが仕切るのよ!」

「ルーナ様にお話ができるとは思いませんので」

「できるわよ!」

「無理です」

「できる」

「面白い方々ですね」


 何故かソフィが話し出したため。ルーナが即ソフィに突っ込むということが起きて話が始まったのはその少しあとだったりする。

 ちなみにそんな光景をいきなり見せられたバーナデットは微笑みつつ1人余っていたセルジオに声をかけていた。


 ちょっとスタートから揉めていたが。結局ソフィが中心で話すことになった。

 ルーナが仕切りたい見たいだったが。人間界のことをあまり知らないルーナより。ソフィが話した方が早いと結論が出たからだ。

 ちなみにこの場には人間界から来た者がもう1人いたはずなのだが――その人物には誰も触れなかった。まあ本人も発言するつもりはなかったので、ルーナとソフィの言いあいが終わるまで、バーナデットからの声かけに相槌を打っていたのだった。


 それから話し合いは小一時間ほど続いた。

 ちなみに初めの段階ではセルジオもルーナも何かの人間界側の作戦――と。考えつつ話を聞き。コソコソ話したりしていたのだが――そんな心配は不要だった。

 そもそもソフィは何故かわかっていて初めから話をしていたみたいだが――。


 とにかくだ。守りを固めて町の周りを嵐にしているこのヴアイゼインゼルの町にわざわざバーナデットがやってきた理由は。


 私は戦いより。お金。そして魔界とのつながりで新たな娯楽を――と、本当に新たな観光地として、この土地と手を組みたいだった。


「セルジオこれ嘘でしょ」

「――いや、何ともですね」

「怪しすぎるでしょ」

「でも、何かを企んでいる様子は――そもそもソフィさんがもう話を進めてますし――」


 ソフィとバーナデットの話が終わるまでコソコソ話していたセルジオとルーナだったが。話が終わった後。


「この2人は常に人前でもイチャイチャを始めるもので――」


 唐突にソフィがそんなことを言ったため。セルジオとルーナのコソコソ話しは即終了。


「してないわよ!」


 からのまたルーナとソフィの言いあいが始まったのだった。


 なお、セルジオはそのあとバーナデットにお菓子を出すなどして、ルーナとソフィには関わらず。バーナデットの様子を見ていたのだった。

 なおバーナデットに不審な動きは一切なく。


「すごいわね。魔界もいいところじゃない。町はまだ小さくてもこれで人と物が動けば発展するわよ。これでがっぽり――」


 むしろこの町のため。いや、ほとんど自分のところの町のためのようにも聞こえたが。でも敵意は全く感じることがなかったのだった。


 それからしばらくして、バーナデットは良い方向で話ができたということで、すぐに自分の町に帰ることになった。

 ちなみにずぶ濡れガクブルの護衛の人たちは、すっかりニーナの接待?で癒され。もうここに住み着きそうな雰囲気を出していたが。もちろんバーナデットは用事が終わったので帰る気満々。なので――この後また嵐の中を帰ることになるのだが大丈夫だろうか?と、のんびりした雰囲気を見たセルジオが少し心配になっていたのだった。


 ◆


「いやー、まさかの方向に事が進みましたね」


 バーナデットが帰った後。セルジオ達はまたルーナの部屋へと戻って来て話をしていた。

 ちなみにソフィは満足げな表情をしている。


「いやいやいやいや、ソフィ何か知っていたでしょ!いろいろ対応がおかしかったからね!?」


 そして部屋に戻るなり、先ほどまでのことに対してあまり口を挟めていなかったルーナが噛みつくようにソフィに声をかけていた。


「何も知りませんが?」

「絶対何か掴んでたでしょうが!あんなあっさり見知らぬ人を通すとかありえないし」

「そんなことありませんよ。ちょっとバーナデットさんはお金しか見てなくて、戦う気がない設定があることを知っていたくらいですから」

「やっぱりいろいろおかしいこと言ってるからね!?ちょっと、セルジオ。ニーナも!ソフィになんか言ってやってよ!ってか設定!?設定って何よ!」

「ルーナ様は知らなくていいことです」

「言いなさいよ!何をソフィは知っているの!」

「セルジオ様。躾がなっていませんよ」

「ソフィ!」


 今日もルーナとソフィが居るだけでにぎやかな魔王城の離れだった。

 ちなみに2人が言い合っている間にセルジオはニーナと共に後片付けを始めており。実は何度もルーナが呼んでいることには気が付かず。こちらはこちらで話していた。


「何が起こっているのか」


 片付けをしつつセルジオがつぶやくと。隣に居たニーナが返した。


「でも人間の人みんないい人だったよ?はじめは――だったけど、話しているとみんないい人で」

「前にソフィさんが言っていたように一部の人だとは思うけど――にしても急に人間界の町と交流って。そもそもまた攻撃を受けてもおかしくないと思うんだけど――どうやって交流するのか。そもそもこんな危ないところに来る人居るのか」

「そういえば、そもそも人は魔族のことよく思ってないって、前にセルジオお兄ちゃん言っていたよね?」

「まあそれも一部だとは思うけど――デアドリットシュタットもほんと一時期居ただけであまり覚えてないというか。ほんとなんかまたいろいろ起こりそうだ」

「もう起こっていると思うけど――」


 そして2人が片付けをしつつ話していると。


「まあルーナ様が何か言っていますが。これからの町のために前向きに準備始めますよ。はい!ルーナ様も覚悟して」

「なんで覚悟が必要なの!?って、覚悟が必要ってなんか危ないって事じゃん!」

「大丈夫です」

「大丈夫に思えないわよ!セルジオ!どこ行ったの!?ニーナ!」


 すると上の階からまたまたにぎやかな声が聞こえてきて――。


「セルジオお兄ちゃん呼ばれてる」

「ニーナも」

「とりあえず――行かないとだね」

「だな」


 さすがにルーナの声が届いたセルジオとニーナは、なんとなくこの先まだまだ何かありそうな予感がしつつ2人は一度顔を見合わせ、苦笑いをしつつルーナとソフィが居る所へと向かったのだった。


 そしてバーナデットが唐突に魔界へとやって来たこの交流という提案はのちに実現し。バアイゼインゼルの町はまた新しく動き出すことになるのだが――セルジオとニーナが思っていた通り。いろいろこの後起こることになるのだった。


 ◆


「さあさあ面白くなってもらわないと困りますよ!」

「だからソフィは何をしてるの!って、何を仕組んでるの!あっスパイ!?」

「かもしれませんね」

「ちょ、セルジオ!ニーナ!」


 が。今のところはにぎやかな魔王城の離れがしばらく続くのだった。

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