2-3 子守係大忙し

 セルジオはルーナが基本だらだらしていることをよく知っている。


 というか。原因がソフィにあるのはもう知っていることなので、たとえ真昼間からルーナが自室。または魔王城の離れのどこかでひっくりかえって、だらーっとしていても、特に何か言うことはなかった。

 そしてそんなだらーっとしたルーナにソフィが近寄ろうものなら――そっとその場から離れる。それがいつものことである。


 セルジオがその場を離れた後。悲鳴が聞こえるのは――。


「きゃあああ。って、ソフィ!何するの!」


 いつものことである。


「今日も元気――って、町の方は良いのだろうか?」


 セルジオはそんなにぎやかな屋敷の中を移動しつつ。ふと窓の外を見つつつぶやいた。


 町の方はかなり復興してきている。

 毎日見ているので少しずつ変わっているのがこの魔王城の離れからでも日々わかる。

 あと、現状ルーナは次期魔王様ではなくなったのだが――今のところこの建物をみんな町の人も魔王城の離れと呼んでいるが――それはそれでいいのだろうか?と、考えることもあり。そのうちルーナ。またはソフィに聞いてみようと何度か思うことはあったが。


「まあルーナ様。こんなところでお恥ずかしい!」

「やめんか!毎日同じことするな!」


 ……現状にぎやかである。

 そしてなんやかんやと今のセルジオにもいろいろ仕事がある。

 今まではルーナに付きっきりが多かったが。町のこと。セルジオが担当している孤児院のこともある。

 それに――。


「あっ、セルジオお兄ちゃん」


 噂をすればというのか。セルジオがルーナとソフィのいつも通りの言い合いのところから非難をして、食事をどうしようか。などと考えつつ。調理場の方へと向かっていると。ちょうど正面からセルジオを呼ぶ声が聞こえてきた。

 そう、今この魔王城の離れには、いままでの3人の他に、もう1人。人が増えていて。その人とは金髪碧眼の少女。そういえばいまだに名前がない。わからない状態だが――そんな状態でもなぜか上手に日々は過ぎている。にしてもこの問題も何とかしないといけないよな。などとセルジオは金髪碧眼の少女を見かけると。いつも思っているのだが――。


「セルジオお兄ちゃん。これ孤児院のおじいちゃんおばちゃんからだよ」


 セルジオのところへとやってきた金髪碧眼の少女は、手に持っていた書類をセルジオに渡す。

 金髪碧眼の少女から書類を受け取ったセルジオは書類に目を通す。

 今ではヴアイゼインゼルの町の人も金髪碧眼の少女はセルジオのとこの子。という認識が広まり。セルジオが見当たらない場合は、金髪碧眼の少女に頼みごとをすればいいというのが勝手に広まっており。今もだが。セルジオが持ち場を離れている時でも仕事が飛んで来ることが多々ある。


 ちなみに今金髪碧眼の少女が持ってきた書類は。孤児院の現状報告――というよりは……。


「――おぅ。またか」


 金髪碧眼の少女から受け取った書類を見てセルジオは頭を抱える。


 何が書かれていたか簡単に言えば、孤児院の一部が破損したである


 孤児院に居る子供たちは基本元気だ。

 もちろんヴアイゼインゼルの町が攻撃された直後は、親と離れ離れになってしまった子やけがをした子などで、なかなか難しい環境の時もあった。

 でも今ではルーナの導き――というのかはちょっとわからないが。でもルーナが町の人をまとめたことで、物事がうまく回り始め。孤児院の子たちも次第に元気になっていった。

 そして元気になったということは――ルーナやソフィと同じということである。

 

 先日もルーナとソフィが何やらこの屋敷で暴れたようなことがあったが――それに近いもの。いや、孤児院の方はもっと大変か。ルーナとソフィは一応手加減をしているから大惨事にはなっていないが――孤児院の方の子供たちはパワフルだ。

 特に最近は食料も安定してきたからかもしれないが。みんな体力もあり。元気に過ごしている。そしてその元気な子供たち。いつも仲良し――というわけではなく。もちろん喧嘩なども頻繁に起こる。

 一応ヴアイゼインゼルの町の人みんなで見ている感じにはなっているが。それでもまあ、あれだ。子供のパワーはすごいいうのか。子供の発動する魔術はそれこそ最近のルーナの暴走まではいかないが手加減がない。

 なので――建物とかそのほかいろいろなものが壊れることは多々ある。

 そして壊れたりした場合は修理が必要。でもすべてタダで直せるわけではない。

 詳しいことはややこしくなるので割愛するが。ルーナが長としてまとめているヴアイゼインゼルの町もちゃんといろいろな決まりがある。

 というかルーナが知らなくても、ルーナの隣にはソフィという万能なお方が居るので――とにかくだ。いろいろこんな攻撃を受けてボロボロになった町でも、ちゃんとしているということだ。

 ちゃんとしているということは――それなりにちゃんと手続きが必要ということ。

 そしてそのような手続きをするのは、今のところ孤児院を任されているセルジオがすることになる。

 ちょっと書類を書けば終わり――と言えば終わりなのだが。先ほどルーナをいじるソフィとは別人というべきか。こういう事務作業の時のソフィは意外にもというと失礼だが。すごくきっちりしている。なのでしっかりと書かないといけない。それがなかなか大変なのだ。ちゃんと現地も見ておかないといけないし。何があったかの確認も必要。一応今金髪碧眼の少女が持ってきてくれた書類に書かれているが。現地確認は必須だ。


「――喧嘩で孤児院の裏に大穴ね」


 セルジオはそんなつぶやきをしつつ。少し考える。

 ちなみに金髪碧眼の少女はセルジオを見つつ大人しく立ったままだ。

 正確に言えば指示を待っていると言ってもいいだろう。


「とりあえず――ルーナたちはまだもめていそうだし。ちょっと先に孤児院言ってくるか。一緒に――行くか?」

「うん!」

「ってか――マジで名前考えないとな」


 金髪碧眼の少女と2人の時なら目を見て話せば今のように伝わるが――周りに人が居ると大変。なのでセルジオは金髪碧眼の少女と話しているときはよくよく今のことを言うのだが――結果としてなかなか金髪碧眼の少女の名前に関して考える暇がなかった。

 なぜかって?そりゃ――。


「セルジオ様ー。ルーナ様が暴れまして。窓ガラス割っちゃったんですが。どのようにお仕置きしましょうか?ふふふっ」

「ちょこら!私だけの責任にしないでよ!」

「いえいえ。物を投げたのはルーナ様ですから」

「怒らせたのはソフィでしょうが!」


 これまたタイミングがいい。セルジオと金髪碧眼の少女のところに今度はソフィが先に来て――それをルーナが慌ただしく追いかけてきていた。


「また仕事が増えたか」


 そして、ルーナとソフィのやり取りを聞きつつ呆れるセルジオ。まあ少し笑みもあったりするのだが――。


「大丈夫?セルジオお兄ちゃん?」

「あっ。うん。さあ。1つずつ片付けないと」

「私も手伝う!」


 とりあえずセルジオは一番近くにいる金髪碧眼の少女に声を再度かけてから行動を開始した。いろいろと起こっていることを片付けないと食事にもならないからだ。


 と、いうことで。子守係?は今忙しいのだ。だから――言い訳となるが。いろいろと事が滞っていたのだった。


 でももうすぐ金髪碧眼の少女の名前は決まることになるのだった。

 そしてそれによってまたひと悶着起こるのは……いつものことである。

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