第117話 トゥアルア図書館
「イナバくんもナギサくんも街の中では出しちゃいけないと言われたわん」
『きゅーっ……』『しゃーくっ……』
イナバくんたちのしょんぼりとして声が伝わってくる。
「精霊ってバレなかったら大丈夫じゃないかわん?」
小さくなってもらって抱えて歩けば角なし兎に角なしサメだ。
「駄目っすよ。精霊様は見たらすぐ分かるっす。勘の良い人は見なくても気配で分かるっす」
「そうですな、集中すればわん太殿から漏れ出る精霊様の気配も分かります」
「えぇっ!? ボクからイナバくんたちの気配漏れてるわん?」
くんくんと左腕の右腕のあたりの匂いを嗅いでいたら
「ところでわん太様、どちらに向かわれているのですか?」
オークラさんとの会合を終えたボクたちは城を出て、大通りから外れた細い道を進んでいた。
城塞都市トゥアルアは周囲を城壁が囲んでいるだけでなく、その成り立ちから街の中にも幾重もの城壁や城壁跡が残っており、大通りを少し離れると迷路のような複雑な街並みとなっている。
「んー、図書館? 水龍さんの話をしたら知っていそうな人が図書館に居るって言ってたわん。まぁ、知らなくても古くからある図書館だから何か資料ぐらいはあるだろうってことらしいわん」
「えーと、この道を右っすかね?」
道案内を買って出た
「あ、
「え、あ、ホントっす。わん太さん、なんで分かったんすか? 地図では大丈夫なんですけど……」
少し先を確かめてきた焙火くんが地図を確認しつつ何か書き込んでいる。
「ミニマップ、あー、周辺の地図が見れるスキルみたいなのがあるんだわん」
「何と、それは便利なスキルですな。うちの騎士団にも遠見のスキル持ちが居ますが、それの近く版ですかね」
◎[ミニマップ便利だけど範囲狭いのがなぁー]
∴[え、いや、ちょっと待って。なんで行き止まりってわかったの?!]
▽[ミニマップを見てればって……、あ、え、確かに視界外はマッピングされないよな]
アンメモのミニマップ、視界の端に小さく表示されている周辺マップはアンメモの他の機能同様、便利なようで絶妙に使いづらい仕様になっている。
そう、アンメモのミニマップは歩き回る周辺がマッピングされるのではなく、視界に収めた範囲がマッピングされる。なので、曲がり角の先や壁の向こうはミニマップには表示されない。
「ふふん、気づいたわん? ミニマップは視界に収めた範囲を表示するってことは視界を広げれば良いってことで、メルリン!」
ふよふよと上空から銀色の球形ドローンが降りてくる。
∈[にゃ 、あっ、さてはそのドローンの視界もミニマップに反映されてるのかにゃ! ずるいにゃ!]
▽[良いよなぁ、ドローン。ん、そいつ小さくないか?]
◯[ほんとだ、え、上、上! 幾つか飛んでる]
「今のとこ、子機が三台わん。材料が足りなくてちょっと小さいやつになったんだわん。この三機で周辺警戒とマップの作成を行いながら進んでるわん」
この城塞都市トゥアルアも元は『パーの村』と呼ばれる小さな村だったらしい。
その頃から存在していた『パー私設図書館』が今から向かう『トゥアルア図書館』の前身である。
「わん太様、見えてきましたぞ。あれが『トゥアルア図書館』です。私も来るのは久々ですが変わってませんなぁ」
細い路地を幾つも抜けた先は城壁のない海側の、ほんの少しだけ盛り上がった開けた場所にその建物があった。
こじんまりとはしているが建物の表面は蔦で覆われており、三階建ての建物と一体化したような大きな木がその古さを表していた。
「これが図書館ですか?」
「森の中にあったほうが似合いそうですね」
自然に取り残されたような幾分不釣り合いな空間に麻結さんとクレスさんの足も止まる。
「元々はここらへんも森だったらしいっす。この場所を中心に徐々に村を広げていき、現在のトゥアルアの街になったって習ったっす」
「この街の象徴的な場所でもありますから、この図書館は当時のままの姿で残すことになったんです。まあ、ここから動きたがらない人もいるんで移すわけにもいかないんですがね」
「あら、それは誰の事かしら? 久々に訪ねてきたと思ったらそんな事を言うなんて……。キャン坊にはお仕置きが必要かなぁ?」
気がつくとボクらの後ろに大きな籠を抱えた黒髪のお姉さんが微笑んでいた。
「げっ……、葵様、街にいらしていたのです……か?」
キャンベルさんは直立不動の姿勢になって、その顔はひきつっている。
「そうよ、ところでキャン坊に殿下までこちらにお越しとはそちらの可愛い方達の関係?」
「え、ええ、葵様にお聞きしたい事があると」
「わかりました。つまり彼らが道の先から現れた客人ですか……。ようこそ、『トゥアルア図書館』へ。あたしはこの図書館の司書兼館長の
スタスタと歩き出した葵さんの後を追いかけるようにボクらはトゥアルア図書館に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます