第十三回 千春と長い夜。
――お空には一番星。午後からの時間の流れは、まるで急流すべりのよう。
思い出す、一家団欒。
いつの間にか、楽しい思い出で溢れる脳の中。それでもウチはミズキちゃんと一緒。とある温泉街が帰る場所。やっぱりミズキちゃんがお姉ちゃんで、ウチが弟で……
「帰りたくなった? お家」
と、唐突に訊くミズキちゃん。ウチは……
「まだミズキちゃんと冒険の旅がしたい。まだ会えてないでしょ、サトちゃんに」
「そうだけど、……まだその時じゃない。今回の物語は、
……と。ミズキちゃんの、その時の表情は、
「それって何? まるでこのままサヨナラになるって……そんなのヤダ。ウチはまだ何もできてないんだよ、ミズキちゃんのお手伝い、何もしてあげてないんだよ? ウチばかりで……そんなのダメだよ。ミズキちゃんは人のお世話ばかりになっちゃうよ」
ミズキちゃんは、そっと頬に触れる。
ウチの頬っぺたにそっと……優しい笑み。そんな時の彼女はいつもそうだ。
「こーら、こういう時は泣かないの。君には君の道があるっていう意味だよ。パパとまた剣玉大会に出場するんでしょ? パパは待ってるよ、君のこと。それに……」
「それに?」
「ちょっぴり君のこと、羨ましいな……なんて。私はどう頑張っても女の子で、男の子になれないし。私にはパパがいないから、君の気持ちがわかってあげられなくて……」
ふと、ミズキちゃんの目に涙が浮かんでいるように見えた。
そこからは、何も言えなくなって、長い夜に身を任せることになって……少なくともこの夜だけは、まだミズキちゃんと一緒にいられる。少しでも時間の流れがゆっくりなるようにと願うばかりだった。もう少しだけ、もう少しだけと積み重なって長い夜へと。
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