第3話 はいはいの後、おせっせの前


 翌朝。

 目覚めたらボクの布団の中に褐色ロリエルフがいた!?

 そんな夢の様な展開に、昨日の夢の様な出来事がマジでリアルだったのだと再認識。

「でも、おかしいな、一応別々の布団で寝たはずなのに……」

 そう、別の部屋で寝てたら何かあったとき困るしということで同じ部屋で寝はしたけど、さすがのボクでも自重して、一緒の布団では寝なかった。

 だというに、なぜ、彼女はボクの横ですやすやと――

「あふぅ……(すぅ、すぅ)」

 というか、なぜボクに抱きつきながら寝ているのか。

 うっ、この体の大部分を覆うやわい感触と子供特有のあったか体温……。

 犯罪的だ……っ! ぽっかぽかにあったまってやがる……っ!!!

 ボクは男性に起こる朝特有の生理現象でおかしくなりそうなのを必死でこらえながら、その湯たんぽの様なぬくみをしばし堪能した。

 すると、なにかおかしなことに気づく。

 そう、なぜか彼女に与えたはずの衣服がその辺にほっぽられてあるということに。

 ボクは、恐る恐る視線を下に向けた。

「えっ」

 思わず声が漏れる。

 幼女はなぜか、全裸でボクにしがみついていた。

 ――誘っているのか?

「それはない」

 自分のあまりの残念さに、泣けてくる。

「でも、だとしたらどうして?」

 今は真冬だし、結構寒いのに。暖房強すぎた? もしかして暑がりさん?

 そう思いながら、布団から這い出て、彼女の脱いだ服を手に取る。

「あっ、そういう……」

 そしてボクは気付いた。

「おもらしかー……」

 ボクは急いで、布団からシーツを剥ぎ取った。


「ぁぅー(すりすり)」

 洗濯機を回したり布団を干したりと朝からばたばたしている間に、幼女は目を擦りながらボクの元へとてとてとやってきた。

「ぅ!(がしっ)」

 そして、ボクの腰辺りにむぎゅっと抱きついてくる。

「のわっ」

 ちょ、いきなりそんなところに刺激を与えないで。

 しかも当然の様に全裸だし。

 おいおい、マズイなこれは。急いでこの家の全カーテンを締めなければ……。

 数日後、無職成人男性による幼女監禁のニュースでお茶の間を騒がせてしまうかもしれない。

「ぁぅぁぅー(べたべた)」

 なんかなついてくれてる(?)のは素直に嬉しいんだけども。

 具体的に言うとおもらしの後始末を全てさせられたことへの疲労感がすべて吹き飛ぶくらいに嬉しいんだけども。

 ――って、そうだよ、というか、そもそもの話をすれば。

 おもらしの件については、トイレの場所を事前に彼女へ伝えておかなかったボクが悪かったみたいなところもある。

 てなわけで。

「お手洗いの時間だ!」

「んぁ?」

 きょと? っと、ハチャメチャにかわいい顔を向ける天使の様な幼女を、ボクは便所へと連れ込んだ。


「しかし、どうしたものか……」

 成人女性の平均並に小柄なボクと、言うまでもなくちっちゃい幼女が入るにしても、ボクの家は別に豪邸でもなんでもないので、二人で入るには狭い。我が家のトイレは。

 そこで、ボクはいたいけな幼女を見つめながら、思案に耽る。

 一応、「ここがトイレだよ」と、口頭で説明しはした。

「ふわ?(ぽけっ)」

 でも、当然のことながら彼女に日本語は通じていないわけで。

「ここは、ボクが一肌脱ぐしかないようだね……」

「ぁぅ~?(はて?)」

 ぽーっとした目をしながらボクと便器を交互に見遣る幼女ちゃん。

 それを尻目に、ボクは意を決して文字通りズボンを下ろした。

 そして――。

「あ~、やばい、漏れそう。マジっべ~、べえわ~、チョボパンやばみ~」

 そんなようなことを喚きながら(頭悪そうな方がわかりやすいかなと思ったんです)、

「あ~、でるでる、もれりゅ~~~~~~~~!!!」

 ありえないほどに身体をくねらせつつ股間を病的なまでにさすり、

「ふう」

 じょぼぼぼぼ。

 洋式便座にまたがって用を足した。

「!(はっ!)」

 幼女はそれを、食い入るように見ている。

 ――なんだこの絵面。

 ボクの罪状がどんどん増えていくような気はするが、大人が子供にものを教えるということは、つまりそういうことなのだろう(意味不明)。

「あー、トイレでおしっこをするのはきもちいなあ!」

 なので(?)、変態的にも程があるセリフを吐きながらトイレットペーパーで性器をこする様を幼女に見せつけているのは、完全に必要な教育なのです(妄言)。

「で、流す」

 じょわー。

 レバーを捻ると、勢いよく排泄物が下水管に吸い込まれていく。

「ぉぉ……!」

 それを見て、なぜか幼女は感嘆由来のものらしき声をもらしていた。

 水洗トイレを見たのは初めてらしい。というか、ワンチャントイレを見たことがない可能性すらあるね、これは。

「とまあ、おしっこやうんちがしたくなったらここでするようにね、頼むよ?」

「あうっ!(がくがく!)」

 どうやらなんとなくボクの言いたいことは通じたらしい。幼女が勢いよくその折れそうな程に細い首を縦に振るのを見て、そう思う。

 というか――。

「ううー!」

 幼女は意気揚々と声を上げると、ボクの横をすり抜けて、便座に跨った(しかも、長い髪を汚さないようにきちんとたくしあげて)。

 ちょこん。

「なっ、なんとうかわいさ……。犯罪的……はっ!?」

 ――なっ、こ、このフォーメーションは!?

 ボクが気づいた時には、もう全てが遅かった。

 じょぼおおおおお……。

「んんっ……(ふわ~)」

 ボクの目の前では、晴れ晴れとした顔で幼女がお花を摘んでいた。全裸で。

「あ、あわわ……」

 言葉を失う。

 なんという……。

 これは、こっれっはっ……、ひとりのロリコンが見ていい、景色では、無い…………。

 ボクはただ、何をすることもできず、便器に垂れる黄色い水音を、しばらくの間、無心で感じていた――。



 じょわ~。

「あうっ!(どやっ)」

 幼女は排尿を終えて股をいそいそとトイレットペーパーでお拭きになると、なぜかボクの方へ「どうだっ!」とでも言うかの様に秘部を見せつけてきた。

「いや、そのごめん。トイレ出来たのはえらいんだけど、その……」

 恥じらいを持って欲しい……。

 しかし、そんな風にボクが人として当たり前の理由でたじろいでいると、

「ぅー……(しょぼっ……)」

 幼女は目に見えて残念そうにうなだれた。

 それを見ていたら、なんだかボクまで悲しくなってくる。

 ならば!

「ごめんね! いやちょっと、ボクってば、ロリコンだからさ、そのどうしても君を性的に見てしまいそうで怖くて……」

 言葉が通じないのをいいことに人として最低の言い訳をしつつ、

「でも、それとこれとは話が別。一発目でちゃーんとトイレできてえらいよ! うん! ほんとすごい! よしよ~し!」

 そう言って幼女の頭を撫でた。今は亡き、大好きだったお母さんのことを思い出しながら。彼女もいつも、こうやって褒めてくれた。それが嬉しかったのを、よく覚えている。

「うぇへへ(にへらっ)」

 すると幼女も、嬉しそうに笑った。

 それを見ていると、なんだかボクまで、嬉しくなってしまう。

「あはっ」

 だから二人はしばらく、お手洗いの中で笑いあった――。

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