第1話 幼女とおかず
とりあえず、少女を抱きかかえてリビングのソファに座らせた。
「……(ぼけー)」
少女は物珍しそうに、内装を見回している。
かわいい。
明るい部屋で彼女を見ると、さっきよりもより強くそう思う。
しかし、それは同時に大きな問題を孕んでいた。
彼女の全裸が、ライトアップされているのである。
しかも彼女は出会った時から、それをまるで隠そうとしていない。手で覆うとか、太ももで挟んで秘部を見えないようにするとか、そういう兆候がまるでない。
というか、そもそも性器や乳首を見られることが恥ずかしいという発想そのものが、彼女の中にないみたいだった。今だって、悠々と禁断のお股を開いてしまっている。くぱぁ。
それはいくら彼女が幼い見た目をしているといっても、さすがに異常であると言わざるを得ない。ますます彼女が普通でないことを意識させられてしまう。それにその体には無数の酷い傷跡が刻まれていて、彼女が幼少期から過酷な生活を強いられていたことを否が応にも伺わせた。特に、足首の腱の辺りに大きく歪な縦線があるという所に、凄惨さを覚えずにはいられない。
しかし、それを差し引いても。同情とか哀れみとか、そういう感情があったとしても。それとは別に、性欲というのは確かに存在している。
浅ましい。強く、そう思う。けれど、それが人間なのだ。
つるぺたな胸と、つるつるな秘部。浮き出た鎖骨と、美味しそうなお臍。細い肩、太もも。思わず舐めてしまいたくなうような鼠径部、腋……。
隠しきれそうにないので早めに暴露しておこう。
ボクは正直なことを言うとかなりのロリコンなので、理性を保つのに必死だった。
気持ち悪いと思われようがなんだろうが、興奮してしまうんだから仕方ない。彼女の悲痛な境遇や、浮かんでくる自己嫌悪でさえ、その糧となってしまう。
けれど今はそんなことを言ってる場合ではなく。
ボクは彼女を家に連れ込むなり、急いで普段はほとんど使っていない暖房をフル稼働させて部屋を温め、彼女に毛布をかけてあげた。
「……ぅー?」
すると彼女は「どうしてこんなものを?」というふうに小首を傾げる。どうやら肯定や否定、疑問の際の首振り方法についての文化は、日本と同じ方式らしい。
「こうしていると、あったかいでしょ?」
彼女の隣に座って毛布の使い方を示しながら、彼女にも毛布を巻き付ける。
すると。
「……!(ほっ)」
これまでずっと怯え以外の感情を示していなかった少女の瞳に、安らかな色が過る。
それを見ただけで、僕は自然と笑顔になっていた。
なので、ボクは珍しく張り切り出す。人の役に立つという経験が普段は皆無なので、それが目に見えてわかる今はなんだか活力が漲るようだった。
取り敢えず風呂を沸かすスイッチを押して、タンスからセーターを引っ張り出してきた。
あったかそうなもこもこセーターを。
「まだ寒いでしょ。これ、着て」
「……ぅ?」
手渡されたセーターを掲げながら、きょとんとした顔を向けてくる少女。
いくらロリコンの住んでいる家とはいえ、女児服はうちにはない。なので、確かにそのサイズはぶかぶかであり、困惑されてもおかしくはないが、彼女のその顔は、なにかもっと根源的な疑問を抱いているように見えた。
「…………。(んー?)」
それを見ていると、思い当たる。
まさかとは思うが、それしか考えられないという可能性に。
……もしかして、服を着るという概念すら、彼女は知らないのだろうか。
この子はそこまでに、人間性を廃した扱いを受けていた……?
まさしく、奴隷的な。
考えるだけで、怒りが湧いてきた。こんなかわいい女の子が、大事にされない世界があるなんて。
でも、そう憤ってみたところで何かが変わるわけでもない。
ボクは頭を冷やしつつ、少女の毛布を一旦剥いで、万歳をさせる。
「ほら、こうやって、手、上げて」
「…………んー?」
「こう、ほら、ばんざーい!」
「……ぁー?(きょと)」
「ば、ばんざいだよ、ばんざい。ね? ばんざーい」
「…………は、はんざぁーひ。」
三回ほど身振りと声出しと共に両手を上げさせると、なんとか彼女も万歳という概念を理解できたらしく、かわいらしくボクの真似をした。
――なんか発音が「犯罪」っぽかったのはきっと気のせいだろう、うん。
最初に喋らせた日本語が犯罪というのはあまりにマニアックがすぎる(もはやなにかの暗示さえ感じてしまって自首しなきゃってなるし。まだしないけど)。
「服はね、こうやって着るの。……あったかいし、恥ずかしくなくなるんだよ?」
「……ぉー?(ほくほく)」
両手を挙げた彼女にセーターを着せると、少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせた。
かわいい。
あと、その、触ったら折れちゃいそうなくらい細いふとももが、セーターからにゅっと出てきているのが、えっち……。
さっきまで裸を見ていたくせに何をと思うかもだけど、そう思った人は、なんでえっちか、明日までに着衣AVを熟覧して勉強しておいてください。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、いただきま――、じゃなかった。いただいたら犯罪です。
ボクは太腿及びサイズが合わず出てしまっているちっこい肩や鎖骨への目線を封じ込めるため、その上からもう一度彼女の全身に毛布をかけておいた。
「ふう、これでよし」
「…………(ふにゃ?)」
女の子は、「このお兄さんはなんで急に上機嫌になったのだろう?」みたいな顔をしている(まあ、僕がお兄さんと思われているかおじさんと思われているかはたまたお姉さんと思われているか化物と思われているかは諸説あるけども)。
「ボクはね、君みたいな女の子がただ生きていてくれているだけで幸せなんだよ」
――はっ!? 少女のあまりのかわいさにふと気持ち悪過ぎる発言をしてしまった。
日本語がわからないのをいいことに、ボクってば変質者過ぎる……。
「………………はぁー?」
バカっぽく口を半開きにしながら相槌の様な声を上げる女の子。
「かわいい……」
かわいい……。
あまりにもかわいので、抱きしめたくなったが、さすがに今やったら犯罪なので自重(家に連れ込んでる時点でアウトという話は、申し訳ないけどもここではしたくないな)。
なので、代わりと言ってはなんだが、ごはんを提供することにした。
異世界転生(取り敢えずそういうことだと仮定する)してきたばかりで、きっとお腹もすいていることだろう。それに、本当に奴隷だったのなら、ごはんも満足に食べさせてもらえてないはずだ。
そんな彼女に温かいごはんを提供することは、全人類にとって当然の義務である。
ボクはしばし、労働基準法も真っ青なレベルで電子レンジを酷使した。
ほくほくと、団欒の象徴のような湯気が上がる。
食卓に並ぶのは、スーパーの半額品達。要するにつまみっぽい惣菜の数々と刺身。
そして、自前で冷凍してあったのを解凍した白米。
この子が生魚を食べれるのかは不安だが、唐揚げとか白米は多分大丈夫だろう。
現に準備をしてる最中も匂いに釣られたのかボクの後ろをちょろちょろしていたし。
準備を終えて、少女をちゃぶ台の前に座らせる。
彼女は湯気を上げる食材の数々を、食い入るように見つめていた。その姿は半ば野生動物めいてすらいる。
しかし、それでも勝手に食らいついたりしない。その理由は、考えずとも察せられた。
「いただきます」
夕飯がまだなのは自分もなので、そう言って一緒に食べ始める。
――が。
ボクが白菜の漬物に箸を伸ばし、それを口に入れる間、少女は微動だにしなかった。
血走った目でそれを睨んでいるだけで。
「どうしたの? 食べていいんだよ?」
そう聞いても、身振りで示してみても、彼女は食事に手をつけようとしない。
言葉が通じないから仕方ないとはいえ、ここまですれば勝手に食べ始めると思ったのだけど、どうやらそれは楽観が過ぎていたようだ。
「……うぅー……っ(じゅる)」
どう見てもお腹を空かせているのに。
その小さな口からは、涎まで垂らしてしまっている。
「ああもう、せっかく綺麗な顔なのに」
そう言って、彼女の涎を布巾で拭ってあげる。
「う?」
すると彼女は、自分が何をされたのかよくわかっていないのか、戸惑うような顔をこちらへ向けた。
お人形さんみたいな幼女にそんな無垢な表情をされると昇天してしまうよ、お兄さんは……。
ボクは幼女の涎を拭いた布巾を舐め回したいという突発的衝動と戦いながら、なんとか笑顔で語りかける。
「よだれを垂らすのははしたないことだからね、気を付けよう」
「…………(こくっ)」
通じたのかは不明だが、少女は神妙に頷いた。
これが異文化コミュニケーションというやつなのだろうか。
嬉しすぎて涙が出そう。
……しかし、それはそれとして、彼女がごはんを食べようとしてくれない問題が未だ解決されていない。
どうしたものか。
そしてボクは天才的ひらめきを得た。
「そうだ、あーんしてあげればいいだけじゃないかっ!?」
「ぁー?」
「そうだよ、あーん」
僕はそう言って自ら口を開けながら、少女が一番食べたそうにしていた唐揚げを小さく割いて箸で掴み、少女の口の方へ持っていく。
「ぁー」
そしてそのままぽけーっとしたその小さなおちょぼ口に挿入した。
「んむっ(びくっ)」
少女は「信じられない!」という様に目を丸くしながらももふもふと激しく噛んで、凄まじい速度でそれを飲み込んだ。
はみゅ、はみゅ、ごきゅん。
「はっ、はっ、んふー!」
再び開いた口からは、激しい鼻息と歓喜の吐息が漏れ出す。終始濁っていた目などは、きらきらと瞬いていた。
「はわー。かわしかない……」
その反応があまりにも嬉しすぎて、変な声を漏らしてしまう独身男性。完全に変態。
だというのに、少女はそんなことまるで気にならないのか、なんと。
「くぅー(むぎゅ)」
あろうことか、横へ座る僕へ抱きついてきた。
「……っ!?」
はうあっ!?
おいおいおいおいおいおいおいおい、これはもう相思相愛なんじゃないの?(違います)
まずいな、まともな思考が出来なくなってしまう。
ボクが「これは言わば人が池のほとりを歩いていると鯉が寄ってくるのと同じだ」と、なんとか己に言い聞かせ冷静になろうとしていると、
「…………(きらきら)。」
彼女が下から僕を綺麗な目で見つめていた。
やばいな、恋しちゃうよこれ。
そして。
「ぁー」
彼女は口を開くとご飯がもらえるということを学んだのか、そうやってボクへと無防備に口内を晒す。そんな間抜けな面が、有り得ないくらいにいじらしい。
まさしく動物園の動物やそれこそ池に住む鯉の様な仕草だが、ボクはそこへ迷うことなく再び唐揚げを放り込んだ
「ほいっ」
「(ぱくっ)」
「おいしい?」
「(むしゃむしゃ)」
夢中になって食べている。
ボクはそれを、夢中になって見つめていた。
「んっ。はっ、はっ……、…………ぁー」
食べ終わると、荒い息とともにまたこっちへ口を開く。
「よし、あーん」
「ぁーむ。」
今度はタコ焼きをあげた。
「……(むきゅ、むきゅ)」
少女はすこしだけ訝しむ様に、探り探り咀嚼していたが、
「……んにゅっ!」
唐突に前のめりになった。
「だいじょうぶ!?」
あわや口の中身を吐き出しそうな体勢だったので、彼女の背中を撫でながら顔を覗き込む。
「ぅっ……!(むげっ)」
少女は少しだけ苦しそうな顔で呻いた。
タコの独特な食感に戸惑っているのかもしれない。ああ、もっと無難な食べ物を食べさせるべきだったかな? この世界のイメージであっているのかはわからないけれど、もしそうならエルフって森に住んでるみたいだから海の幸とか食べなさそうだし……。
けれどどうやらそれは杞憂だったらしい。
「けふっ、んぐ。」
初めこそ眉をしかめていた少女だったが、口の中のそれをなんとか飲み込むと、
「……ぷへー(にぱー)」
再度こちらを見て微笑んだ。
――結婚しよう。
ボクは割と本気で思ったが、現実には無限の障壁がありそうだったので考え直した。
というか、このまま餌付けを続けているとこの男はもはや全く別のアレを彼女に餌付けしかねないので、彼女にフォークを持たせて、
「これで好きなものを食べていいよ」
そう言いながら身振りをした。
「……ふー?(きょとん)」
けれど彼女は、自分の持たされた道具が何のための道具であるのかわからないらしく、首をかしげていた。
それどころか、
「あぎっ!(がりっ)」
フォークを食べ物だと勘違いしたのか、噛み付いてしまい、涙目になっている。
「ひぐっ、ぅゅ……」
でも、そんな切なげな顔もキュートだ……。
「あわー、フォークは食べられないんだよー。ごめんね?」
「ううーっ……」
少女は悲しそうにフォークをちゃぶ台の上に戻した。
――近いうちに食用フォークでも開発するか……。
ボクは割と真剣に考えた。
しかし、フォークが使えないとなると困ったものである。一応彼女に「フォークはこう使うんだよ」と言いながらサラダを食べてみたりしたのだが、真似をしてはくれなさそうだった。
フォークがダメなら箸なんてもっとダメだろうし、どうしたものだろう?
それと、問題なのは彼女の暮らしていた世界の文化としてフォークや箸といった食器がなかったせいで彼女がそれらを扱えないのか、それともなにか別の理由があってそうなのか、ということすら、わからないということだ。
他にも、言葉が通じないのは元より、彼女が殆ど現地語すら喋れていない様子なのが気になる。見た目的には、第一言語は日常会話レベルなら不自由なく話せそうな年齢なのに。
あるいは、本当にファンタジー世界からやってきたのなら、まるでボク達とは見た目と成長度合いが異なる種族の子だったりするのか。はたままた……。
なにもかもわからない以上、可能性は無限にあった。
だが、今すべきなのは、一刻も早く彼女のお腹をいっぱいにしてあげることだろう。
そう思い、餃子の乗ったパックを彼女に向けて差し出した。
「これ、食べていいよ。はい、どうぞ!」
ぐいっ、ぐいっと少女の小さなお顔の前にそれを差し出しから、彼女の前に置く。
さすがにここまですれば、食べろと言われていることがわかるだろう。
「ぅ?」
やった! 「いいの?」というようにこっちを見つめている。
「もちろんだよ。たーんと食べてね」
出来る限り優しい笑顔を心がけて、ボクは大げさに大きく頷いた。
すると。
「あぐっ! あぐっ! はむっ!」
ものすごい勢いで、少女はそこへ顔を突っ込んだ。
そしてそのまま、喰らいつき、顔を下に向けたまま、荒々しく嚥下。それが終わると次の対象へ大口を開ける。それが、絶え間なく続く。
「っ……!?」
まさしく貪り食うという表現が的確な、凄まじい光景。
餌皿に入った餌を一心不乱に食い漁る犬の様な所業。
それを、いたいけな少女がしているという事実。
彼女は顔や髪が汚れるのなんて気にもせずに、ひたすらに「食事」をしていた。
「はふはふっ、んぐっ、ごきゅ、あむっ!」
ボクはそれをたしなめるべきだったのだろうか。
でも、今はそれを止める気にはならなかった。
彼女に人間的な食事の仕方を教えるよりも、それを彼女に教えることのなかった世界に憤るよりも先に、すべきことがあったから。
飢えた子供の腹を満たす。
それが、世の大人の務めだろう。
例えボクが世に出てない大人だったとしても、それを果たすべきだと、彼女のこの有様を見て直感した。
餃子を八個ほど食べ終えてべちゃべちゃになった顔をした少女に、次の食事の詰まった皿やパックを差し出す。
焼き鳥、白米、サラダ、かき揚げと磯辺揚げに唐揚げ、たこ焼き、マグロの刺身……。
焼き鳥はあらかじめ串から抜いておいた。
揚げ物ばかりなのは許して欲しい。
「はっ、はっ、あむっ、あぐっ、ごきゅん!(がつがつ)」
少女は一人の成人男性が明日の分もと思って買っておいたそれらを、全て、その小さな胃の中へと野生動物めいた獰猛さで送り込んでいく。
ボクは生まれて初めて今日の労働に価値があったのだなと、今日働いておいてよかったなと思った。
自分の働いたお金が素性も知らぬ出会ったばかりの誰かに消費されていくことが、こうも気分がいいなんて、誰が知っていただろう。
最初は家に帰ったら残りのストロングゼロ三缶くらいをゴクゴク飲んで気持ちよく寝ようと思っていたのだけど、そんなくだらないこと、今日はもうしたくない。
ボクは女の子が自分の今夜のツマミになるはずだった諸々を無我夢中で美味しそうに食べているのをツマミに、お気に入りのウィスキーでも開けることにした。
まさか幼女を眺めながらこの四角い瓶と斜めラベルが特徴的なお前をやる日がくるとはね。
瓶に彫られた英国紳士が、どう見ても変態紳士にしか思えなくなってしまう。
ジョンさん……。
そんなくだらないことを考えながら、ボクはスモークチーズを齧りつつ、ちびちびとその優しく深い香りを楽しむのだった――。
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