第一章:アクション映画の序盤に最大の見せ場を持ってくる阿呆が居るか?

首相秘書・野見山正 (1)

 伯父貴の後を継ぐつもりなら……たまには地元に帰って来るんだった。

 総理大臣・原一郎の秘書にして甥である野見山のみやまただしは……原首相の地元の市長選の応援演説の現場を見て、そう思った。

 場所は、市内の公設市場の中。農家や農協関係者向けの応援演説だ。

「あの……ここ……マズくないですか?」

 野見山は警備担当者に言った。

「総理を狙ったテロでも心配されてるんですか?」

 地元の県警の警備担当者は呑気そうに、そう答えた。

「え……ええ……」

「あのですねえ……ヤクザとつるんでた駄目な不良地方議員とか、そんなロクデモない例外は除いて、ここ一五年間、地方の首長さん以上を狙った殺人や殺人未遂は起きてないんですよ。総理の御蔭で……サヨクどもには住みにくい社会になり……日本は平和な国になったんですよ」

「い……いや……でも……」

「都会の方の演説でも、何も無かったんでしょ? ましてや、ここは……聴衆は顔見知り同士なんで、見慣れない奴が紛れ込んでたら聴衆の誰かが気付いてくれますよ」

「は……はあ……」

「我が愛する故郷・筑穂市の皆さん、お集まり頂きありがとうございます」

 司会者に紹介された原総理は、そう切り出した。だが……原総理の本籍は確かにこの筑穂市だが、育ったのは同じく政治家だった父親が所有していた東京に有る別邸だ。

 ここが地元の筈なのに、地元の人間の方言を良く理解出来ない事も多い。

 そんな場合は……政治家に成り上がれる可能性は低いが、野見山より遥かに気が効く別の秘書が巧く対処してくれているが。

 原総理は地元の名産であるいちごの「紅穂波」を絶賛し……それが結構聴衆にも受けが良いらしく……。

 その時、轟いた音が何かを理解出来たのは……野見山だけだった。

「うぶっ?」

 原総理の胸と口から血。

 更に轟音と血。

「あそこだッ‼」

 絶叫と共に野見山が指差したのは……原総理の背後に有るフェンス。

 そのフェンスの更に向こうには……駐車場。

「あの駐車場……まさか……関係者以外でも立ち入り出来るんですか?」

 県警の警備責任者は……呆然とした表情でカクカクと壊れたオモチャのように首を上下させる。

「あの駐車場には……警官が居ま……」

 そう質問した野見山が呆然とした表情になる番だった。

 今後は……県警の警備責任者の様子は、呆然とした表情で壊れたオモチャような所作のままだが……首を上下ではなく左右に振っていたのだ。

「部下に銃撃を許可して下さいッ‼」

「は……はい……」

 だが……銃撃犯が居たのは駐車場。

 立ち上がれば射線は通るが……屈めば、身を隠す壁として、そして、警官の銃弾から身を護る盾として使える車が何台も有ったのだ。

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