44.国王の苦悩

 ファイアボールの連撃がコスモを襲った。


 だが、コスモは魔剣を用いて、余裕で防いでいた。


 コスモはファイアボールの連撃を防いだ後、大ジャンプをし、魔剣でメアの聖剣を叩き落とす。


「なっ!? 後ろに!?」


 そして、後ろからメタルアームでガッシリと、痛くないようにメアを掴んだ。

 コスモはそのまま、衝撃がかからないように、着地をする。


「そんな……」


 これでメアはもう、身動きが取れないハズだ。


「私の勝ちでいい?」

「嘘だ……」


 この光景を見て、ユリも国王に言う。


「コスモさんの勝ちですよね!」


 すると、国王はユリの発言を無視し、メアの元へと歩いていく。

 コスモは、メアを手放し、メタルアームを解除する。


「お前えええええええええええええええええええええ!!」


 国王がメアに叫んだ。


「なに負けてるんだ! おい!」

「ご、ごめんなさい」

「このおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 国王が拳をメアの顔に向って振りかざした。


『“ケン”カは、“剣”が止める! やめる“ケン”!』

「なにっ!?」


 コスモが魔剣で、国王の拳を防いでいた。


「どういうつもりだ!」

「どうしてそんなことをするんですか!」


 そう、別にこの勝負に負けたとしても、ただコスモが魔王討伐に協力することになるだけだ。

 戦力が増えて、嬉しいはず。


 それなのに国王がなぜ、ここまで怒るのか、コスモには理解できないのであった。

 一方的に負けたのであれば、国の最高戦力としてまずいかもしれないが、そうではないのに、なぜ……?


「負けたからだ! もう、いい、期待ハズレだ……。出ていけ、お前は追放だ」

「そ、そんな……」


 国王は冷たく、メアにそう言い放った。

 メアは地面に手をつき、大きな声で泣いた。


 劇的ななにかがあったとしても、人間そう簡単に変われるものではない。

 変わったと、本人が感じたとしても、多くの場合は短い間、変わったと錯覚しているだけだろう。


 きっと、メアは無理して強く振る舞っていたのだ。


「私より、強かったよ」

「なに嘘言ってるの? 結局は自分が強くなったから精神的に余裕ができただけでしょ!? だからそうやって余裕ぶって上からものを言えるんだ!!」


 なんだか、コスモも前、そんなことを言っていた気がする。


「自分は成長したからっ! だからそんなことが言えるんだ!!」


「私は、なにも成長してない。最初に【剣聖】を貰った時から、なに1つ、成長してないよ」


「私より強くなったし、自身に満ち溢れているし……成長してないって、そんなの嘘だ……」


 嘘ではない。

 強さに関しては魔剣やヨシムラ装備がなければ、その辺の人と変わりない。


 精神面に関しても、力を取り上げられたら、また凹むだろう。

 けど……。


「嘘じゃない。それに、成長するっていいことばかりじゃないよ。

成長するっていうのは今の自分から変わること。

世間的に見てそれがいいことだとしても、自分にとって、それが本当にいいことなのかは分からないから……」


 コスモはかっこつけながら言った。

 いいこと言ったと、自分でうんうんと頷いている。

 まぁ、成長できていない、一種の良い訳かもしれないが。


「私、前のままでもいいの……?」

「自分がそうしたいと思うならね。ただし、私は責任を取れないけど……うん、ごめん」


 コスモはメアの頭を撫でる。

 今度は拒否られなかった。


 と、話していたら……。


「ちょっ、ユリ!?」


 硬い表情をしながら、ユリが国王の方へと歩いていく。

 まさか、殴るつもりでは……?

 そんなことをしたら、ただじゃ済まないだろう。

 そんなことしてはいけない。



☆ユリside


「国王様」


 ユリは、国王様に頭を下げる。


「ってあれ? 殴るんじゃないの?」


 コスモがなにかを勘違いしているようであったが、そうではない。

 これはただ事ではないと、ユリは感じたからだ。


「国王様、私達でよろしければ、ご相談を……!」

「相談だと?」

「はい。国王様、お1人で悩まないでください。私はともかく、今の試合から分かる通り、コスモさんはかなり強いです。どうか、お聞かせください。今なにが起きているのかを」

「一般国民に話すことなどない!」


 ユリは疑問を感じていた。

 なぜあのような行動に出たのかを。


 一般の国民ならまだ分かる。

 だが、この人は国王だ。


 一時の感情に身を任せるのは、どうにも不自然に感じた。


「では、訊き方を変えます。1度試合に負けただけで、大切な【剣聖】、そして後継者を簡単に追放するのは、やり過ぎなのでは? 理由は本当にそれだけですか?」


「そうだ。君は聞いていなかったのか? 負けは許さないと、試合前に私はメアに言ったハズだが?」


「確かに仰いました。しかし、感情に任せ、その場で追放を言い渡すのは、国王様らしくないと感じました」


 おまけに殴りかかったのだ、一般国民の前で。


「私は普段の国王様を知りません。

ですが、一般国民の目の前で後継者に暴力を振るい、更には精神的に追い詰め追放するというのは、国王様にとって不利な行動です。

例え追放するにしても、私達が帰ってからでも良かったハズです。

いえ、追放すること自体、国王様にとってかなり不利になる行動だと思います。

まるで、先のことを考えていない……そんな気がします」


 国王の眉毛がピクッと動いた。


「先のことを考えていないだと? 私は考えているぞ? 一般国民の君達よりもな」


 どう考えてもおかしい。

 ここで【剣聖】であるメアを追放した場合、最終的に自分が損をするのは、いくらなんでも分かるはずだ。


 例え、国王の裏の顔が悪人だとしても、追放する意味が分からない。

 慕ってくれているのだから、それこそ操り人形にした方がいいはずだ。


 となると、考えられるのは……。


「国王様、やはりご無理をなされていますね?」

「なぜそう思う?」


「明らかに判断能力が低下していると、感じたからです。

今まで国を引っ張って来た国王様とは思えません。

今の国王様は、判断能力がおかしくなる程、精神的に追い詰められているのではないでしょうか?

もし、そうであれば、私は国王様のお力になりたい。

どうか、今の状況をお話いただきたいです」


 すると国王は壁を叩いた。


「うるさいぞ……? 君達に、話すことなどない」


 本来であれば、これから先のことは言いたくない。

 こんなことを言っているユリだが、実際は怖いのだ。

 例え国王自身の為とはいえ、国のトップに口答えしているのだから。


「そうですか。では、私の考えだけでも聞いていただきたいです。

なぜメアさんが負けただけで国王様がそこまでお怒りになったのかを、私なりに考えてみました」


「そんなもの、見れば分かるだろう。先程も言ったが、負けたから。それだけだ」


「負けたから。確かにそれが理由です。

しかし、根本的な原因はそこじゃないと思います。

国王様は、私達に魔王の情報をなんとしてでも話したくなかったのです」


「当たり前じゃないか。君達は一般国民だ。危険なことには巻き込めない」


「確かにそうです。いえ、本当はそのような方向に持っていこうとしていたんです。

しかし、実際はコスモさんが勝ってしまった……これでは、その言い分が通りません。

そう、メアさんよりコスモさんの方が強かったのですから!」


「くっ! だが、一般国民は一般国民だ。強さなど関係ない」


「分かりました。では、失礼ですが、行動の矛盾についてお聞かせ願いますか?」


「行動の矛盾?」


「はい。なぜ試合中にマスターバングルの使用を止めなかったんですか?

国王様は口では止めるように叫んでいましたが、実際はただ見ているだけでした。

そこまでのものでしたら、それこそ、そこで諦めずにもっと強く言うべきでした。

正直、試合を中止してもいいくらいです。

ではなぜ止めなかったのか?

その答えは、コスモさんを一方的に打ち負かす必要があったからです!

打ち負かしてしまえば、力不足を理由にして、話さなくて済みますからね!」


「まったく、失礼な奴だ! 止めなかった理由? そんなもの、止める隙がなかったからに決まっているだろう!」


「かもしれません。ですが、まだ不自然な点はあります。

国王様、コスモさんが【剣聖】に匹敵する力を持っていると言った件に関して、“嘘”だと言っていましたね?

ですが、実際に試合でコスモさんがメアさんと互角の勝負をしたのをご覧になっても、平然としていました。

国王様は、コスモさんが強くなったのを、はじめから知っていたのです!

マスターバングルを外部に漏らしたくないのであれば、試合前にでも回収できたはずです。

それをしなかったのは、最終的にそれを使ってでも、コスモさんを打ち負かして欲しかったからです。

そうすれば、先程言ったように、魔王のことを話さなくてもいいですからね」


 確かにメアに試合をすすめなかった国王だが、メアの性格を知っていて、あえてそういう風に振舞ったのだろう。


「ぐ……」


「国王様は魔王について、なにか重大な情報を隠しています!

そして、その情報を抱え込み、精神的に追い詰められてしまった……違いますか?」



☆コスモside


 ユリの最後の発言後、数秒間の沈黙の後、国王の目から、涙がこぼれ落ちる。


 コスモはユリの言ったことが、長すぎて、詳しく理解できていなかった。

 だが、最後の発言を聞く限り、国王はなにか重大な秘密を知ってしまい、それでおかしくなってしまったということなのだろう。


「そうだ……その通りだ……君の言う通りだ。だが、もうどうしていいのか……」

「……話してください。私達、お力になりたいんです!」


 ユリは国王を見つめた。


「分かった……。だが、それでもし、君達が不安になってしまったら……?」

「大丈夫です! 私はメンタル強いので! それに、コスモさんも強いので、きっと大丈夫なハズです! ねっ?」


 ユリがコスモにウインクを放った。

 確かに、今の強さならば、誰にも負ける気はしない。

 まぁ、大丈夫だろう。

 そう考えたコスモは……。


「そのとーり!」


 コスモはユリにそう言いながら、腕を組んだ。

 まるで、自分の意見を代弁してくれたかのような態度だが、実は考えが追い付いていないのは内緒だ。


「国王様、私も覚悟はできてます!」

「君達……」


 国王は先程よりも精神的に安定してきたのか、メアの元へといき、抱きしめる。


「すまなかった……。メアだって辛いというのに……本当にすまない……」

「……いいんです。うぅ」


 互いが抱きしめ、涙を流した。


「一件落着か! ね、ユリ」

「そうですね!」


 しばらくすると、国王とメアは泣き止み、半年間の間になにが起きたのかを話してくれた。


「では、まず改めて礼を言わせてもらう。このままでは間違った判断を下してしまう所だった……。本当にありがとう」


「いえ、いいんです。それよりも、なにが起きたんですか?」


「そうだな……要約するのならば、魔族の存在は確認できた。だが、私達が想像していた種族とは全く違っていた」


「というと……」


 確か、魔王側の種族が魔族だったはずだ。

 魔王も魔族に含まれている。

 それが、確認できたということは……?


「そう。今までは魔族自体はいるとされていた。それは国民も知っての通りだ。だが、実在するかどうかの確認は取れていなかった」


「そうなんですか!?」


 例えばだ。

 モンスターなどは、魔族達が拠点からこちらへ送り込んだものだという認識だ。

 国王は魔族の居場所を知っているものだと、思っていたが、実際は国王自身も知らなかったようだ。


「でも、どうして今回、魔族の居場所が分かったんですか?」

「世界の果ての壁を破ったからだよ」

「世界の果ての壁……?」


「そうだ。これは各国のトップのみが知っている情報なのだが、この“世界の果て”とされる場所には結界のような、触ると弾かれる不思議な壁が存在している。

透明に近いが、向こう側が見えない、実に不思議な壁だよ。

私含めた各国のトップは、この壁の向こう側に魔族がいると睨んでいた」


「実際にはどうだったんですか?」


「その先に……魔族はいた……」


 ということは、そこにいる魔王を倒せばいいということだろう。

 だが、なぜここまで暗い表情をしているのだろうか?

 まさか、思った以上に魔王は強いというのだろうか?


「……心の準備はできているな?」


 魔王がコスモとユリの目を見る。


「ここまで来て、逃げませんよ!」


 コスモはドヤ顔で頷いた。


「私もです!」


 ユリも頷いた。


「……分かった。では、メア、話してやってくれ。

半年前、なにがあったのかを……」


 なんと、メアも知っていたというのか。

 半年前の真実とは……?

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