16.致死率100%

 致死率100%の技、クロスはそう言っていた。

 自身のスキルにより、人間でありつつも魔法を使う事ができるクロスは、その力をその身と剣にまとわせたのだ。


 その剣での一撃が、コスモに向けて放たれた。


「終わりだあああああああああああああ!!」


 パワーとスピードは先程とは桁違いだ。

 だが、それでも。


(さっきよりはかなりパワーアップしてるみたいだけど……それでも一般人のヨシムラさん以下だね)


 SRランク冒険者の実力は、やはり過大評価だったのかもしれない。

 コスモはそこから動かずに、ただ右手に魔剣をかまえる。

 そして、魔剣にクロスの剣がぶつかる。


「なにっ!?」


 コスモは余裕で受け止めていた。


「こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 そして、徐々じょじょにクロスの力が弱まってくる。


「魔力を吸収してるの!? 【剣聖】にそんなことが可能なの……!?」

「私はただ、私のスキルを信じて、こうしてクロスの攻撃を受け止めているだけ。実際にこうしてできているんだから、できているんだよ」

「ぐぬぬ……私は最強だあああああああああああああああああああああああ!!」


 そして、コスモはクロスの剣を空に弾く。

 意図していなかったが、その衝撃で、クロスも吹き飛んだ。


 その後、クロスの剣は地面に突き刺さり、クロス自身は地面に倒れてしまう。


「勝った……? 私が、勝った!?」


 コスモは驚いていた。

 まさか、本当に勝ってしまうとは。


「クロス選手戦闘不能! よって勝者! コスモ選手!!」


 審判はそう言った。

 そう言ったのだが……。


「ぐ……まだよ、まだ負けてないわ……! なんてったって、私は剣士最強のSRランク冒険者クロス!! こんなかっこ悪い結末……あり得ないわ……!!」


 倒れていたクロスがゆっくりと起き上がり、やがて完全に立ち上がる。

 そして、地面に刺さっている自身の剣を抜く。


「お、折れた!? 898000円で買った剣が折れた!?」


 すると、その剣は刀身がポッキリと折れてしまった。

 クロスはしばらく、手に持った折れた剣を見つめた後、使い物にならないと判断したのか、その辺に剣を捨てた。


「ふ、ふん! 私にはまだ魔法があるのよ!!」


 クロスは手をコスモに向けるが。


「……魔力を使い過ぎたみたいね」


 キッ! と、クロスがコスモを睨み付ける。

 そして、右手を前に伸ばし、コスモを指差しながら叫ぶ。


「こ、これで勝ったと思うんじゃないわよ!! 必ず殺すから! 必ず、必ずよー!!」


 クロスが審判を見る。


「ねぇ、まだ私、戦闘不能じゃないわよね?」

「あ、はい……?」

「じゃあ、まだ勝敗はついてないわね! この勝負! 引き分けで勘弁してあげるわ!」


 そう言うと、クロスは転移クリスタルを使い、どこかへと行ってしまった。


「え、えーと……クロス選手は試合放棄と見なしまして……改めて、勝者! コスモ選手!!」


 観客席から拍手が聴こえる。

 コスモが勝ったのを祝っているようだ。


(う、嬉しい!)


 まさか、こんな大勢の人に祝って貰えるとは。

 今まで、大勢の人に怒られることは多々あったが、こんな大勢の人に祝われたのは実に初めてであった。


「やりましたね! コスモさん!」


 ユリが嬉しそうな表情で、こちらへ近づいてくる。


「流石です! 私は信じてましたよ!」


 ユリはまるで、自分のことのように嬉しそうだ。


「あ、うん。……ありがとう! 勝てて良かったよ!」


 コスモも、ユリに笑顔を見せた。


「本当に、嬉しそうですね!」

「嬉しいからね!」


 そう、嬉しかった。

 何の能力もなかった自分が、スキルのおかげで、こんな大勢の人に認めて貰えている。


(本当、あの日教会に行って良かった! あの日、スキルを解放してもらって本当に良かった!)


 どんなスキルがそなわっているか、それは解放しないと分からない。

 だから、コスモは怖かった。


 もしも、あのまま一生スキルを解放していなかったら……?

 こんなに大勢の人に褒められることは、おそらく一生無かっただろう。


 ハズレスキルだったらどうしようという不安は、勿論あった。


(けど、一歩踏み出せて、本当に良かった!)


 普段あまり心の底から笑うことのないコスモであったが、今この時は、心の底からの笑みを見せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る