イワトビーの長老 -6-

「そうか。イワオは外の世界を知っておるのだな」


「はい。ここにいては、見えるものしか見えませんから」


 ふむ、と長老は軽くうなずいたように見えた。


「ブラックペンギンが実はカラスであるということを、大人たちや他のだれかに伝えたことはなかったのか」


「言おう、と思ったことは何度かあります。ですが、絶対にわかってもらえないので、結局だれにも言わず、事実は自分の中だけにとどめました。口に出したのは、今が初めてです」


 イワトビーしか生息していないヒョウザリン山に、カラスという亜種がいるといったところで、まともに取り合ってくれるものは誰もいないだろう。


「そうか」


「そうかって、感想はそれだけですか?」


「大人は皆、ブラックペンギンがカラスであるということは、知っていただろうからな」


「皆、知って!? 知っていて、あいつにやさしくしていたというのですか!?」


「子供は知らないものがほとんどだっただろうが、当時の大人たちは知っているのが当然だった。なんせ、わしらイワトビーは、昔は下界に住んでいたのだからな。カラスも、他の生き物も、下界のことはだいたい見てきておるよ」


「な、なんですって!? もとは我々も、下界に暮らしていたですって!?」


 長老は耳元で叫ばれ、思わず羽で耳をふさいだ。


「大声を出すでない。だからそうだといっている。海のある氷点下に近い地域でコロニーを張って生活していたが、あまりに仲間がアザラシンやカモメマンに襲われ食われてしまうので、集団での大引っ越しを決意し、このヒョウザリン山に移って来たのだ。ここでは天敵もおらず、皆新たに子を産んで、平和に暮らしてきたというわけだ」


「そんな、まさか……。パパからも、ママからも、だれからもそんな話は聞いたことがない……」


「まあ、そうかもしれないな。捕食されていた過去があるなど、わざわざ子供に聞かせるような話でもないし、越してきてから、ずいぶん時も経っていたしな」


 長老の話すことは寝耳に水で、イワオの心中は混乱を極めていた。


「では……天敵だとわかったうえで、あいつのことを……なぜですか? それこそ成長すれば、我々は食べられてしまうのに」

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