炎の大魔導師はペットが苦手 -4-
「反省したなら早く作るペン」
半乾きだったはずのキルトが、またびっしょり濡れている。
キルトから雫がボタボタ落ちてきたと思ったら、ささやかな焚火の炎をすっかり消してしまい、落ちた雫がひとところに集まると、トビーの姿になった。
「はぁ……」
どなたかウソと言ってください。ふたたび、いちから乾かし直さなくてはいけません。
「ため息ばかりついてたら、老けるペンよ。いいから早くごはんにするペン。もうペコペコペン」
喧嘩を売っているのでしょうか、このクソペンギン。人に心配させておいて。なにがペコペコペンです。
駄目ですね。まともに相手をしていては、こちらが疲れてしまいます。望み通り、腹を膨らましてやりましょう。
「わかりました。これでも食べてなさい」
「疲れた顔してるペンよ。そんなんじゃモテないペンよ。あ! これ、スプーンで食べるやつペンね! ザクザクしてておいしいペン! これ、好きペン!」
「それはよかったです。八角形の栄養素は完璧ですから、たくさんおあがりなさい」
「ミリアの作るごはんはやっぱり最高ペン! そういえば、これ、なんて料理ペン?」
「さあ。今度調べておきます」
「ミリアでも知らないことがあるペンねえ」
完璧な八大栄養素を形成する食べ物。それはコーンフレーク。
ちなみに、前回食べさしたのは、チョコワ。
このイワトビー。とにかくザクザクとした食感と冷たいミルクさえ与えておけば、なんでもおいしいおいしいと言って食べるのです。
フレデリック君は手の込んだ熱々の料理を出してあげていましたが、氷属性であるイワトビーが熱い料理を食べられるわけがないのです。
このあいだのレストランにおいても、トビーは冷製ミートパスタを注文していました。その時点で、トビーの食の好みに気づくべきなのです。
氷の大魔導師とは、聞いてあきれます。なにより、飼い主失格です。
「ミリア、ありがとうペン! また作って欲しいペン!」
「……別に、いいですよ」
コーンフレークさえあれば満面の笑み。安いペンギンです。
しばらくは面倒を見てあげるのも、悪くないかもしれませんね。
「ミリア、おかわり!」
「それ以上、脂肪をまとうつもりですか」
「え。誰のことペン?」
「誰って、トビーのことですが」
「え。誰のことペン?」
「誰って、トビーのことですが」
「え。誰のことペン?」
「誰って、トビーのことですが」
「いつまでこのくだり続けるペン?」
「誰って、トビーのことですが」
「ミリア、面倒くさくなってないペン?」
しかしということは、キルトが渇くことは永遠にないということ。
トビーは今後もベッドに潜りに来るでしょうし。
「ミリア? このくだり……。ダメだペン。ミリアはいったん自分の世界に入ったら、もうしばらく帰ってこないペン。やりにくい女だペン」
とはいえ、ベッドから抱き心地満点であろう脂肪を追い出すというのも。うーむ、これは難問です。
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