第37話 それはメッセージなのかもしれない
パーシル達はジュピテルたちを追い、第三拠点を後にした。
彼女たちは、ほぼ確実に大樹を目指したと予測されることから、パーシル達も巨木の影を目印に魔の領域を北上していくことにした。
「でもさー。ここ本当に何もないわよねー」
赤い瘴気の中、レインが食糧を積んだ鞄を背負いあたりを見渡した。
同じくレインの二倍の大きさのカバンを背負ったアーランドも頷く。
「うむ、生き物、魔物はおろか草木すら生えてはおらぬな」
「もしこの瘴気が王国まで伸びてきたと思うとぞっとするわよねー」
「確かに恐ろしい話だな」
パーシルはヴェインを背負いながら歩みを進めている。
ジュピテルに追いつくためには大人の歩行速度が必要だった。
荷台を取られていたため、パーシルは食糧を最低限にし、ヴェインを背負い進むことにしていた。
――久しぶりに背負ったが、こんなに体が大きくなっていたのか。
以前よりも重さと背負いやすさを感じ、こんな状況下ではあったが、パーシルはどこか安心を感じていた。
「それでパーシル。お前の父親があの巨木に向かっていたというのは本当か?」
「ああ、なんでも巨木に向かった仲間を連れ戻すために一人で向かっていったらしい」
「なんというかそういうところパーシルの父親って感じねー」
レインがクスリと笑った。
アーランドもうんうんと同意した。
「ああ、ここぞというとき、一人で何とかしようとするところがまさにそれだ」
パーシルは首をかしげた。
「……そうか?」
「オレもそう思う」
「ヴェインまで」
背中に背負ったヴェインも二人の言葉に同意し、パーシルはたじたじになりながら、ヴェインを背負い直し、頭をかいた。
「でもさ、そんだけ頑張っているあんただから、あたしたちは一緒にいるわけ」
「……レインそれ、D=@42OH@」
「え、なに、ヴェイン?]
「なんでもない」
「なによそれ」
カラカラとレインは笑った。
その様子にヴェインもつられて笑っているのをパーシルは背中越しに感じていた。
「だが、パーシル。大丈夫なのか? もし、父親が魔物化していた場合、お前は戦えるのか?」
「ああ、大丈夫だ」
20年前の調査団の一人が魔物化していたのでその可能性はパーシルの中で想定されていた。
――大丈夫やれる。もしそうなっていたとしても。
もう20年以上も会っていない父親だ。思うところはあるが、パーシルは決意を固めていた。
「そうか、だが無理はするなよ」
パーシルの表情をみたアーランドは軽くパーシルの胸を叩いた。
頼りになる仲間に、少し肩を力が抜けたパーシルはお返しばかりに軽くアーランドの背を叩いた。
「そろそろ、第四拠点の設置予定位置につくはずだ。彼女たちが休息を取っていれば追いつく可能性もある」
だがパーシルの想定は外れていた。
歩みを進めるパーシルたちの視界が突如として開けたのだ。
パーシル達の20mほど先には巨大な大樹がそびえたっていた。
その身の丈は普通の木とは比べ物にならない。
見上げるだけではその頂きを見ることは叶わず、枝には血のように赤黒い葉が不規則に生えている。
風が吹き、その葉が揺れるたびに赤い瘴気が葉から湧き出ていた。
「あれは……」
その大樹には一本のさびかけた銀色の剣が突き刺さっていた。
その銀色の剣にパーシルは見覚えがあった。
同時に第四拠点の予定位置などは存在しなかったとパーシルは確信を持った。
――20年前の調査は王国の独断で打ち切られた。
手記に残された情報が脳裏にこびりつく。
あれには王国からの補給はなくと書かれていた。
あの魔物がいたということは、現実に補給はなく、人が一人死んだということだろう。
また、第三拠点から徒歩で樹に向かった人間がいる。
おそらく正確な測量ができた人物なのだろう。
――そうだとするとあの第三拠点が最終拠点。彼らが安易に先に進まなかったのも納得できる。
20年前の調査団はあの位置で万全を期してから大樹の調査に向かおうとしていたのだとパーシルは今になって思い当った。
――だから、手記を念入りに調べた彼女はそれに気づき先を急いだ。
一人の少女がこちらを見ていることにパーシルは気が付いた。
ジュピテルだ。
彼女はパーシルを認識すると樹に振り返り待機させていた兵士たちに号令を放った。
「全員! 樹に向かい突撃準備! あの樹は私たちが破壊する!! 破壊しなければならない!!」
瞬間パーシルに悪寒が走った。
なぜそう感じたのか、パーシルはその理由を探すが情報が足らず、すぐに言葉にすることが出来なかった。
――あの銀の剣は父親の剣だ。
パーシルには冒険者であった自分の父親が意味もなく樹に剣を差すなんて考えられなかった。
――追いかけた男と、ただ争っただけか? 何か別のものと?
ちらりと周囲を見渡す。
周囲に影の魔物はいない。
20年も生存できるあの魔物は少なくても一体か二体はいないとおかしい。
仮に、ジュピテル達が倒したとしてすることも考えられるが、20年前は別だ。
魔物のいないこの状況でどうして父親は剣を樹に突き刺した。
――樹が襲ってきたというのか……!
「突撃開始!」
「待ってくれ!」
パーシルはその剣の意味を悟り、彼らをとめた。
だが、彼らは止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます