第30 改む

コンビニで買い物を済ませた、絋は、家路へと向かった。

絋の家は、駅前の接骨院である。

母と二人暮らしで、母は、女手一つで、絋を育ててくれた。

早くに父を亡くし、父が残してくれた接骨院で生計を立てていた。

巷では、ちょっと有名な美人親子。それなりに店は、繁盛していた。


絋「明日は、久しぶりの休みだ~~、今日は、思いっきり、夜更かしするぞ~」

絋は、韓流ドラマにハマっていた。

足早に、心を躍らせ帰宅した。1階の診療所を見ると、薄明るく、電気が付いているような気がした。


絋「あれ?電気ついてない?消し忘れかしら?」

時刻は、22時になろうとしていた。

診療時間は、とっくに終わっていた。


診療室は、1階で、絋達は、2階に住んでいた。

すぐにでも、韓流ドラマの世界に浸りたい絋であった。

舌打ちをしつつ、診療所の電気を消すため、裏口へと回った。


裏口のドアを開け、診療所の入り口のガラスが、曇っていた。


そこで、絋は、異変に気が付いた。


ガラスが、曇っていて中の様子が見えない。


絋は、思った。(誰かいる?お母さん?誰?)

母が薄明りで、中にいるとは思えない。


(まさか、、、泥棒?)中で、人の気配がする。


絋の心臓は、張り裂けそうになる。

手に持った、スマートフォンで110を、押そうとするが、手が震えて、なかなか押すことができない。


かすかに、中から声が、聞こえてくる。


(違う、違う、そこじゃない)(すいません、、、)


絋「お母さん?、と、、誰かいる??」


(いいのよ、焦らないで)(す、すいません、、、)


絋は、スマートフォンを握りしめて、じっと中の様子をうかがった。


その時、突然、中から、(うううッ)と大きな叫び声のようなものが、鳴り響いた。


絋「中で、何を、、、?」


(ハアハア、ゆっくり、ゆっくり、お願い、お願い)(は、はい)


何かが、軋む音がする、その音が、一定のリズムを刻んでいる。


(ハアハア、ハアハア、いい、すごくいい)

声が、はっきりと聞こえてきた。


(ああ!ああ!ああ!)叫び声と共に、軋むリズムが早くなる。


絋は、息を飲んで耳を傾けている。その時、もう一人の人物が声を上げた。


(ノリカさん、僕、もう、、、)(いいのよ、いいのよ)

中の二人の声が、交差する。


絋「いったい、中で、何を、、、?」


(ああああああああ!)

という叫び声と共に、静寂に包まれた。



絋は、そこから、体感的に5分いや、10分程、動くことが出来なかった。


恐怖と困惑、しかし、意を決意して、扉を開けた。


部屋中に充満した、男と女の匂い。


診察台に横たわる、母の姿。


それを見守る男の姿。


タオルケットを掛けられた、母は、今まで、見たこともない幸せそうな、顔で横たわっている。


最初に話しかけてきたのは、男のほうだった。


太郎「いや~、待ってたよ。絋さん」

絋「あなた、いったい、母に何したの?」

太郎は、不敵にも笑った。


太郎「僕、わかったような気がする」

不信そうな表情をしいる絋に対して、太郎は、更に話しかけた。


太郎「人を、幸せに出来る方法だよ」






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