第21話 優華 20歳 大学生

優華は、駅前のファーストフードで大学の課題に取り組んでいた。田舎から東京の大学に来て授業とアルバイトで精一杯だった。

大学の友人達は、サークルだの、飲み会だのと、大学生活を満喫しているようだ。


しかし優華には、そんな余裕もなく、想像していた大学生活とは、かけ離れていたのだった。

ふと、時計を見ると、7時を回っていた。お店の出勤時間だった。

優華「いけない、こんな時間だ」優華の憂鬱な時間の始まりだ。

急いで店を出ようとしたその時、電話が鳴った。


優華「080,、、、知らない番号だ」優華は電話を取った。

「もしもし、、、優華さんですか?」男の声だった。

優華「はい、そうですが、どちら様ですか?」

「太郎です。昨日のお詫びに今日、また店に行こうかと思いまして」

優華「太郎ちゃん?この番号太郎ちゃんなの?」

太郎「はい、そうです」

優華「昨日、あれから大変だったのよ、今、何処にいるの?」

太郎「駅の改札にいます」

優華「ちょっと待ってね、私も近くにいるから、そこに行くわ」


駅の改札に向かうと、太郎は、満面の笑みで手を振っていた。

太郎「優華さん、こんばんわ」能天気な太郎を見て、優華は、少し拍子抜けした。

優華「こんばんわ、太郎ちゃん、お店は当分止めた方が、いいわ」

太郎「なぜですか?」

優華「昨日、大変だったのよ、あれから明日香さん荒れちゃって」

太郎「そうだったんですか?」

優華「明日香さん、太郎ちゃんの連絡先教えろって、一体何したの?」

太郎「特に何もしてません、しかし参りましたね、せっかく優華さんとお話しようと思ったのに」

優華は、ドキッとする。



優華「それなら、、、どっか遊びにいこうか?」

太郎「しかし、お店は、、、?」

優華は、お店に電話をし、体調が悪いから休むと告げている。


優華「さぼっちゃった」優華のいたずらっ子のような笑顔みせた。


太郎と優華は、電車を乗り継ぎ、海の見える公園を目指した。

相変わらず優華のマシンガンの様な会話が続く。

太郎は、話を聞いてうん、うん、と頷くばかりだ。それでも太郎は、嬉しかった。

新幹線で初めて会った時のような優華に戻っていた。


優華「うぁ~、私、初めて来た。田舎のテレビでは、よくやってたから、行ってみたかったの」

太郎「僕も、初めてです」

優華「あとで、観覧車も乗ろうよ」

太郎「はい、いいですよ」


海辺の公園を二人は、歩いた。真っ暗な海の向こうには、ビルの明かりが光っていた。夜の海というのは、不思議な感情をいだかせる。

いつもは、よく話す優華も黙って夜の海を見つめている。

夜の暗さに目が慣れてきた頃に、浜辺のベンチには、多くのカップルらしき男女がいるのがわかった。二人の沈黙が続いた。


最初に話したのは、優華だった。

優華「私、東京に憧れて、東京の大学に入って、東京の生活してみて、、、、」

優華は、言葉を詰まらせる。


太郎「東京の生活は、どうだったんですか?」

優華「辛かった、、、誰も話せる人がいなかった、、、でも太郎ちゃんに出会えてよかった」

太郎「優華さん」

優華「太郎ちゃん、、、、、~」波の音にかき消され太郎は、聞き取ることができなかった。

太郎「優華さん、何と言ったのですか?」

優華「教えない~」とあっかんべーという表情をみせた。


太郎が困った表情をみせると観覧車へ行こうと優華は、太郎の手を握ってきた。



楽しい時間というものは、あっという間に過ぎていく。

太郎は、優華のアパートの前まで送った。


太郎「今日は、楽しかったです ありがとう」

優華「私もこんなに楽しかったの,久しぶり、ありがとう」


太郎「それじゃ、またね」とお別れの挨拶を告げる。

太郎が駅の方へと振り向くと、そこは、無音の世界だった。寂しさを感じながら、駅へ帰り道を歩く。楽しさからの反動、虚しさ。そんな感情を初めて感じたのだった。



太郎の背中に衝撃が走る。その衝撃は、太郎の背中にぬくもりを与えた。優しいぬくもり、、、


優華「ごめん、わたし、やっぱり寂しい、もっと一緒にいたい」

太郎は、うんうんと頷いた。





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