第10話 帰宅
「映画面白かったわね」
「そうだな。さすがは100億の女。ヒロイン力高かったな」
「でも爆発しすぎだと思うの。次は被害総額抑えめでいくのはダメかしらね」
「真奈実に聞けば歴代の映画の内容教えてくれるんじゃないか?」
「それだけは嫌。楽しみが減っちゃうもの」
映画の感想を言い合いながら館内を後にする。
映画も見終わり、時間も17時過ぎと頃合いだ。
そろそろ帰宅するとしようか。
本屋へと戻ると、併設された飲食スペースでカフェオレを飲みながら本を読んでいる真奈実を見つけた。
こちらに気が付いたのか、笑顔で手を振ってきた。
「お帰り~。どうだったデートは? 楽しめた……みたいだね?」
「ええ。とっても。ありがとね真奈実、私達に時間を作ってくれて」
「いいのいいの。寧ろ本来のデートをわたしが邪魔しちゃった感じになってたからさ」
「そろそろ帰ろうかと思うんだけど、まだここで読むか?」
真奈実の読んでいた本はもうページが残りわずかだ。
少しぐらい読んでいても問題はない。
「んーん。家で読むから良いよ」
「なら帰るか。買い忘れとか無いか?」
確認のために言ったけど思いつく限りではもう無いはず。
「夜ご飯の食材は?」
「あ、忘れてた」
まだ買う物があった。
だけどそれは1度家に帰ってからだな。
食材を抱えて電車には乗りたくない。
そういう訳で一旦家に帰るとしよう。
途中明音の寮に寄り、今日買った明音の服を置いてくるのと引き換えに泊まりに必要な荷物を取りに行く。
「お待たせ。それじゃあ行きましょうか」
「何か昨日よりも荷物が多くないか?」
昨日は大きめのトートバッグ1つだったが、今はそれに加えて一回り小さいバッグも持っている。
「真奈実に渡す物を持ってきたの」
「渡す物?」
「そうよ。柚希には関係ない物だから安心して」
「そうそう。お父さんには関係ないよ~」
そう言われると気になるけど、聞くと怒られそうな雰囲気なのでやめておこう。
明音の寮から歩いて約15分。
5階建てのごくごく一般的な集合住宅。
ここが俺の住むアパートだ。
大学からも近く、住人はほぼ俺と同じ大学生。
そしてスーパーや薬局なども近辺にある好立地。
「俺の部屋は3階の角部屋のここな」
玄関前に着き、鍵を開け中に入る。
「お、お邪魔します」
「お邪魔します」
「見ての通りだけど右側の扉はトイレと風呂場なー」
「洗面所はさすがに無いか~」
「贅沢を言うんじゃありません。一人暮らしには必要ないだろ。代わりに洗面台はあるから」
「お、ほんとだ」
我が家は玄関を上がってすぐ右手にトイレと風呂場があり、左側には洗面台とコンロやシンクが配置されている。
「洗面台があるのは羨ましいわね。寮にはお風呂場に併設された物しか無いから」
「そう言えばそうだったな」
そして廊下の奥には生活スペースがある。
扉で区切られていないため風通しは良い。逆に冬は寒い。
1ルームで9畳という一人暮らしとしてはそこそこの広さ。
「あら。いつもより綺麗にしてるわね」
「まあな。今日から真奈実も住むから物置けるように片付けておいた」
「ありがとうお父さん」
といっても元から物はあまり置いていないため、整理してスペースを作ったり押し入れの段を1つ空けたぐらい。
「割と広いけど、お父さんここ家賃幾ら?」
「水道ネット諸々込みで4万5千」
「安い……んだよね?」
「まあこの条件なら安めじゃないかと思うけど」
「ふうん」
家賃の話は置いておいて、さっさと荷物を片付けてしまおう。
布団が配達される時間もそろそろやってくるので、それまでに整理しておかないと部屋がぐちゃぐちゃになってしまう。
ちょうどその時、ピンポーンとインターホンの音が。
お布団到着のお知らせだ。
まだ買った荷物を広げる前だったのが逆に良かったのかもしれない。
届いた布団はひとまず部屋の奥に置いておいて、それ以外を整理する。
布団と一緒に組み立て式の三段のタンスも買っておいたので、組み立てて押し入れに入れるのが良いだろう。
それは真奈実と明音に任せるとして、俺は夜ご飯の食材を買いにスーパーへ向かうとしよう。
「ご飯は何にするの?」
「唐揚げにポテサラ、卵スープとかにしようかなと」
「そんなに作るの?」
「まあ折角だからな」
普段ならここまで多くは作らないけど、今日から真奈実が居候を始めるわけだし、歓迎の意味でも沢山作る予定だ。
「じゃあその間にタンスを組み立てておくわね。押し入れに置けば良いのよね?」
「ああ、頼む。それじゃ行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
2人に見送られ、スーパーへ向かう。
土曜日の18時頃ということもあって少し混雑していたが、概ね20分位で帰って来ることが出来た。
もうタンスも完成して服やら何やらをしまい始めている頃だろうと思ったのだが。
「えっと、これどういう状況?」
「柚希……。助けてくれる?」
「え、あーうん」
部屋には、タンスの部品である木板やらネジが散乱していた。
組み立てられなかったのだと一目で分かる。
明音は申し訳無さそうに、ばつが悪くなっており、助けを求めるようにこちらを見上げている。
「よくよく考えたら説明書も無しにわたしとお母さんだけで組み立てられる訳が無かったんだよね」
真奈実に至っては開き直っていた。
2人はこういった工作は苦手のようだ。
「じゃあまあ取り敢えず俺がやってみるから」
説明書はないみたいだが、完成図はあるのでそれを元に組んでいく。
「はい、出来た」
10分ほどで完成したが、思いのほか作業は楽しかった。
「おお~。さすがお父さん」
「いやあそれほどでもー」
無事タンスも押し入れに置けたので夜ご飯を作るとしよう。
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