165話 これからに向けて

 ミナのはからいで、戦勝記念のパレードが行われることになった。

 これで戦争は終わりなのだとアピールするつもりらしい。

 そして、これから王国は上向きになっていくのだと。

 今このタイミングなのは、復興と戦争が忘れられるまでのバランスなんだろうな。

 まあ、自国の被害が一番大きかったのは、マリオが起こしたクーデターなのだが。


 大勢が集められており、俺の知り合いも相当多い。

 というか、ほとんど全員と言って良い。エルザさんとエリスは孤児院で待っているが。

 馬車に運ばれながら、王都に集まった民衆に手を振っている。

 触れ込みでは、俺達が王国を守るために戦った勇士とのことだ。

 国王と宰相が馬車の終着点である王城で待っており、そこで大きく祝うらしい。


「聖女様ー!」


「勇者様ー!」


「剣聖ユリアに賢者サクラも居るぞ!」


「ミナ様も、歌姫ルミリエも、大司教シルクまで!」


「近衛騎士団長のソニアだっているぞ! 英雄達が勢ぞろいだ!」


 民衆達はそれぞれに思い思いの人間の名を呼んでいる。

 ノエルやフェミルにシャーナさんも居るのだが、流石に顔は知られていないみたいだ。

 まあ、目立ちたい人間でもないから、ちょうどいいのだろう。

 どれだけの人数が仕込みなのだろうな。正直に言って気になるが、まあ分かるものでもないよな。


 大勢の人に囲まれながら、馬車はゆっくりと動いていく。

 なんというか、有名人にでもなったような気分だな。いや、王国の民衆に名は広がっているのだろうが。

 一応、敵国の王を2回も討ったわけだからな。それは有名にもなるだろう。

 とはいえ、全然慣れない。普通に学生として過ごしていた頃が懐かしいな。

 まあ、初日に有翼連合に襲撃されるようなドタバタした日々ではあったが。


「リオン、まだ緊張しているの? いい加減に慣れなさいよ」


 返す言葉もないのだが、一般市民だった前世の感覚が抜けない。

 まあ、サクラは平民から今の立場になったのだから、そこまで離れては居ないのだろうが。

 俺に適性が無いだけかもしれない。それでも、頑張るしか無いのだが。

 ミナの騎士になるのだから、式典にも参加するのは必然なんだからな。


「ああ、悪いな。どうにも気楽だった頃を懐かしんでしまう」


「共感します。ですが、今の私達の仕事ですから」


「リオンお兄ちゃんにも、カワイイところがあるんだね」


「割と母性が刺激される人ではあるわよね」


 ノエルとフェミルにはメチャクチャなことを言われている。

 褒められていると思って良いのだろうか。情けないと言われていないか?

 まあいい。緊張しているのは事実だし、仕方のないことだ。

 カッコいいと言われたいものだが、世辞を求めている訳ではないからな。

 親しみを持ってくれているのだと、好意的に考えよう。


 実際、俺の力は大きすぎるからな。親しみやすさは大事だと思う。

 軽く国を滅ぼせるくらいの能力だからな。トゥルースオブマインドは。

 知られないことが一番だが、最悪を想定しておくのは大事だからな。

 何もない可能性の方が高いにしろ、備えはしておかないと。


「そんな子供相手に言うようなことを……少し恥ずかしいな」


「わたくしとしては、リオンの弱さは嫌いではありませんよ」


「そうですね。リオン殿は弱点を持っているからこそ、支えたいと思われるのでしょう」


 まあ、完璧超人は遠ざけられるイメージがあるよな。

 そういう意味では、弱さを知られているのは悪いことではない。

 ディヴァリアが本物の聖女だったとしたら、近づきがたいと思っていた気もするし。

 良くも悪くも、完璧ではないからこそ好きになったんだと思う。


 俺の周りの人間は、とんでもない力の持ち主が多い。

 単純に考えて、高嶺の花だと思ってもおかしくないくらいには。

 それでも親しみを持てるのは、みんなの弱さを知っているからではある。

 だとすると、俺も同じように思われているのだろうな。


「確かに分かるところはあるな。自分でもどうにかできそうな人は、放って置かれがちだからな」


「そうじゃな。うちの見てきた光景にも、いくつかあったぞ」


「リオンちゃんは、私達は自分だけではダメかもって思ったんだね。正解だけど」


 というか、ミナ達はみんな追い詰められていたからな。

 俺がどうにかしなければ、潰れてしまう姿が目に見えるようだった。

 だからこそ、全力で味方をした訳だからな。

 そういう意味では、自立できる人間とは思っていなかったのは確かだ。


 まあ、今のミナ達なら、最悪俺の支えがなくても大丈夫だとは思う。

 でも、大切な友達だからな。できることは何でもしてあげたい気がする。

 あまり手出しをしすぎても邪魔だろうから、適切な距離感を保つつもりだが。

 俺が必要とされなくなっても、ある意味では喜べそうな人達だったんだよな。

 どうも、いつか折れてしまうのではないかと心配だったから。


「出会った時のミナ達は、みんな暗い顔をしていたからな。助けたいという気持ちはあったよ」


「なら、私もかな? 私の質問には、何でも答えてくれたよね」


 どうだったのだろうな。

 今思えば、殺されたくない一心だった気もするし、一目惚れだったような気もする。

 10歳くらいの頃には、確実に大切な相手になっていたのだが。

 まあ、本気で困っているという雰囲気は感じていたと思う。


 ディヴァリアがどうして人を殺してはいけないのかと質問してきた時のことだよな。

 あの時は、倫理観からの答えを求めていなかったことは分かったはずだ。

 そうなると、求める答えが得られないと悩んでいたのを感じ取った可能性はある。

 あまりにも昔の記憶過ぎて、正確には思い出せないな。


「どうだろうな。正確な感情なんて、覚えてないよ」


「3歳の頃だもんね。当たり前だよね。私は、リオンが何でも答えてくれて嬉しかったよ」


 まあ、確かに何にでも答えていった。

 ディヴァリアの質問に回答すれば、良い未来がつかめると信じて。

 実際、今に繋がっていると思えば、良い未来というのは間違いではないな。


 ときおり雑談をしながらも王城へと向かっていき、やがてたどり着いた。

 そこでは予定通りに王と宰相が待っており、俺達も近寄っていく。


 パレードの最後に、演説が行われる予定だ。

 国王レント、宰相ヨシュア、そして第4王女であり時代の王であるミナ。

 これからの国の展望を示していき、王国は良くなっていくのだと言葉でも示すのだそうだ。


 まずは、王が壇上へと歩みを進めていく。

 王というだけあって、威風堂々とした姿だ。

 城の前に集まっている民衆も、大きな歓声を上げている。

 国王が右手を上げると、声が落ち着いていった。

 そして、王はゆっくりと話し始める。


「皆のもの。よくぞこれまで耐えてくれた。我が国の敵となる、帝国も教国も我が支配下に置かれた。これより、王国はさらなる発展を遂げるであろう!」


 爆発的な歓声が巻き起こり、王は頷きながら去っていく。

 やはり、民衆にも希望が見えてきたのだろうな。

 これまで戦いが続いてきたが、王国は黄金の時代を迎えるのだと信じているように見える。

 国王レントは子育ては下手だとしか言いようがないが、やはり立派な王なのだろうな。


 次いで、宰相が壇上へと足を進める。

 枯れ木のような見た目でありながら、しっかりとした足取りだ。

 立ち止まって一度深呼吸をした後、穏やかに話し始める。


「王国はこれから、大きな変化を迎えるでしょう。その前に、私の最後の仕事があります。我が国の悪しき側面を切り離すために」


 何だろうか。俺の考えだと、力こそが最も尊いという価値観が当てはまるが。

 ふと浮かんだ可能性として、宰相が敵だとするならば。

 今この場でディヴァリアを切り離そうとすることもあり得るか?

 俺の予感は当たっていたようで、宰相は強い口調で叫ぶように続けていく。


「聖女、いや、魔女と呼ぶべきでしょう。私は魔女ディヴァリアの悪事を告発いたします!」

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