155話 愛し愛されるために
今日は使用人達とのんびり過ごすようにと言われた。
完全に、ディヴァリアに生活を支配されている。もはや笑うしか無い。
ただ、悪い気分ではないんだよな。ディヴァリアに束縛というか、制御されるのも。
使用人達って言い回しからも、ノエル以外の使用人を大切にしてくれている様子も見える。
ディヴァリアと周囲の関係は、俺にとって大きな心配事だったからな。
大事な問題が1つ解決したような気分だ。ありがたいことだ。
使用人達にも、教国との戦争で心配をかけたかもしれないよな。
もう大丈夫だということを、しっかりと伝えていきたい。
トゥルースオブマインドの力を考えれば、そう簡単には傷つくことはないはずだ。
これまで戦ってきた全ての敵に、大した苦労もなく勝てる能力なのだから。
「リオンさん、わたし達だって、いずれ側室になるんですよっ。聖女様と決めましたっ」
「もうちょっと先だけど、妹から妻になるんだよね、リオンお兄ちゃん」
「私も巻き込まれたのよね。嫌なわけではないけれど」
ユリアとノエルは完全に乗り気だ。顔からも分かる。嬉しくはあるが、どうしたものか。
もはや俺の考えなんて無いも同然なんだよな。女所帯で男一人なのだから、当たり前ではあるが。
前世でだって同じだった。妹の友達に囲まれると、俺の意志なんて完全に無視されていたからな。
女は結託すると強い。よく分かっている。まあ、俺の自業自得ではあるよな。男友達を作ってこなかったせいだ。
「俺だって嫌な訳では無いが、ユリア達のことはディヴァリアとの話には出てこなかったぞ」
「わたしの方から、聖女様にお願いしましたっ。快く引き受けてくださいましたよっ」
「ノエルだって側室になりたいって言ってたよねって、ディヴァリアお姉ちゃんに言われたんだ。よく覚えていてくれたよね」
ああ、あったな。俺達のそばに居られるのなら、側室でもメイドでも妾でもいいみたいなセリフ。
いつだったか。サクラと出会ってすぐだったような気がするな。
あの頃からずっと、ディヴァリアと俺が結婚することは当たり前だと考えられていた。
いま思えば、俺の想いもディヴァリアの想いも筒抜けだったんだろうな。
それなのに、ディヴァリアの結婚を他人事のように考えていた。情けない限りだ。
「なんだかんだで、ディヴァリアは優しいからな」
身内には、間違いなく。俺にだって、とても優しくしてくれた。
ディヴァリアを好きになった理由の一つでもあるのだろうな。自分に好意的な相手は、好きになりやすい。
側室を認めるほど優しいとは思わなかったが。恋敵なんて殺すんじゃないかと考えていた。
いや、昔なら殺していたか。ディヴァリアだって変わっただけなんじゃないだろうか。俺がサクラと出会ってからの日々で大きく変わったように。
「聖女様は、あまり接点のない私だって気にかけてくれたもの。優しさは伝わるわ」
「ディヴァリアお姉ちゃんは、ノエルを助けてくれた。それだけで、最高の人なんだよ」
「聖女様はお優しいですよっ。わたしをリオンさんの使用人にしてくれましたからっ」
親しい人相手のディヴァリアは、本気で聖女という名にふさわしいと思う。
いつも穏やかで優しくて、大切な相手だと伝えてくれる。
サクラやノエル、ミナ達に対する態度は本気で最高だからな。
聖女としての外面からでは見えないすばらしさを感じるんだ。
「俺だって、ディヴァリアに助けられたことがあるからな」
「そうなんだ! やっぱりディヴァリアお姉ちゃんは素敵だよね!」
「わたし達を側室にするのも、悩んだと思うんですっ。わたしなら、独占したいと思うでしょうからっ」
「そうよね。私達なんてただの使用人なんだから、尊重するメリットは少ないもの」
確かにな。サクラも同じだ。ミナやシルク、ルミリエならば結婚にメリットがあるのは分かる。
相手の立場が立場だから、名声やら何やらを利用するのは悪くないはずだ。
だが、使用人達には無関係な理論だからな。それこそ、妾の方がメリットは大きく見える。
にもかかわらず、結婚するのに賛成したのは、間違いなくディヴァリアの情だ。
嬉しいよな。親しい相手を大切にするディヴァリアを見るのは。
「実際、使用人と結婚する例はあまり思いつかないからな。妾なら、よくあることだが」
「分かるわ。私だって、情婦くらいの立ち位置なら納得したもの。聖女様の優しさが伝わってくるようだわ」
「そういえば、フェミルは他に結婚したい相手は居ないのか?」
「別に居ないわ。だから、リオンが相手なら嬉しいわ。あなたの子供を生むのも、悪くないと思う」
「なら良いが。お前は俺に恋愛感情を持っている訳ではないだろうし、無理をさせていたら嫌だからな」
「大丈夫よ。もともと、リオンになら抱かれても構わないから使用人になったんだもの。立場が変わるだけよ」
フェミルの感情は、恩なのかどうなのか。
まあ、本音では嫌だというのを隠している感じはしない。だから、大丈夫だろう。
「フェミルが良いのなら、俺には問題ないかな」
「それより、リオンの方こそ大丈夫なの? 私に恋している訳でもないでしょうに」
「気にしなくて良いよ。もともと大切な相手なんだ。関係の名前が変わるだけだ」
「さっき言った妹から妻になるって話だね」
「わたしは使用人から妻に変わるわけですかっ」
妹から妻になるというセリフ、あまりにも人聞きが悪いな。
まあ、俺とノエルとディヴァリアが納得しているのなら、問題のない話ではあるが。
俺がノエルを大切に思うこと、ノエルが俺を好きでいてくれることは変わらないはずだ。
恋愛感情を持っていないとしても、絶対に大事にすることは決まりきっている。
「俺達は、いい夫婦になっていけるはずだよな。ディヴァリアだって、お前達を大事にしているから結婚を勧めたのだろうし」
「リオンお兄ちゃんとディヴァリアお姉ちゃんのそばに居られるだけで、絶対に幸せだからね」
「そうですねっ。リオンさんはわたしの全てですからっ」
「リオンなら、私達を幸せにしてくれるって信じているわ」
みんなの期待には、絶対に応えないとな。
ディヴァリアだって、苦しみを抱えた上での決断なのだろうから。
ちゃんと幸せにできないのなら、何の意味もない未来なのだから。
ディヴァリア1人を選ぶだけより、絶対に難しい未来だということは間違いない。
それでも、全力を尽くしてみんなの幸せを作り上げてみせる。
「ああ。約束するよ。お前達を幸せにするって。そうじゃなきゃ、俺だって幸せになれないからな」
「やっぱり、リオンお兄ちゃんは私達が大好きなんだね。分かっていたけど、嬉しいや」
「わたし達だって、リオンさんを幸せにしますよっ。大好きですからっ」
「リオンと私達は、ちゃんとお互いを尊重できるはずよ。だから、きっと大丈夫」
そうだと良いよな。ちゃんと努力していくつもりではあるが。
愛し愛されというのは、お互いの努力が前提だ。
今好かれているからといって、これからも好かれているとは限らない。
しっかりと、関係をうまく作っていく努力をしよう。
「ああ。これから、ずっと仲良くしていこうな」
「もちろんですっ。リオンさんとの関係は絶対に手放しませんっ」
「ずっと一緒だよ。大好きなリオンお兄ちゃんと、ディヴァリアお姉ちゃんと、これからも」
俺が助けてきた相手ではあるが、甘えないようにしないとな。
恩人だからと相手に要求し続けるのは、あまり良い行いとは思えない。
そもそも、幸せになってくれなければ助けた意味がないんだからな。
これからもずっと、大切にしたい相手だからな。
それにしても、みんなと結婚か。どんな生活になるのだろうな。楽しみなような、怖いような。
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