152話 リオンの変化
ミナの指示に従いながら移動して、俺とディヴァリアは教国の首都にまでたどり着いた。
敵に注目されずに移動できるルートを構築してくれて、ミナには頭が上がらないな。
とはいえ、今から進む先は教会の形をした事実上の王城だ。
教皇ミトラが居るし、その護衛だって居るだろう。だから、戦闘を避けることはできないだろうな。
「建物の右側から入れるように、手はずを整えているよ。だから、侵入は簡単かな」
ありがたいことだ。敵国とはいえ、犠牲が少ない方が良いからな。ミナとルミリエ様様だな。
まあ、俺達の邪魔になるのなら、どれだけだろうと殺すが。
それでも、わざわざ好んで殺そうとは思わない。最小限の殺しで抑えたいものだ。
だから、きっとミナには俺に気を使ってくれている面もあるのだろうな。
無論、今後が楽になるように計算している部分だってあるはずだが。
右側というのは、正面の入口に向かい合って俺から見た右だろう。
ミナは、俺が即座に判断しても問題ないように言葉に気を使ってくれている。
戦闘の最中でも指示が出せるように、考えてくれているのだろうな。
本当に助かる。やはり、俺は多くの人に支えられているな。
ミナの言う通りの場所に向かうと、勝手に扉が開く。
そして、中から出てきた何人かに敬礼された。これは、ミナの手が伸びきっているな。
というか、教皇の動きに反対する勢力も居たのだろう。
そこに合わせて、ミナがうまく説得したといった所か。
「ディヴァリア、行こうか。この調子なら、あまり殺さなくて済むかもな」
「そうだね。リオンは殺したくないみたいだから、私も手伝うよ」
「聖女様、勇者殿、ご武運を!」
教皇を討つつもりなのを知られているのか。それでも、応援される。
思っていたより、教皇には敵が多いのか? まあ、どうでもいいか。
教皇は殺すべき敵。だから、嫌われているのならば都合がいいだけだ。
そのまま突き進んでいくと、いくつかの部屋には兵士が集まっていた。
にも関わらず、明らかに侵入者な俺達を無視している。
これは相当、事前に準備がされているな。俺達が教皇をスムーズに殺せるように。
ありがたいことだ。楽ができるのならば、その方が良いに決まっている。
しばらく進んでいき、会議室のような場所にやってきた。
そこでは、着飾った人間達が会議のようなことをしている。
目の前にいるうちの誰かが、教皇ミトラなのだろうな。
外見を聞いておけば良かったような気もするが、どうせミナが教えてくれるか。
「なぜ先遣隊からの連絡が来ない! 王国軍を打ち破ったのではないのか!」
なんて言っている人間が、一番豪奢な衣装に身を包んでいる。髪に白が混じった男だ。
言動からするに、王国は容易く倒せるのだと考えていたのだろうか。
まあ、何でも良い。こいつらを殺すべきかどうかだけだ。俺が考えるべきことは。
「ここにいる人達は、みんなミナちゃんの敵だよ」
なるほどな。なら、話は早い。
「
「
俺達の手に、それぞれにブレスレットが現れていく。
こうしてお揃いの心奏具を見ていると、ディヴァリアとの絆が感じられるな。
さて、先制攻撃を仕掛けても良いものか。問答くらいはした方が良いのだろうか。
いずれにせよ、ミナの敵である以上は死んでもらう。
どのような死に方をするかだけが、これから変わるかもしれないがな。
「な、何者だ!? 王国の手先か!?」
今の状況を見て、理解できないのだろうか。
とにかく慌てているようだが、心奏具すら出さない。
俺が殺すつもりだったら、もう終わっていたんだがな。
さて、ミナの敵ということは分かるが、この偉そうな男は誰かな。
「せっかくだから、死ぬ前に名乗りくらいは聞いておこうか。何も分からず死にたくはないだろう?」
「この教皇ミトラに歯向かうか! アトリ、ミスト、やれ!」
なるほど。本当に教皇なのだな。なら、こいつは後回しだ。
メインディッシュは最後にとっておかないとな。
できることならば、自分の罪深さを感じて死んでもらいたいものだ。
「
「
どちらがアトリで、どちらがミストなのかは知らない。興味もない。
赤い髪の男と青い髪の男で、赤い方が剣を、青い方が槍を出現させる。
そして、2人はこちらに向けてそれぞれの武器を振ってくる。
俺は破壊の力をまとう。すると、俺に当たる直前に2人の心奏具は消え去っていった。
そのまま、2人は動かなくなっていく。心奏具を破壊されたもの特有の状態だ。
後はどうにでもできる。さて、どうしたものかな。
「どれほど2人を信用していたのか知らないが、あっけないものだな?」
「そうだね、リオン。私達の敵になるには、少しどころではなく足りないよね」
「リオン……? まさか、勇者リオン? そこの女は、いったい誰だ……?」
「最後だから、自己紹介をしておこうかな。私はディヴァリア。あなたの言う魔女だよ」
ディヴァリアの言葉を聞いて、ミトラは顔を青ざめていく。
「違う、違うのだ! 聖女の活躍は確かなもの。教皇として認める!」
命乞いのたぐいだろうか。ミナが死を望む以上、こいつの運命は決まっているが。
それとも、時間稼ぎだろうか。援軍が来るあてでもあるのかな。不意打ち程度では俺もディヴァリアも殺せないと思うが。
もう少し、話を聞いてみるか。なにか情報を引き出せれば、ミナが役立ててくれるかもしれない。
「では、なぜ王国への宣戦布告でディヴァリアを魔女だと言ったんだ?」
「知らぬ! 私は何も知らぬ! ただ、こいつらがやれと……アトリ、ミスト、何をしている!」
これは、ちゃんとした情報を聞くことは難しそうだな。
さて、どうしたものか。今すぐ殺すべきか、もう少し会話を続けるべきか。
そう考えていると、多くの足音が聞こえてきた。
続いて、武装した兵士たちが集まってくる。それを見て、ミトラは笑い始めた。
「ははは! 援軍が来たようだな。命乞いをすれば――」
ディヴァリアが、チェインオブマインドの光でまとめて兵士たちを消し去っていく。
その姿を見たミトラは、ただ口を開けたり閉じたりしているだけ。
おそらくは、最後の希望が途絶えたのだろうな。なら、後は流れでいいか。
「アトリとミストが、なぜ反応しないのかを教えてやろうか。心奏具を破壊された人間は、心も壊されるんだよ」
「は? 心奏具が壊れるなどと、世迷言を……」
「なら、心奏具を出してみると良い。自らの手で、試してみればな」
「後悔するでないぞ!
相手の心奏具は、杖のようなもの。そこから何かを放たれるが、破壊の力に阻まれる。
お返しに、敵の心奏具に向けて破壊の力を放ってやる。
すると、杖は消え去り、ミトラは動かなくなった。
「ミナ、なにかしてほしい事はあるか?」
「大丈夫。もう、殺しちゃっていいらしいよ」
「なら、私がやるね」
ディヴァリアがチェインオブマインドから光を放ち、この場にいる敵達は全て消え去っていった。
やはり、破壊の力は凄まじい。今なら、誰にも負けることはないとすら思える。
だが、それでも努力は続けないと。ディヴァリアに並び立つのが、俺の目標なんだから。
「さて、教皇ミトラは葬った。これで終わりか?」
「そうだね。後は、ゆっくり帰ってくれればいいよ。2人の時間を作れば良いんじゃないかな」
「分かったよ。じゃあ、リオン。帰るまではデートだね」
これまでの戦いと異なって、ずいぶんとあっけなかったな。
だが、楽ができるに越したことはない。これから、俺がミナ達の力になるに十分だろうから。
さあ、俺の仕事は終わりだ。これが最後の戦いであってほしいな。いつかのディヴァリアの言葉通りに。
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