75話 ルミリエの決意
これからフェミルと共に王城へと向かう予定だ。ミナとルミリエが案内してくれる。
ミナの心奏具で周りの状況を見て、ルミリエの心奏具でミナの作戦を伝えるという形で。
いつものメンバーではあるが、フェミルはいつもとは違うな。
戦うのは俺だけで、フェミルは俺を運ぶだけの役割。心奏具であるペインオブディスタンスの転移で移動するわけだ。
ここからが始まりだ。しっかりやらないとな。王都の人々を守るために。
「念のために確認しておきましょうか。私はリオンを運ぶだけ。戦うのはリオン。私は見つかったら転移で逃げる。リオンだけしか運ばないのは、私の能力の限界だから」
フェミルは俺にあっさり負ける程度には弱いし、戦力としては期待できないよな。
無理に戦われて、ケガでもされたほうが嫌なのだから、戦わないでいてくれるのはありがたい。
それにしても、転移で複数人は運べないのか。1人移動させられるだけでも、相当便利ではあるが。
サクラが居てくれれば、もっと楽だったとは思えるんだよな。
ノエルは強いが、できれば戦わせたくない。まだ幼いところがあるし、戦いにも慣れていないだろうからな。もっと手頃な戦場から経験させたい。
そもそも戦わなくていいのならば一番いいが、それは難しいだろうからな。
ディヴァリアの計画を抜きにしても、原作でだって戦いが中心だったのだから。今では原作など面影もないとはいえ。
「分かった。俺1人で敵を倒すとなると大変そうだが、フェミルに無茶はさせられないからな」
「私がもっと強ければよかったんだけど。ごめん、リオン。私じゃ力になれない」
「いや、運んでくれるだけで十分だ。それだけで、だいぶ戦いやすくなるからな」
実際、正面から突っ込んでいけば、どうしても王都への被害は大きくなるだろうし、そもそも戦力の問題もある。
マリオを殺さないとはいえ、根本的な発想としては首狩り戦術だ。
それで目立たず動けるフェミルの能力があるのだから、本人が思っている以上に役立っている。
「今回はリオンちゃん1人じゃないよ。私の心奏具でも戦うから」
「だが、ルミリエ……お前は……」
もともとルミリエが原作で悪役になったのは、心奏具の力で歌を武器にすることを強制されていたから。
そんなルミリエに、心奏具の力で戦わせることには強い抵抗がある。
俺は心奏具の力で人を傷つけたくないと悩んでいたルミリエを知っているから。だから、ルミリエの歌をみんなに広めたんだ。
今では歌姫と呼ばれている、ルミリエの歌は最高だって、武器なんかじゃないって知らしめたかったから。
俺は頼りないだろうか。歌で人を傷つけたくないルミリエに、力を使うことを決意させるくらいに。
悔しい。だが、ルミリエの力は相当頼りになることは事実。俺はどうすればいいんだ。
「心配しないで、リオンちゃん。私は大丈夫だから。歌で人を傷つけてでも、リオンちゃんには無事で居てほしい。歌よりリオンちゃんが大切なだけだよ」
「それは嬉しいが、でも……」
せっかくこれまで、ルミリエに手を汚させずに済んでいたのに。俺がふがいないから、ルミリエにいらぬ覚悟をさせてしまった。
ルミリエに歌よりも大切だと思われていることは嬉しい。だが、歌姫という名に傷をつけてしまわないだろうか。
俺達みんなで作り上げた、歌姫という最高の称号を。
「しっかりして、リオンちゃん。迷いなんて残していて、戦えないでしょ?」
確かにそのとおりだ。王都の人々の未来が、ひいてはこの国の未来がかかった戦いで、迷いなんて邪魔なだけ。
すまない、ルミリエ。だが、お前の力、役立たせてもらう。これからの平和のために。
「分かった。全力で頼りにさせてもらう。かならず勝とうな」
「うん、それで良いんだよ。私達の手でこの混乱を収められれば、ミナちゃんの王位にだって近づくかもしれないんだからね」
ミナが王になれるのなら、ありがたいことだ。悪いことばかりのクーデターにも、少しばかりの希望がある。
その希望を胸に、全力で戦うだけだ。友達であるマリオを死に追いやる道だとしても。どのみちもう後戻りはできないのだから。
「準備はできた? じゃあ、転移していくわね。何回か転移して、最後に玉座の間でマリオを倒す。それでいいのよね?」
「うん。それがミナちゃんの作戦。だから、大丈夫だよ。ミナちゃんの作戦は、いつだって最高なんだから」
「そうだな。よし、行くぞ」
俺はフェミルの手で転移していく。まずは王都に侵入した。
そこには何人かの兵が巡回しており、転移先を発見されそうな敵もいる。
だから、始末するしかない。かわいそうだが、マリオの側についた浅はかさを恨んでくれよ。
なにか事情があるのかもしれないが、そんな事を気にしていられないからな。
「私に任せて、リオンちゃん」
ルミリエの声からしばらくすると、兵士たちが苦しみだす。
これがルミリエの力。声を直接脳に届ける技。ハピネスオブフレンドシップの音波を増幅するという特性を、破壊にだけ使った技なんだ。
おそらく、敵兵の脳は電子レンジにかけられた物体のようになっている。人間を電子レンジにかけたのならば、結果はひとつ。凶悪な技だ。
俺達は、ハピネスオブフレンドシップの力で、声を遠くに届けるという手段を確立した。
だが、それ以前のルミリエは、今のような技を使うことを強制される環境に居た。
自分の力を、人を傷つけるための力だと悩んでいたルミリエを元気づけるために、歌という道を示したんだ。
もともとルミリエは歌が好きだったから、最高に噛み合ったと思っていたんだよな。
「これで、私の転移先が確保されたの? じゃあ、移動するわね」
そのまま次の転移を行い、今度は俺がエンドオブティアーズで敵を刺し貫く。
敵が少人数ならば、各個撃破はたやすいな。ツーマンセル以上ならルミリエが、単体ならば俺が殺していく。
死体を発見されて声を上げられないようにという考えに基づいた戦術だ。
「リオンちゃん、私達の連携はバッチリだね。相性、いいんじゃない?」
俺とルミリエの相性がいいなど、当たり前のことだ。これまでずっと一緒に居たんだからな。
ミナとも、シルクとも、同様のはずだ。ディヴァリアとは、どうだろうな。連携しようと思えば、できる気はしているが。
そもそも、ディヴァリアは戦いで味方を必要としないからな。機会が存在しない。
「そうだな。これなら、他の状況でもうまくやっていけるだろう」
「だよね。フェミルちゃんもありがとう。リオンちゃんの役に立ってくれて」
「礼なんていいわ。リオンには命を懸けていいだけの恩がある。それだけだから」
「だからといって、無理はするなよ。お前に死なれたら、助けた意味がないんだからな。それに、エリスが悲しむ」
「ありがとう。でも、今回一番心配なのはリオンよ。これから、逆賊マリオと戦うんだから」
確かにな。だが、心配は無用だ。後悔しないために、みんなのために、どんな手を使ってでも勝ってみせる。
俺はこれ以上、みんなに心配はかけられないんだ。シルクを泣かせて、他の人たちも不安にさせて。
そんな俺だからこそ、ちゃんと頼りになるところを見せてやらないとな。
ルミリエにも手伝ってもらおう。1対1でなくて悪いが、勝つためだ。
クーデターなんて手段を使うお前には、ちょうどいいよな、マリオ?
「じゃあ、行くか。マリオの元へ。この国を救うためにな」
「うん、行こう。リオンちゃん、勝ってね」
「そうね。そして、また私達で一緒に平和に暮らすのよ」
さあ、覚悟してくれよな、マリオ。俺はお前を倒すぞ。
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