67話 本心はいずこ

 今日はサクラの回復祝いも兼ねたパーティを開く。主催はディヴァリアだ。

 ルミリエ達と約束していたモノでもあるんだよな。俺の親しい人はだいたい居る。

 メンバーは俺とディヴァリア、当然サクラ、ミナにシルクとルミリエ、後はユリアとノエルにフェミルだ。


 エルザさんやエリスも誘いたかったんだが、孤児院のことがあるから、難しかったようだ。

 マリオ達は、そもそも俺以外とは親しくないからな。この場には不適切だろう。


「こうしてみんなで集まれたこと、嬉しいです。では、乾杯しましょう」


 ディヴァリアが音頭を取って、俺達は乾杯する。そういえば、前にサクラを誘ったパーティではしなかったな。

 まあ、当時のサクラはどう考えても場慣れしていなかったから、緊張を避けるためか。

 なんだかんだで、今この場にいるメンバーはすでに知り合いだからな。


 いちばん新しく知り合ったフェミルも、クラスメイトとして、そして俺の使用人として知り合いには会っているからな。


「今日はサクラの快気祝いが中心だ。だから、しっかり楽しんでいってくれよ」


「ええ。おぼえているわ。あたしが沈んでいる時、誘ってくれたのを。叶えてくれてありがとう」


「当然のことだ。俺達はみんなサクラのことを大切に思っているんだから。知り合ったばかりのフェミルは分からないが」


「それはそうね。でも、嬉しいわ。あたしを大切にしてくれる人がいる。それだけで、どんな敵にも勝てそうな気分よ」


 サクラならば、実際にできるのだろう。そう盲信した結果、サクラを失いかけた。

 だから、俺はサクラがどれほど強くなったとしても、かならず支えてみせる。もっと強くなってみせる。


 まあ、今はパーティを楽しむことを優先しよう。せっかくの機会に楽しめなくては、もったいないからな。


 今は思い思いのメンバーでそれぞれが集まっている。ミナとシルクとルミリエ、使用人たち、俺とディヴァリアとサクラのような形になった。

 サクラをみんなと会話させておきたいが、ある程度おちついてからでも良いだろう。

 それまでは、俺達で話しておくとするか。


「どうだ? 楽しんでいるか?」


「まあまあね。せっかくだから、いろいろ話をしたいものだけれど」


「いろんな人とってことかな? いいと思う。みんな喜ぶよ」


 だろうな。サクラは元気をくれる人だから、一緒にいるだけで嬉しいんだ。

 そんなサクラが感情を失って、俺はどれほど苦しんだことか。だから、元気な姿を見せるだけでも、きっといいと思う。


「だったら嬉しいわね。でも、まずはあたしたちで話しましょ? この3人は、リオンに助けてもらった時以来よね」


「そうだな。サクラの心奏具が変わって、びっくりしたぞ」


「ふふっ、私は、納得したかな。サクラの心にどんな影響があったのか」


 どういう意味だろうか。間違いなく、なにか大きな変化があったのだとは思う。

 まあ、心奏具が壊れて直った時点で、大きな影響というのは当たり前か。

 そういえば、原作でも各ルートで心奏具が変わっていたような……?

 だとすると、俺はヒーローと同じ。サクラに好きと言われたのだから、ありえる。


 ただ、そうなると、もう原作は当てにできないな。まったく違う道筋に進んでいくのだろう。

 いまさらか。メルキオール学園に入ってすぐに有翼連合が襲撃してきた時点で、何もかもがおかしかったのだから。


「恥ずかしいわね。でも、あたしの心はもう決まった。ずっとあんた達と一緒にいるから。嫌って言ってもね」


「嫌なんて言うはずがない。安心してくれ。お前と一緒なら、ずっと嬉しいよ」


「そうだね。こっちこそ、嫌って言っても離さないんだからね。私の友達になるってことは、そういうことだよ」


 なら、俺やミナ達も離れられないのだろうか。望むところだ。どうせ逃げるつもりはない。全力で、ディヴァリアを俺の望む道へ引きずり込んでやる。

 お互い様だろう? ディヴァリアだって、俺を望む道に引きずり込むつもりなはずなのだから。


「俺も逃げられないのか。まあ、構わないが。ディヴァリアは大切な友達だからな」


「リオンはこういうところがね……間違いなく素敵なんだけど、ここだけはね」


「サクラも同感なんだね。でも、仕方ないよ。きっと生まれつきだから、どうにもならないんじゃないかな」


 またあきれられている。ディヴァリアにどうにもならないと言われるとか、よっぽどだぞ。

 だが、直らないと思われているのだから、本当に直らないのだろう。

 改善できるものならどうにかしたいが、理由を伝えられすらしないからな。


「何がそんなに問題なんだ。みんな同じことを考えている気がするぞ」


「そうだね。きっと同じじゃないかな。でも、別にいいよ。未来は同じだからね」


「ディヴァリアは強いのね。あたしなら、怒っちゃいそうだわ」


「ふふっ、そうかもね。でも、もう慣れたから。それに、きっと本音は……ね?」


「それもそうか。あたしから見ても、分かりやすいものね。応援しているわ」


 俺の本音とはいったい何なのだろうか。分からない。

 だが、ディヴァリアとサクラは仲が良さそうで、ありがたい。

 もしサクラが殺されるようなことがあれば、俺はディヴァリアを恨んだかもしれない。

 そんな未来はきっと訪れないから、安心できるんだ。


「ありがとう。そろそろ他の人達の様子も見てこようか。元気な姿を見せたいからね」


「そうね。一緒に行く?」


「2人で行ってきて。私はここにいるよ」


 ということなので、まずはミナ達のところへ行く。

 俺達の顔を見たミナ達は、すぐに歓迎してくれた。


「サクラ。回復したようで、何よりです。わたくしは見ているだけでしたからね」


「歓待しますよ。サクラさんが無事なのは喜ばしいですから」


「うんうん。サクラちゃんのキラキラした笑顔、また見られて嬉しいよ」


 みんな笑顔で、やはりサクラは好かれているのだろうと思える。

 当たり前だよな。周りの人間を大切にできて、しっかり行動できる人間なんだから。


「ありがとね。心配かけたみたいで、ごめんなさい」


「気にする必要はありませんよ。いま元気なら、十分です。その太陽のような笑顔を、また見せてください」


「同感です。確かに心配しましたが、サクラさんが悪いわけではありませんよ」


「そうだね。それに、リオンちゃんならなんとかしてくれるって、信じてたから」


「確かにね。あたしがみんなを心配したって、みんなが悪いわけじゃないか。じゃあ、ありがとう。あたしを大切に思ってくれて」


 そんなの、当たり前なんだがな。サクラ自身が魅力的だからでしか無い。

 だからだと思う。ミナ達はみんな笑顔でうなずいていた。


「ええ。かけがえのない友達ですから」


「同意します。出会ってからは短いですが」


「うんうん。きっとワクワクできるんだよ」


 サクラが大切に思われているという事実が、俺も嬉しい。

 良かったな、サクラ。いい友達がいっぱいできて。


「みんなの顔が見られてよかったわ。じゃあ、ユリア達に会ってくるわね」


「またな、みんな」


 そして俺達はユリア達のところへと向かう。

 3人はすでにうちとけているようで、ありがたい限りだ。

 こちらが近づくと、みんな頭を下げてきた。使用人としてのクセだろうか。


「どうだ、楽しんでいるか?」


「うん! ユリアちゃんも、フェミルちゃんも、仲良くできそうだよ!」


「そうですねっ。ノエルさんやフェミルさんと、リオンさんのことで盛り上がっていました」


「ノエルもユリアもいい子よね。エリスとも仲良くしてほしいわ」


「うまく行っているみたいで、良かったじゃない。あんたの使用人なんでしょ? 恵まれているわね」


 サクラの言うとおりだ。俺自身に使えてくれる相手がこの3人で良かった。

 どんなときでも味方をしてくれると、信じられる相手だからな。


「そういえば、サクラお姉ちゃんにも、使用人の話があったんだよね?」


「聞きましたよっ。断るなんて、もったいないですねっ」


「まあ、サクラにはサクラの考えがあるんでしょ」


「そうね。リオンの使用人も悪くないとは思う。だけど、あたしはリオンと対等で居たい。それがきっと、リオンの力になるから」


 そこまで考えてくれていたのか。嬉しいが、俺はサクラの好意を受け入れられなかった。なのになぜ。

 まあいい。サクラが俺と対等でいてくれるのなら、同じだけの恩を返そう。


「無理だけはするなよ。サクラの心奏具が壊れたときのような思いは、二度とゴメンだからな」


「分かっているわ。安心しなさい。あんたを悲しませたりはしない」


「サクラお姉ちゃん、お互い協力して、リオンお兄ちゃんを幸せにしようね!」


「そうですねっ。いろんな立ち位置からなら、きっと役立つ幅が違いますっ」


「私としても、リオンに恩返ししたいから。協力しましょう」


 本当に俺は良い出会いばかりできている。

 だからこそ、みんなに恥じない俺で居たい。もっと強く、みんなを守れる俺になりたい。


「ええ、もちろんよ。お互い、頑張りましょうね。じゃあ、リオン。ディヴァリアのところへ戻りましょうか」


「ああ。みんな、またな」


 そして俺達はふたたびディヴァリアと話す。

 やはり、この3人は強いつながりを感じる気がするな。俺とサクラと、ディヴァリアと。


「ねえ、サクラ。私達と、他の大勢と。今のあなたは、どっちを選ぶの?」


「当然、あんた達よ。あたしの望みは、あんた達とずっと一緒にいること。仮にあんた達が悪に落ちるのなら、地獄まで付き合ってあげるわ」


 サクラの目からは本気を感じる。つまり、俺達はサクラを堕としてしまったのかもしれない。

 かがやく希望となれる人を。優しさと強さをあわせ持つ人を。正義の人を。

 とても罪深いと分かっているのに、笑みすら浮かべそうになってしまった。どうしてこんなに嬉しいんだ。


「嬉しいよ。いつかサクラとは、もっと仲良くなれるかもね」


 ディヴァリアのセリフはとても恐ろしいもののはずなのに、俺の気分は高まっていた。

 もう俺は、どこかおかしくなっているのかもしれないな。

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