16話 ディヴァリアの狙い

 ディヴァリアの造った孤児院で過ごしていると、とつぜん爆発が起こった。即座にシルクが声を出す。


「皆さん、こちらに集まって!」


 なるほど。シルクは心奏具を使うつもりなのか。俺もみんなを誘導して、ついでに心奏具を展開した。


守護まもれ――エンドオブティアーズ!」


隠匿かくせ――アンガーオブドゥーム!」


 シルクの心奏具は短い杖のようなもの。効果は結界を張ること。チェインオブマインドほどの攻撃でなければ、びくともしない。

 だから、アンガーオブドゥームの結界に包まれたみんなは大丈夫だろう。俺は安心して何が起こったか探ることができる。


「リオン、皆さんは私達で守ります。だから、安心してくださいね」


「同意します。ディヴァリアさんと私が居る以上、この子達には手出しさせません」


 2人にならば、確かに安心してこの場を任せられる。だから、俺は爆発が起こった方向へと向かっていく。


 現場へ向かうと、子供の死体が転がっていた。おそらく、先程ディヴァリアに反発していた子どもたちだ。

 壁に穴が空いているので、そのあたりから爆発したのだろう。目的は分からないが、侵入でもしたかったのか?


 それにしても、下手人はどこだ。

 爆弾のようなものを遠隔で操作するなど、よほどの大きな集団でないとできない。だから、きっと近くに敵がいるはずなのだが。


 急に後ろから嫌な気配がしたので、エンドオブティアーズの盾を向ける。すると、爆風のようなものを防ぐことができた。

 

「しとめ損なったか。なかなかやるじゃないか」


 声が聞こえた方には、大きな翼の模様が入った服を着ている男が居た。

 つまり、こいつも有翼連合。学園をおそった奴らがすべてではなかったのか。まあいい。目の前の敵をしっかりと倒すだけだ。


「お前がここの子供達を殺したのか?」


 とりあえず、会話で情報を引き出せるのなら引き出したい。

 シルクとディヴァリアが居る限り、子供達は安全だ。だから、別働隊が居たとしてもこの敵をしっかり倒すことが大事になる。


 敵は手に黒いナイフを持っている。おそらく、敵の心奏具。爆発させるような能力のはず。

 ただ、爆発させたのが別人の可能性だってあるからな。しっかりと確認しておきたい。


「ああ、そうだな。聖女様は商売敵なんでね。少しでも苦しんでもらいたいわけさ」


 そんな事のために子供を。許せる相手ではないが、落ち着け。ここで俺が冷静さを失えば、その分ノエルたちが危険になるんだ。

 それにしても、ディヴァリアが商売敵ときたか。有翼連合がテロリストだったことは覚えている。

 だが、ディヴァリアとの関係は思いつかない。

 いや、待て。孤児をテロリストに仕立て上げていた。それならどうだ?


「孤児院を造られたのが邪魔だったのか?」


「よく分かってるじゃないか。おかげで俺達はメンバー集めに苦労する有様でね。学園を襲った主力まで、聖女様に片付けられたらしいじゃないか。せめて嫌がらせでもしたいってのが、人情じゃないか?」


 こいつの言葉を信じるならば、有翼連合は大幅に弱体化している。あるいは、もう機能していない可能性もあるな。

 なにせ、せめて嫌がらせでもしたいと言っている。勝てると思っていない証拠だ。

 まあ、それはミナに調べてもらえば良い。ミナならば、きっとうまく調査してくれるはず。

 第4王女としての権力、ミナの持つ心奏具の力。両方が合わされば、できるはずだ。


「ずいぶんチンケな発想じゃないか。小物らしくて感激すらするよ」


 さて、攻撃してくるか、余計なことをペラペラ喋るか。どちらにせよ、俺にとっては都合がいい。

 相手の冷静さを奪うことができた時点で、精神的には優位に立てるのだから。


「ガキが……! 左翼のマリク様をナメるなよ!」


 そのままマリクとやらは突っ込んでくる。

 ちょうどいいな。ゼファーへの雪辱せつじょくの代わりに、こいつを倒すとするか。

 あの時は負けてしまったが、俺だって成長したのだから。俺がどれほど強くなったか測るいい機会だ。


 まずはマリクの心奏具らしきナイフを盾で受ける。すると、そこから爆発が起こる。とはいえ、この程度ならば耐えられる。

 以前ディヴァリアが放った最上級魔法。あれに比べればどうということのない衝撃だからな。


「それが全力か? ゼファーに比べて大したことないな」


 もっと冷静さを失ってくれればありがたい。そう考えて挑発したが、この建物を壊されると困るな。少し先走ってしまったかもしれない。

 とはいえ、戦闘が長引けば似たようなことになるはず。だから、間違いというほどでは無いな。


「俺がゼファーに劣るだと! お前は必ず殺す! 後悔しても遅いぞ!」


 マリクは何度も俺にナイフを突き立てようとしてくる。ただ、エンドオブティアーズの盾を通過できる攻撃はしてこない。

 いくら盾ならば防げるといっても、剣に爆発が当たれば体勢を崩すくらいはするからな。

 今のうちに、通じないという印象を持たせられればいいが。


「後悔させられるようには見えないがな!」


 そのまま単調な攻撃を続けていてくれ。お前がそうしてくれれば、俺は楽に勝てるんだ。


「誰に向かって口をきいている!」


 俺の期待に応えるように、マリクは単に何度もナイフを突き立ててくるだけ。盾で簡単に受けることができて、ありがたい。

 ただ、相手のナイフに当たらないように斬りつけなくてはならない。

 もし剣に強い衝撃が加われば、俺は大きなスキをさらしてしまうから。


 敵の動きを見ながら、俺はナイフを避けて斬りつける。ただ、相手に攻撃が当たってくれない。

 ゆっくりと時間をかければ当たる気はしているが。さて、急ぐべきか、どうすべきか。


「仲間でも待っているのか? 1人では勝てないもんな」


 さて、どう反応を返す。仲間が居るのかどうかが分かればありがたいが。ついでに、もっと動きが雑になってくれればいい。

 俺はこの孤児院を守りたいから、俺にだけ集中していてくれ。


「俺にかまっていていいのか? 他のやつらが今ごろ子供を殺しているだろうさ」


 やりすぎたか。これはある程度冷静になったと見ていいな。

 さて、今のセリフを信じてもいいものか。どちらにせよ、ディヴァリアとシルクが居るのならば問題はない。

 まずこいつを片付けて、それから様子を見に行けばいい。


「そう急がなくても、すぐにお前は殺せるだろうさ!」


「このナイフオブエクスプロードを前に、いつまでもそんな口はきけんぞ!」


 わざわざ心奏具の名前を教えてくれるのか。それとも、これはブラフか?

 爆発するナイフという以上、本当だと思えるが。


 それはさておき、マリクのナイフを盾で受けると、スキができた。だから、剣でマリクに斬りかかる。


「かかったな!」


 マリクは俺の剣の軌道にナイフを合わせていた。このまま当たれば俺は体勢を崩すだろう。

 ただ、俺のエンドオブティアーズは伸び縮みさせられる。

 だから、ナイフに当たるはずの瞬間だけ剣を縮めて、そのまま伸ばして切りつけた。

 そしてマリクは血を吹き出して倒れていく。俺はすぐさまトドメをさした。


 ノエル達は間違いなく無事だ。とはいえ、様子は見に行きたい。だから、急いでノエルたちの方へと走っていった。


 そこにはディヴァリアがチェインオブマインドを構えていて。だから、有翼連合の残党をディヴァリアが片付けたのだろう。


「みんな、大丈夫だったか。ここにも敵が来たみたいだな」


「リオンお兄ちゃん、聖女様、かっこよかったよ!」


「シルクさんと聖女様がいて助かりました。おかげで私達は無事です」


「瞬殺でした。ディヴァリアさんの敵ではありませんでしたね」


「皆さんを守れて良かったです。リオンとシルクのおかげですね」


 一応周囲を警戒するが、もう気配は感じない。だから、この孤児院を襲う敵はすべて倒れたのだろう。


「ただ、部屋に戻っていた子達が犠牲になったみたいなんだ」


 自分で言葉にして気づいた。あの子達、ディヴァリアに反発していたよな。

 まさか、ディヴァリアが有翼連合に殺させた? だとすると、学園を襲った有翼連合も?

 いや、ダメだ。考えるな。これ以上この話を気にするな。そう思っていたが、ついディヴァリアの方に視線を向けてしまう。


「リオン、どうかしましたか?」


 ディヴァリアはこちらに微笑ほほえみながらそう言う。

 俺の疑いは気づかれていないよな? もし感づかれていたら、ディヴァリアはどんな対応をする?

 分からない。分からないことが恐ろしい。


「いや、何でも無い。犠牲が少なくてよかった」


「あいつらが死んだのなんて、天罰じゃん。聖女様をバカになんてしてさ!」


「ノエル、思っていることを安易に口にしてはいけませんよ。誰が聞いているともしれないのですから」


 エルザさんの言葉からするに、まさかエルザさんも同意しているのか?

 他の子供達もノエルの言葉に賛同している雰囲気がある。これほどの空間を、ディヴァリアは簡単に作り上げてしまう。

 ディヴァリアを敵に回した者が、まるで邪悪かのように扱われるのだ。


「共感します。内心は自由ですが、言葉は不自由ですから。それよりもリオン君、怪我はしていませんか?」


「少しはしてるかもな。でも、大丈夫だ」


「否定します。リオン君の自己判断は信用できません。では、治しますね」


 シルクから白い光が流れ込み、なんとなく具合が良くなる。実は負担がかかっていたのかもな。

 それにしても、シルクに信用されていないって事は心にくるんだが。いや、人間としては好かれているはずだが。


「ありがとう、シルク。なんだか楽になった気がする」


「当然です。私が治療したのですから」


「リオンお兄ちゃん、無理しちゃダメだよ? 聖女様が悲しんじゃうからね」


「そうですね。ノエルの言うとおりだと思いますよ、リオンさん」


 エルザさんにまでたしなめられてしまった。そんなに無理をする人間だと思われているのだろうか。

 俺は楽ができるのなら楽をする人間だぞ。


「リオンが苦しければ、私も苦しいんですからね」


 ディヴァリアの言葉には、ついすがりたくなる魅力がある。

 だが、ディヴァリアにのめり込んでしまえば。俺はきっと悪へとちてしまう。だから、心を強く持っていないと。


「それにしても、この建物を直さないといけませんね。では、クリーン」


 ディヴァリアが使った初級魔法が、ただちにこの建物を直していく。相変わらずとんでもない力だ。俺など足元にもおよばないほど。


「聖女様、ありがとう! また会いに来てね!」


「そうですね。聖女様、またいらしてください」


 ノエルとエルザさんの言葉に、子供達がみんな同意する。

 やはり、ディヴァリアはしたわれているな。それを実感しながら、俺達は帰路へとついた。

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