ep42 あやかしはメンドクサイ

 *


 三毛袋駅東口まで着くと、三人はいったん立ち止まった。

 時間的に構内から出てくる人は少なく、帰りの電車に乗ろうと駅へ入っていく者がほとんど。

 ナゴムは帰路へと向かう人々を眺めながら、大きくため息をついた。


「もう、マッチングアプリやめよう......」


「三連続あやかしって、ナゴムくん引きが強いにもほどがあるわね」

 糸緒莉がややからかうように言った。


「そういえば俺、ババ抜きスゲー弱いんだった......」


「ちよっとナゴムくん。そのババって私と長穂ちゃんのこと?」


「あっ!いや!ちがくて......スイマセン」


「もうっ。でも、十九淵さんは中々の曲者だったわね」


「事情が事情とはいえ、ある意味スゴイよ」


「わ、わたし、ビックリしました!本当にそういうことあるんだなって!」

 長穂が口を挟んだ。


「ずっと東京にいる長穂ちゃんには馴染みのないことかもしれないけれど、地方の...それこそよく名の知れた妖界隈では少なくないのよね。そういう意味では裡尾菜ってコの気持ちもわからないではないけど、やり方はよくないわね」

 

 糸緒莉は決して他人事ではないといった表情を浮かべた。

 長穂は子供のように興味津々といった顔で口をひらく。


「妖狐の十九淵家の娘と天狗神社の山田家の息子のお見合い。

 その裏には......妖狐として他地域にも勢力を拡大したい十九淵家と、天狗神社の経営悪化で苦しむ山田家という事情が!

 しかも、裡尾菜さんの十九淵家は分家で、今回の話は本家からの意向だと!天狗は妖狐に次ぐ三代妖怪のひとつ。その天狗神社を飲み込めれば、妖狐のさらなる政治力拡大に繋げられる。

 そう。つまりこれは、政略結婚だったのです!」


 長穂は興奮気味に声を張り上げた。

 

「長穂ちゃん。ひょっとして自分の描いてる漫画のネタにする気?」

 糸緒莉がいぶかしげに尋ねた。


「い、いえ!ただ興味深いというか...!」


「興味深い......か。ナゴムくんは実家に連絡するの?」


「ああ、確認してみるよ。まだ俺のところまで話が来る前の段階だったから、今回の件での親の考えとかまったく知らないし。

 しかし改めて......妖同士がメンドクサイってことがわかったよ。だから正直、今回のことで裡尾菜さんに同情はあっても怒る気持ちはないよ。

 妖狐は本当に大妖怪だからな。しかも裡尾菜さんは本家に従う分家の娘。俺たちにもわからない抱える事情や苦労が色々あるんだと思う」

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