ep40 十九淵裡尾菜⑩

「じ、じゃあ、行きましょうか」

「......」

「裡尾菜さん?」

「......」


 やはりどうにも納得のいかない裡尾菜は目を伏せて動こうとしない。


(妖は恋愛対象じゃない?自分は妖のくせに?しかも相手はこの私よ?そんなの絶対にオカシイ!何かもっと別に理由があるはずよ!......ハッ!まさか!あの女......)


 なにかを閃いた裡尾菜は、パッと目を上げて口をひらく。


「山田さん」

「?」


「私になにか、隠していることありますよね?」

「あっ、あ〜まあ、妖ってことは隠してましたけど」


「そうじゃない。そうじゃないだろこのチャラかしがぁ!」

「は??」


 裡尾菜は声を上げたと同時に何処へと向かって飛び出した。

 彼女の突然の不可解な動きにナゴムは完全に虚を突かれるが、本当に驚かされるのはこの後だった。


「し、糸緒莉ちゃん!」

「妖狐のコ、こっちに来てる!?」


 遠目からこっそり監視していた糸緒莉と長穂のもとへ、身構える間もなしに裡尾菜がバビューンと飛んでくる。

 

「おい!」


 到着するなり開口一番、裡尾菜が鋭い声を上げてふたりを指さした。



「な、なに?」

「ななななんですか?」


 糸緒莉は長穂を庇うように一歩前に出る。


「こっちのロングヘアーの方か?そっちのショートボブの方か?どっちか、山田ナゴムの彼女だろ!?」


 裡尾菜がズバッと言い放った。


「......」


 あまりの勢いに一瞬、水を打ったような静寂が走る。


「......?」


 糸緒莉と長穂は唖然とするのみで、なんの言葉も返さない。

 ビシッと指さしながらも裡尾菜は、

「......あ、あれ?」

 おかしいと思い始める。


 そこへ遅れてナゴムが駆けつけると、

「り、裡尾菜さん!いきなり何してるんですか?......えっ?糸緒莉と長穂ちゃん?」

 思わぬタイミングでの友人との遭遇にビックリする。


「あっ、ええっと、その、こんばんは〜」

 とりあえず冷や汗まじりの笑顔で誤魔化す糸緒莉。

「アハ、アハハ」

 同じように長穂も笑ってやり過ごそうとする。


「こんなところで会うなんて、すごい偶然だな......」


 何も知らないナゴムは素直に驚嘆するが、すかさず裡尾菜が口を挟む。


「山田ナゴム!お前、このふたりにずっと尾行されて監視されていたんだぞ!」


「え?そーなの?(な、なんか急に言葉使い荒くなったな...)」


「そうだよ!お前の浮気現場を押さえるためにな!」


「う、浮気?どーいうこと?」


「この期に及んですっとぼけんのか?このロングヘアーかショートボブ、どっちかお前の彼女だろ?」


「糸緒莉か長穂ちゃんが?な、なんで?」


「じゃないとこの私にオチない理由がわからないもん!!」

 裡尾菜は拳を握って叫んだ。

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