ep9 雲ケ畑糸緒莉⑦

 糸緒莉とわかれた山田ナゴムは、家路につきながら、ひとりションボリと肩を落としていた。


(いったい今日はなんだったんだ?

 あんなに楽しみにしていた〔しおり〕とのデートが、まさか警察署で終わるなんて......。

 でもなによりも、あの〔しおり〕が妖だったなんて......。

 俺はあくまでヒトの女性と出会いたかったんだ。

 妖は、マジで色々とメンドクサイから...。

 いい出会いだと思ったんだけどなぁ......)


 駅から自宅への道のりをトボトボと歩きながら、頭をたれる山田ナゴム。

 はたから見れば、しがないサラリーマン以外の何者でもない。


 同じ頃。

 

 雲ヶ畑糸緒莉は、スマホを手に取り眉間にシワを寄せていた。

 

(まさか山田くんが妖だったなんて......!

 しかも山田くん。隠してたっていうわりには、人助けのために躊躇なく妖力つかって私にバレちゃって......なんて私も人のこと言えないか。

 それより、さっきの現場に会社のヒトいなかったわよね?私が女郎蜘蛛ってバレたら、東京に来た意味なくなっちゃう!)



 *



 週明けて......。


「おはようございまーす」

「ああ、山田、準備できたらすぐにこっち来てくれ」

「はい」


 いつもどおり山田ナゴムは社会人生活を営んでいた。


 先週末は......。


 ナゴムは帰宅するなり倒れ込むようにベッドに沈んだ。


(ああ......ここ十数日間にわたる努力と胸のトキメキを返してくれ......)


 そのタイミングで、彼のスマホへ糸緒莉からのメッセージが届く。

「糸緒莉さん?もう会うこともないだろうに......」



しおり


『わかっていると思うけど、念のため。


 私の正体が女郎蜘蛛だってことは、くれぐれも他言しないこと!

 もちろん私も山田くんが天狗の妖ってことは誰にも言わない。


 別に共通の知り合いがいるってわけじゃないけど、いつどこから誰に伝わるかわからないから!


 あと、もしさっきの事故現場の映像がSNSとかに上がって私たちが写っていても、絶対にシラを切るのよ!


 いい?これは約束よ!

 お互いのためなんだから!


 それと、今日はありがとう。

 お食事デートはホントに楽しかったです。

 おつかれさまでした。

 おやすみなさい』



 このようにして、ナゴムは糸緒莉と固い約束を交わし、何事もなかったかのように元の社会人生活へ戻ったのである。


 ただ、あの日以来、彼はマッチングアプリへのログインはしていなかった。


「気分がノらない......」

 のであった。

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