第20話 段ボールから少女のケツが出ている……?
「そ、それよりリビングに行こう……! 俺、喉乾いちゃってさ」
「なんだ急に――は……っ!? さては、やましいことでもあるんだな」
「いやなんでこういう時だけ鋭いんだよ……!」
「手つきがやましかったからだ」
父親の部下の話は勘違いしたくせに妙なところで嗅ぎつけてくる。この無意識にエロワードを狩り立ててくる猟犬の脇をすり抜け、俺は廊下に出た。
「おい待て、まだ――」
待たない。廊下を一気に抜け、階段を下り、玄関ホールを横切って右のドアに入る。玄関から向かって左側の山の方に面した部屋。そこがリビングになっていた。
分厚い一枚板のダイニングテーブルや精緻な模様が描かれた金属フレームに縁取られたソファー。壁際には暖炉まであるが、プロジェクターや棚のガラス戸がタッチパネルになっていて現代的な分、俺の自室になったあの部屋よりもずっと馴染み深い感じ。とはいえ、やはり一般的な家庭のリビングの四倍以上の広さがあるんだが――
「黙って逃げ出すなんて、自分でやましいと思っている証拠だぞ。観念しろ」
「俺が観念したら困るのはお前なんだぞ……?」
「うんん? なんだ、脅しのつもりか? ふっ……だとしたら無意味だな。追い詰めているのは私の方なんだからな。困る要素など、ない……!」
どうして自分から地雷原に突っ込むのか、シャノンは無駄にキメ顔で言ってきた。
なんだかどっと疲れてくる。もう色々諦め混じりに俺は視線を流した。
「ん……?」
すると、視界の端に段ボールが入ってきた。ソファー横に置かれたそれに上半身を潜らせ、がさごそと漁っている小柄な身体。だから半ばこちらにお尻を突き出すような形になっている。大きめのTシャツだけが申し訳程度に隠しているが、小ぶりな尻がなだらかな曲線をくっきりと描いている。股下から伸びる太ももは白くシルクのようで、目に映るその足が、少女のものだと教えてくれた。
「シャノン、ケツだ、ケツがある……!」
「は……っ!? 何でそんな話になる……!? 話の脈絡がないだろ。まさか頭がおかしいフリをして無罪になろうとしてるんじゃないだろうなぁ……!」
「精神鑑定を受ける犯罪者みたいに扱うんじゃないよ……あれだ、あれ。見えるだろ」
一歩横にずれてシャノンにも見せてやる。
ああ……ううん、と歯切れの悪い声が返ってきた。長い金髪が箱娘に近づいていく。
「ちゃんと座らないか。行儀が悪いぞ」
「あ、シャノンちゃんお帰りー……いや~革の感触が苦手で座ってられないんだよねぇ」
ひょこっと段ボールから顔を出したのは、赤毛の少女だった。肩口をくすぐる髪のてっぺんにアホ毛がぴんと跳ねていて、まるっこい緑色の瞳と相まって無垢な印象。だが絨毯に座った足はスリッパを履いているものの素足で、ずぼらな性格が窺える。
少女が持っている
「ズボンを穿けばいいだろ。もう、またゲームばかりして……」
「うん、ニワトリに卵のせてフライパンまで運ぶやつ。バランスをとるのが難しいけど、ゴールに着くと綺麗な目玉焼きが出来るんだー……」
「自分が生んだ卵を焼かせるなんて良い性格してるな、製作者は……」
「ただのクソゲーじゃねーか……」
シャノンと一緒に俺は苦い顔を作った。
そんな俺たちの反応をよそに「ほらぁ」と端末の投影ウインドウを見せてくる赤毛の少女。フライパンが自動的に皿へ持っていかれ、目玉焼きがそこにのる。そしてニワトリが、タップする少女の指に合わせて黄身をついばみはじめた。
「うわぁなんて酷いゲームだ~……これも共食いに入るのかな……?」
「朱宇、このサイコロリはクレア・レーデ・リーチェル。こんなのでもマリーさんの副官だ」
「どうも、さいこーなロリです」
「さいこーなロリ、か。微妙に違う意味に聞こえてくるな……」
妙な響きに俺はふっと笑った。
(次回に続く)
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