第6話 美人な同級生は興味を持つ
《side黒鬼姫》
小学生の頃までは、男の子も女の子も関係なく遊んでいた。
中学生になったぐらいから、男の子の気持ちがわからなくなってしまった。
初めて告白を受けたのは中学一年生のとき、運動部の人気のある先輩で、周りの女の子がカッコいいと言っていた。
「なぁ、黒鬼、俺と付き合ってよ」
「どこにですか?」
「そうじゃねえよ。俺と彼氏彼女になろうぜ!」
強引に腕を掴まれて引き寄せられそうになる。
恐怖と嫌悪で、私は先輩を突き飛ばした。
「離して! あなたのことなんて知りません!」
私は怖くて、その場を逃げ出した。
最初の彼は凄くモテる人だった。
親友の白堂穂花ちゃんが教えてくれました。
そんな人を突き飛ばして振ったことは噂になった。
男子はそれを面白がって、誰が付き合えるかと告白する人が増えました。
名前も知らない男子から告白される日々が続いて、それは高校一年生になるまで三年間続きました。
私が男性からのお付き合いを断るたびに、一人、また一人と女性の友人も減っていきました。
好きな人が私に告白して振られた。酷い振り方をした。お高くとまっている。
理由は様々だったけど、いつのまにか私の周りには穂花ちゃん以外には誰もいなくなっていた。高校に行っても話しかけてくれる人はいなくなっていました。
それが一年続いて、誰かと話すのが苦手になっていた私に挨拶をした人がいました。
「黒鬼さん、おはよう」
「えっ? あっ、はい。おはようございます」
好意も、気負いも、嫌悪も、私に向けられていた様々な疎ましい感情が何も含まれていない。自然で、気軽で、普通の挨拶に戸惑ってしまいます。
「あの」
「えっ?」
つい、私は自分から挨拶をしてくれた男の子を呼び止めました。
「はい? どうしました。黒鬼さん」
彼は私に呼び止められると思っていなかった様子で、不思議そうな顔を向けてきました。
もう一度見ても、私へ対する感情がありません。
「不躾にすみません。私はあなたの名前を知りません。教えて頂けますか?」
どうしても彼に興味が湧いて、名前を尋ねてしまいました。
「そういうことですか、ごめんなさい。僕は二年二組の飛田蓮です。黒鬼さんは有名人だから、声をかけてしまってすみません」
丁寧な口調で、私を有名だと口にする。
私の噂を知っているの? 私は他の人から嫌われているよ。
「いえ、挨拶をされて嫌な気分にはなってはいません。知らなかったので、申し訳ないと思っただけです」
彼が噂を知っているなら、話を誤魔化して終わらせたい。
「それはご丁寧ありがとうございます。また挨拶するかもしれませんが、構いませんか?」
彼から、また挨拶をしたいと言われて今度は私が驚いてしまう。
噂を知っているのに、私に挨拶をしたい? 断る理由が思いつかなくて。
「はい。私でよければ」
「ありがとうございます。僕、あまり人に話すのが得意じゃないっていうか、むしろ苦手なんです」
「苦手なのに、挨拶をするんですか?」
彼は嬉しそうな顔で、自分は話すのが苦手だと宣言する。
私も人と話すのが苦手。彼の考え方が不思議で気になってしまう。
「はい! 今日から自分を変えようと思っていて。黒鬼さんはみんなから挨拶されているから、僕が挨拶をしても慣れているだろうって、勝手にすいません」
彼は私の噂を知らない? 私は穂花ちゃん以外からは挨拶をされない。
誰とも話さない。
「私も」
「えっ?」
「私も、話すの苦手です」
「そうなんですか?」
「うん。だから、また明日も挨拶してほしいです」
彼と話しても嫌じゃない。
普通に挨拶をして、会話をした男の子。
それは小学校ぶりだった気がする。
私は嬉しくて、この気持ちを穂花ちゃんに話したくて、放課後に穂花ちゃんが部活を終えるのを待っていた。
ふと、今朝見たばかりの彼の姿を見つけて後を追いかけた。
そこにいたのは、涙を流す彼でした。
子供の頃なら、男の子の泣く姿を見たことがある。
だけど、大人になって、人と話をしなくなってから男の人が泣く姿を見たことがありません。
振られた人たちは、ほとんどが怒るか、笑うのか、泣く人はいませんでした。
だから、彼が悲しんでいる。
彼の涙を見るだけで胸が苦しくなりました。
辛いことが伝わってきます。
「えっ?」
口から漏れ出てしまった声を手で抑えても、もう遅い。
夕暮れから、夜に変わっていくなかで、飛田君の顔に影が差し込んでいきます。
「黒鬼さん?」
彼が私を見る。
一筋の涙が溢れ落ちました。
私は言葉を発することを忘れてしまう。
「……飛田君?」
なんとか、彼の名を呼ぶことが出来た。
「うん。飛田蓮です」
彼は顔が見えないと思ったのか、私が覚えていないと思ったのか、自己紹介してくれる。
こんな時に話が上手い人なら慰めの言葉が浮かんでくると思う。
だけど、私は……。
「……ごめんなさい」
「どうして、黒鬼さんが謝るの?」
他に言葉が出て来なかった。
見たことを謝ることしかできなかった。
「泣いているのに、邪魔をして」
彼は恥ずかしそうな顔をして、袖で顔を拭きました。
「ベッ、別に気にしないで」
「……男の人が泣いているのを初めて見ました」
涙を初めて見て、凄く辛い。
彼の辛さが伝わってきます。
「本当に気にしないで。もう帰るよ」
彼が機嫌を損ねてしまった。
また私は嫌われてしまった。
飛田君が横を通り過ぎる際に、「ごめんなさい」ともう一度謝った。
だけど、きっと彼はもう挨拶をしてはくれないだろう。
名前も知らない。
話したこともない。
そんな人を振っても、どこか自分には関係ないと思えた。
だけど、挨拶をしてくれて、名前を知り、涙を見た飛田君の姿は私の目に焼き付いて離れなかった。
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あとがき
どうも作者のイコです。
ラブコメ週間ランキング100位圏内に入ることができました!!!
ありがとうございます!
ブックマーク110人突破。ありがとうございます(๑>◡<๑)
話のキリが良いところまでは、二話投稿を続けます。
どうぞお付き合いくだされば嬉しく思います。
レビュー、コメント、いいね、など頂ければモチベーションアップになりますので、どうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)
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