第28話 買い物?

 ゴーンゴーンゴーン!


「くはぁ~……」


 鐘が鳴ると、アリアが目を覚ました。アリアを起こすのは面倒だからな。自力で起きてくれて助かった。


「うぐっ! はぁー……」


 今日は退けと言われる前に、アリアの腹から降りる。我は学習する猫だからな。しかし、我が腹から降りたというのに、アリアは起き上がる気配を見せない。


「アリア、もう鐘は鳴っている。起きなくてもいいのか?」


「今日は休みだからいいのー」


 休みか。たまにこういうことがある。授業がないので朝起きる必要が無いらしい。


「あ。でも今日は買い物だから、もう起きた方がいいわね。はぁ……」


 アリアがため息をついて、上半身を起こす。


「んぐ、くー、はぁ……」


 アリアが伸びをして、ベッドから立ち上がった。我はアリアの寝ていた場所に移動して、身体を横たえた。温い温い。アリアがクローゼットへふらふらと近づき、着ていた服、ワンピースを脱いで籠の中へ入れる。着ていた白い下着、パンツも脱ぐと、アリアが裸になる。相変わらず平たい身体だ。ポンッと飛び出た尻以外、平坦な印象を受ける。毛が生えているのは頭くらいだな、あとはツルツルにハゲ上がっている。


「私、私服って持ってないのよねー。夜着にしてるボロのワンピースじゃ流石に恥ずかしいし……制服でいっか」


 アリアが服を着ていく。人間は服を着替えなくてはならなくて大変だな。そんな大変な思いをするくらいなら、裸でいいと思うのだが。いいぞ、裸。楽で。


 ふむ、アリアの支度にはまだ時間がかかりそうだ。寝て待つか。我はアクビを噛み殺すと、目を閉じたのだった。



 ◇



「クロー、ご飯食べるわよー」


 アリアに起こされて、食堂に向かう。食堂には、すでにレイラとキースが居り、彼女らに合流した。朝食を食べていると、ルサルカも合流し、三人でおしゃべりしながら食事を摂り始める。


「レイラも制服なのね。私服は着ないの?」

「今日は外に出ますから。この学院の制服を着ていると、変なお誘いを受けることがありませんから安全なんですよ。二人もそれを見越して制服を着たのではないのですか?」

「私は単純に王都で着るような私服を持っていないのよ。継ぎ接ぎだらけだと恥ずかしいでしょ」

「あたしもそんな上等な私服持ってないからねー。制服が一番上等なの!」


 朝食を食べ終えた我は、アリアたちの話を聞き流しながら、顔を洗っていると、アリアが話があると言ってきた。


「クロ、今日は買い物に行くわよ」

「買い物? 何をするんだ?」

「野外学習で必要な物を揃えに行くのよ。学院の外に行くけど、ちゃんとついてこないとダメよ。」

「我も行くのか?」


 買い物とやらに我が必要とは思えないが。


「当然よ。あなたには荷物を持ってもらわないと。あなたがどれだけ荷物を持てるかの実験でもあるのよ」


 そういうことか。まぁ我も学院の外には興味がある。ついて行ってやるか。


 アリアたちと食堂でしばらくゆっくりしてから、学院の正門へと向かう。教室とは反対側だ。こちら側に来るのは初めてだな。やがて、学院を囲む石の塀の切れ目が見えてきた。あの出入り口が正門か。正門の両端には人間が立っており、出入りする人間や使い魔をチェックしている。


「よかった、まだヒルダ様はいらっしゃらないようね」

「お待たせするわけにはいきませんからね。先に外出届を出しておきましょう」


 アリアたちが、正門傍にある建物で人間と話している。どうやらここでヒルダと合流し、その後、買い物に行くらしい。


「イノリスは行かないのか?」

「行ければ良かったんだけどね。外出許可が下りなかったのよ。だから、今回はお留守番」

「そうか……」


 残念だな。イノリスが居れば乗せてもらおうと思ったのに……。それに、今回は初めての場所に行く。イノリスが居れば心強いかったのだが、居ないものは仕方ない。十分警戒しなくては。なにが起こるか分からんからな。


 正門を出ると、広場になっていた。広場の中央に花や木が植えられ、それを中心に丸く道が敷かれている。我らは正門を出てすぐの所で端により、ヒルダの到着を待った。


 しばらくすると、広場に一台の馬車が入ってくる。馬車は円形の道をくるりと回って正門で止まった。御者が馬車を降り、横に付けられた馬車の扉を開けと、中から出てきたのは、制服とは違う服を着たヒルダであった。


「皆さん、おはようございます。どうやらお待たせしてしまったみたいですね」

「おはようございます、ヒルダ様。私たちは学園に住んでいますもの、お気になさらず」


 ヒルダの後ろから白い毛玉が馬車を降りてくる。


「おはよう、リノア」

「おはようございます、クロムさん」


 リノアがきょろきょろと辺りを見渡している。きっとイノリスを探しているのだろう。


「残念ながら、イノリスはお留守番だ」

「えっ!? その……わたくしたちだけで大丈夫かしら?」


 リノアが不安そうだ。コイツ、ケンカ弱そうだからなー。襲われないか心配なんだろう。


「大丈夫だろう。人間も居るしな。それに、居を構えて縄張りを犯そうというわけじゃない。通り過ぎるくらい見逃してくれるさ」

「そうですよね。……うん」


 リノアがどこか期待するような目で我を見てきた。何のつもりだ?


「クロ、行くわよー」


 アリアが呼んでいる。どうやら出発のようだな。


「そんなに心配なら、ヒルダにくっついていればいい。アイツならお前を助けてくれるだろう」

「はい……。そうします」


 リノアが我の顔を見て残念そうにトボトボとヒルダの方に歩いていく。一体どうしたんだ? 分からんな。

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