第7話 ユーナとセレナ。
ユーナの顔つきは暗く険しい。
歩いて15分程の隣家に着くと、出てきた女は「よく来てくれたね。今日は調子が良さそうだからアンタを待ってたよ」とユーナに言い、ヴァンを見て「この子は?」と聞く。
「今日できた友達だ。親父がセレナに紹介しろと言うから連れてきた」
ユーナの話に合わせて、ヴァンが「こんにちは。ヴァン・ガイマーデです」と挨拶をすると、「よく来てくれたね」と言って扉の前から退いた。
勝手を知る家なのか、ユーナは自然に歩き、一つの扉の前で深呼吸すると扉の向こうから、「もう、また照れてるの?入ってきてよユーナ」と声がした。
「ったく、耳だけはいい」
ユーナが憎まれ口を叩きながら部屋に入ると、中には小麦色の髪色で薄褐色の肌色をした女性がベッドで横になっていた。
ヴァンはひと目でこの女性がセレナだと理解した。
「もうお使い終わったの?」
「ああ、あっという間だった」
「ふふ。良かった。それで横の子は?お友達?」
「ああ、友達だ」
ユーナの言葉にセレナは目を丸くして、「お友達!?凄い!良かったねユーナ!」と喜ぶ。
「初めまして!俺はヴァン!」
「こんにちは。セレナです」
セレナは青白い顔で微笑んでヴァンに挨拶をし、ヴァンは手を振った後で「ねぇ、ユーナって友達いないの?ペトラさんも玄関のおばさんもセレナも皆の友達って言うと目を丸くしたよ?」とユーナに向かって言うと、ユーナはバツの悪い顔で「言うな」と返し、セレナはケラケラと笑って「お母さんにも驚かれたの?友達は…私以外じゃ初めてかもね」と言う。
だが反論しないユーナを見てヴァンは本当に友達が居ないんだなと理解していた。
「ヴァンはどうしたの?」
「ユーナと話すのが面白くて家まで着いてきたんだよ」
「あら、楽しいの?ユーナってば家にこもってばかりだから楽しくないかと思ったわ」
「腕とか木みたいに太いし格好いいし、バカでかい剣もブンブン振るから楽しいよ」
ユーナは「ふふふ」と笑うと、「良かったねユーナ。ユーナの良い所に気付いてくれるお友達ができたね。大事にしてね」と言うと涙を流してしまい、「あれ?変だな?あれれ?」と言ってメソメソと泣いてしまう。
「ごめんねヴァン。私ね、病気で長くないの…。自分でもわかる。もうすぐなの。でも良かった。独りぼっちになるユーナが心配だったけど、ヴァンが居てくれて良かったよ。私もユーナとヴァンと一緒に居たかったなぁ」
メソメソと泣くセレナに「病は気からだよ!元気出してよ!」とヴァンが励まして、「ユーナもなんで励まさないの!?」と声を張るが、ユーナは苦しそうな顔をするだけで一向に励まそうとしない。
ヴァンが苛立ちと共に「情けない!ユーナはダメだよ!」と怒鳴る。
「お前に何がわかる!」
「何言ってんだよ!ユーナはスティエットだろ!ミチトの奇跡をなんで起こさないんだよ!コーラルならやってる!ヘマタイトだってやる!ペリドットだって、ペリドットのお爺さんのプレナイトもやった!やったならコーラルの弟でヘマタイトのお爺さんのオブシダンだってやる!シャヘルもやる!」
「言うな!」
ユーナは激高して、ヴァンの胸ぐらを掴んで睨みつける。
だがヴァンからすれば、父親もユーナも変わらない。
戦闘力を持つ男の腕は全部同じで、本気を出されたら命がないと思っているので、目を逸らさずに、「逃げちゃダメだ!救える命を救わないでどうするんだよ!剣が強いだけじゃダメだ!」とヴァンが言うと、辛そうな顔をしたユーナはヴァンから手を離した。
シンとする室内。
ユーナの激高した声がまだ耳に残る。
そんな気がしてしまう中、セレナは「ふふふ。ありがとうヴァン」と言った。
ヴァンはニコニコと「いいんだよセレナ。ユーナに治させようよ!ダメならコーラルって俺の友達も来てるし!ヘマタイトもペリドットもシャヘルも居るからなんとかなるよ!」と返事をする。
「うん。ありがとう」
「なら呼んでくる!」
ヴァンが部屋から出ようとしたとき、セレナは「ううん。いらないの」と言った
ヴァンは「え?」と聞き返して思考停止してしまうと、穏やかな微笑みのセレナは「ユーナが伝説の、スティエットの末裔なのは聞いてるんだ」と言った。
「ユーナは治そうとしてくれたの。でも治らなかった。それからユーナは前より暗くなっちゃったんだ。でもね、私はユーナを信じてる。ユーナって子供の時から大きくて強くて、屋根から落ちた私を軽々とキャッチしてくれたの」
自慢げに語るセレナに、ユーナが「あれは軽いからだ。セレナは軽すぎる」と相槌を打つと、セレナは嬉しそうに「ふふふ。またそれ。ユーナがすごいんだよ」と言う。
「話がそれちゃった。私はユーナが伝説のスティエットで、助けてくれるって信じてるから、他の人の助けはいらないの」
「ダメだよ!」
「ヴァン?」
「まずは生きるんだ!生きられるなら生きて!」
「そんな…」
ヴァンは感情的になってユーナを見て、「ユーナ!セレナをベッドごと持って!コーラル達の前まで行くよ!まずは治し方から考えるんだ!早く!」と言うと、扉の向こうにいたセレナの母に「ユーナの家までベッドごとセレナを連れてくから!」と有無を言わせない。
顔を見合わせて目をパチパチとするだけのユーナとセレナはおかしくなってしまい2人で笑うと、セレナが「あ……ユーナの笑顔、久しぶりに見たよ」と言った。
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