序章

午後10時その日は夕方から深夜までの間に関東全域に大雨の警報が発令されていた、激しく地面に打ち付ける雨の音が外に響くなか、激しい雷雨に関わらず一人の男が外に出歩いていた、もちろんこんな大雨の日に人など出逢わない、男はよろつきながら歩きやがて信号がある道路へとついた、すると男は突然歩いていた道路へ倒れた、「ヴぅーーーー」数分後男は何とか意識を取り戻しあおむけに体を向けた、激しく頬に打ち付ける雨粒に微かに眼を開けることしか出来ない、しばらくの間男は倒れこんだまま動かなかった、やがて男は笑みを浮かべそして狂ったように笑い続けていた。




11月9日、「えーここで速報が入りました!今日の午前七時頃東京湾で身元不明の水死体が発見されました、只今警察が身元を確認中とのことです」

「眞鍋さん、眞鍋さん!」名前を呼ばれ慌てて眞鍋は見つめていた窓のそとから顔を横に振り向いた、眞鍋を呼んだのは横にいる未だ新人刑事の市川だった、「なんだ市川?」 「たった今揚がったそうです」そう言うと眞鍋は脱いでいた黒いコートを着て車から降りた、「現場は、あの河川敷か?」 「はい、そうみたいです」二人は現場近くに群がる野次馬達を退きながら河川敷へと向かった、途中警備員に警察手帳を見せ現場に入ると既に一課が身元確認を行っていた、「おー遅かったな、眞鍋、」眞鍋に声をかけてきたのは、警部の羽鳥だ、「遺体は酷い有り様だ、そこの新人君もなるべく現場では吐くなよ」そう言うと市川は緊張した面で体が固くなっていた、「部長、遺体の身元はどうなんですか」眞鍋が羽鳥に問いかけると、羽鳥は険しい顔で横に振った、「見たらわかる」

鑑識の調査が終わると眞鍋は全身にかけられたブルーシートを顔の付近からゆっくりと捲った、「ヴッヴッヴー」市川は思わず現場から離れたところに駆け込んでいった、「ぢ、アイツ」 眞鍋は遺体の顔をライトで照らしじっくりと見つめた、「被疑者は海に流される前に何者かの暴行を受け、最後は出血死で殺され、東京湾に放り出された」 眞鍋は険しい顔をしながら話した、「状況から見て死後2日たっているだろう」 眞鍋はライトを消し遺体付近から立ち上がろうとしたその時遺体の手首付近にある薔薇のような刺青に気がついた、「おい市川!、鑑識にこの刺青の写真をとるよう言っとけ」 市川は河川敷の方で持ち歩いていたハンカチを手で押さえ、えずきながら応えた、「ばっばいすいませんお願いしときます」 現場を後にした眞鍋は警察車両へと戻る先には記者団が集まりすかさずシャッターを押す音が鳴り響いた、

「すいませんここは関係者以外立入禁止禁止です」 警備員が必死に押さえるのを眞鍋は覗かせていた、「すいません週刊紙の阿部川と申します、殺されたのは一体誰なんですか教えてください」 警備員は困り果てているのを眞鍋は呆れながら止めていた車へと乗り込んだ。




夕日が落ち、夜の高速道路を眞鍋と市川を乗せた車は走らせていた、車の中は暫く二人の沈黙が続いていた、運転している市川は気まずい空気を変えようと話を持ち出した、「先輩そう言えばどうして現場の時被疑者の刺青を鑑識に撮らせたんですか」 すると眞鍋は市川に刑事はどのようにしていけば良いのかを教えてあげるかのように話始めた、「刑事は人を疑うのが仕事だ、何があろうと被疑者の事を第一に考え捜査する」 「えぇ、承知してます」

「この仕事をしていると次第に被疑者がどういう人間であるかも感じ取れるようになるんだよ」 すると眞鍋はドアの縁にある穴から一枚の写真を取り出した、「例の薔薇の刺青をしていた遺体はまだ結果はでていないがおそらく神田組の人間だ」 市川は少し理解が追いつかなかった、「今勢力を伸ばしている関東組織の傘下である神田組の人間は全員体のどこかに薔薇の刺青が刻まれている、アイツは間違いない」眞鍋は確信を付いたような顔つきになっていた、「眞鍋さんそれって、本部に知らせておいた方がいいのではないんですか」 「いや、今の時代奴らはうまいこと警察から潜り抜けてる、県警がうるさくすれば奴らは又上手いこと策を練ってくる」 「では、どうすれば」 市川は眞鍋の話に疑問を投げ掛けた、「まぁ、俺に任せとけ、今回の件も何とかしてやる」 そう言うと眞鍋は乗っている座席のシーツを少しだけ下げ眼を瞑った、そして又沈黙が続き、ハンドルを握る市川は署に戻るまでずっと疑問だけが頭の中を巡らせていた。







都内の病院では蛯沢と言う男が病室から出られなくなっていた、それは2日前、以前から体調を崩し意識を失う事が多々あった事から医師から脳腫瘍があると余命判決を受けていた蛯沢は今年の二月から入院を始めたが状況はもうじきなのかもしれない、「会長は今どんな状況だ、獅子神兄貴」 蛯沢がいる病室を抜けた廊下で獅子神は関武連合の傘下である神田組組長の神田と話し合っていた、「状況は以前より深刻になってる」獅子神は冷静に困り果てた顔を見せる神田を対応した、「もう会えんかもしれん、顔だけでも見て後は帰ります」神田はひとまず落ち着こうと、床に置いていた袋に詰められた果物を拾い、そのまま病室のドアを開け入っていった、

「おぉ~神田、元気にしとったか」 病室に入ると蛯沢の会長はニッコリとした笑顔神田に見せた、神田は何とか元気づけようと明るく笑顔を返し緩い世間話を始めた、「最近は内の若い衆も落ち着いてきてます、昔のような問題は起こさないよう努力してますけ」 そう話すと蛯沢はニコリと笑みを神田に見せた、すると蛯沢は神田を目線から外し横の窓を見つめた、「これからだと言うのに、まさかこんなところでくたばるとはな」 悲しげな蛯沢の言葉に、咄嗟に神田は否定した、「いえいえ会長にはまだまだ逝ってもらっては困りますよ」 神田は何とか笑みを見せ振る舞った、その後数分話をし、窓を見続ける蛯沢を見ていると病室のドアが開いた、中に入ってきたのは外にいた獅子神だった、「神田、そろそろ時間だ」 そう言うと神田は一言蛯沢に別れを告げ病室を出た、


病院を出ると地下の駐車場には二人の若衆が車を止めて待っていた、二人は獅子神、神田を見つけるとすぐさま頭を下げ車のドアを開けた、「御苦労様です!、」 獅子神は車の前まで止まると神田に話しかけた、「また、詳しいとこは事務所で電話する」 そう言うと神田は獅子神に会釈し応えた 「えぇわかりました、東絛さんにもよろしく伝えといてください」そう言うと神田は車に乗り込み、車を走らせていった、

「親父、会長の具合はどうでした?」 ハンドルを握る舎弟の大川は車を走らせた後すぐ神田に質問した、「まぁ、もう長くは無いそれだけはわかる」 神田は後部座席に大きく背中を倒した「そうですか、会長も運が悪かったのか残念です」 「おい、まだ死んでねぇぞ」 神田と大川は鼻で笑った、横にもう一人、前の助手席に座る舎弟の壮馬はなにも話すことはなくただ居座っていた。





水死体発見から五日後、緊急の捜査会議が県警本部から出された、会議には捜査員が一斉に集まり、眞鍋、市川の二課は一課の後ろへ配置されている、会議室の中は緊張感のある空気になっていた、眞鍋は置かれてあるテーブルの上に事件の捜査資料を開いた、隣に座る市川は会議前になにをしているのかと、不思議に眞鍋の手元をチラ見した、眞鍋は分厚い資料から素早くページをめくっていく、するとめくっていた手が止まった、市川は思わずそのページをそっと覗くと、ページには鑑識撮らせていたあの手首の薔薇の刺青の写真だった、眞鍋の顔を見るとその表情は険しい顔をしていた、するとバンっと広い会議室前の扉が勢いよく開き、何人かの上層部が入って来た、上層部が入ると一斉に捜査員は立ち上がった、始めに入ってきた強面の男、西警視正は前に置かれた席に座るとすぐにテーブルに置かれたマイクを手にもち挨拶し始めた、「これから緊急の捜査会議を行う、まずは鑑識からの」報告そういい終えマイクを元の位置に戻した、すると西は横にいる人物に耳元で話しかけている、市川は気になりそっと一課の座る間から覗いた、西の横に座るのは佐々木管理監、捜査の第一責任者だ、市川はふとその佐々木きの事が気になった、佐々木は女性警察官ながら優秀でスピード出世して管理監まで上り詰めたエリート刑事だ、市川は思わずじっと前の二人のやり取りを見ていると、急に一課の前にいる鑑識二人が前に出てきた、出てきた二人の眼鏡をかけた方の男は会議室のでかいモニターの前に立った、 「まずは監察医の検死の結果を報告します遺体は中田 徹 45歳 」 その結果報告に捜査員は驚いた、「殺された中田 徹は、死亡当時も外務省に勤めていました、姿を消したのは事件が起こる2日前当時仕事終わると必ずすぐに自宅へ戻るはずが、その日は珍しく帰りが遅かった用で」 市川は必死にメモを取っていると少し机が揺れているのに気がついた、ふと眞鍋の方を見ると、眞鍋はさっきの資料を強く握りしめているのにきずいた「眞鍋さん、眞鍋さん!」静かに名前を呼んだが眞鍋は反応しなかった、「午後11時妻、が何度も電話をかけるが応答がなかったようです」

すると眞鍋は市川に後は任せたと伝え会議室から出ていった、市川は思わず慌て止めようとしたが既に遅く行ってしまった、「西警視正、あの二課の刑事は一体?」前から出ていく眞鍋の姿を見た佐々木はふと気になった、「あの眞鍋のやろう、又単独行動するつもりか」眞鍋は早足で部屋から出ていった。

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