第6話 断罪
「カラム様!」
思わず大声で彼の名を呼んでしまう。
「元気そうで良かった」
カラムもまたホッとした顔でリューフェを見つめた。
「リューフェ、よくも嵌めたわね!」
暴れ出しそうなミラージュの首の鎖を引いて、カラムは動きを制する。
潰されたカエルのような声を出し、ミラージュは動きを止めた。その目はとても冷ややかだ。
「俺の妻に向かってなんて口の利き方だ。弁えろ」
更にカラムが鎖を勢いよく引くと、ミラージュは耐えかねて転んでしまう。
リューフェはおろおろしながらその様子を見ていた。
「カラム様、やりすぎでは?」
「リューフェは優しすぎる。だからこいつらはつけあがったんだ」
カラムは険しい表情で拳を握る。
「ありもしない噂をばら撒き、虚偽の犯罪にてリューフェを罪人に仕立て上げたんだ。許せるわけがないだろ」
青褪めるオルフを睨みつけ、イライラした様子でカラムは続けた。
「リューフェが人を傷つけたり、惑わすような悪人ではないと知っていてこのような冤罪を被せた。尚且つクライム伯爵に婚約破棄の慰謝料をたんまり払わせたんだ、どこをどうして許せと?」
もちろん冤罪を晴らした後に返還するよう求めたが、既に使われており、一括返済は難しいそうだ。
「このままの量刑だと、死ぬまで働いてもらって返済してもらうしかないな。山が良いか海が良いか、選べ」
辛い炭鉱か、危険の多い漁の仕事か。どちらにしろ逃げ場のない選択肢だ。
「リューフェ、助けてくれ! 俺はミラージュに唆されただけなんだ! 本当に愛しているのはお前で、うごっ?!」
言葉の途中でカラムの拳がオルフの顔面を打つ。
鼻血と砕けた歯が飛び、思わずリューフェは顔を逸らす。
「俺の妻を呼び捨てにするな。それに愛してるだと? そんな事をいう資格はお前にない」
冤罪で陥れ、男好きな悪役令嬢だという噂を流布したのだ。
しかもリューフェが評判の悪いカラムに言い寄られていると知るや否や、率先して結婚させようと辺境伯領まで出向いてきた。
全てはリューフェを陥れるため。
「何が愛している、だ。本当に愛しているならその女と結婚するわけがないだろうが。寝言は牢の中でして来い!」
カラムは持っていた鎖を待機していた別の兵に引き渡す。
倒れた二人は無理矢理起こされ、引きずられながら部屋の外に向かう。
「何か言いたい事はあるか? おそらく話せるのはここで最後だ」
カルロスにそう言われ、リューフェは迷ったが……
「オルフ様、ミラージュ様」
かつての婚約者と友人に向けて、精一杯の笑顔を見せる。
「私、この人と今度こそ幸せになるわ。応援していてね」
にこりと笑うリューフェの顔を見て、オルフとミラージュは顔を真っ赤にして怒り、カルロスは大笑いしていた。
カラムは振るえながら腕にしがみつくリューフェの頭を撫で、侮蔑の視線をオルフ達に向けた。
「人の不幸は蜜の味というが、この幸せの味はお前達には随分と苦そうだな」
悔しがる二人を挑発するがごとく、カラムはリューフェの腰に手を回す。
精一杯の虚勢が剥がれたようで、恥ずかしそうしながらもリューフェは上目遣いでカラムを見る。
「よくできたね、リューフェ。あんな言い返しをするとは思っていなかった」
「私が幸せになる事がオルフ達にとって一番悔しいものだと思ったのです。いつだって彼らは私を下に見ていたから」
高鳴る鼓動を抑えようと、リューフェは胸を抑えていた。
既にオルフもミラージュも連れて行かれたが、それでも興奮は治まらない。
「いやぁリューフェ夫人。こんな挑発をするとは思って居なかった。とても控えめで謙虚だと聞いていたからね」
ようやく笑いが収まってきたのか、涙目のカルロスがカラムとリューフェに近づいた。
「二人の結婚を心から祝福するよ。カラムにはまた王都で活躍してもらうからね」
「「はい」」
二人は硬く手を結び、お互いを見つめる。
これからまた新たな日常が紡がれることを期待しながら。
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