人生はいつだってhardmode(4)~突然のオファー
切なさと甘酸っぱさを含んだ超絶青春していた空気が弾け飛んだ中、にゅっとフォートくんの背後から顔を出した見慣れた顔。
その豪奢な黄金の巻き毛とエメラルドグリーンの瞳を他の誰かと見間違えるはずもなく……私とフォートくんはこれでもかというくらい驚いた。
あれ、デジャヴ。前にもこんなこと……あったな!?
「あ、あ、あ、……アルメラルダ様ぁ!?」
驚く私たちをよそに、呪われたり冥王と戦ったりしたあと寝てないだろうにシャキシャキしている髪一つ乱れの無いアルメラルダ様。体力精神力化け物かな? 今は赤くなった顔をパタパタとご自慢の扇で扇いでいる。
それにしても唐突な登場だったけど、今の見られてた!? ……何処から!?
……気まずい!
しかもよくよく見たら部屋の入り口にアラタさんも居る!! あなたも見てたんですか!?
待て。頼む、待て。死ぬ。羞恥で死ぬ。
しかし私の混乱をよそに、アルメラルダ様は真っ赤な顔で憤慨したように言葉を述べる。
「まったく……わたくし達が話し合っている間に何をしているかと思えば! マリーデル……いえ、フォート・アリスティ! わたくしは貴方に自室へ戻るようにと言ったはずですわよ!」
アルメラルダ様の言葉にフォートくんは苦いものを飲み込んだような顔をしてから……珍しく何も返さず、口を引き結んだ。
ちなみにこういった反応はアルメラルダ様が一番嫌うものである。
「何か言いたいことがあるのならハッキリおっしゃい!!」
案の定というか、雷のような叱責。フォートくんはぎゅっと目を瞑って身をすくませる。
私とアラタさんは「うんうん、それビビるよね。わかるわかる」とばかりに後方理解者面していたのだが……。
「ところでファレリア」
「はいっ!!」
アルメラルダ様のターゲットが私に移ったので、余裕をかましていられなくなった。
あの雷をくらうのはごめんだと、すっかり調教された体は背筋を伸ばしてはきはきとした返事を返す。アルメラルダ様はいったんそれに満足したように頷くと……不気味なほど優しい声で私に問いかけて来た。
「貴女、アラタが好きだったのではなかったのかしら?」
「あれ、名前……」
「今はそんな事どうでもよろしくてよ!!」
「はいぃッ!! すみませんッ!!」
アルメラルダ様がアラタさんを名前呼びしている事実が新鮮過ぎてつい突っ込んでしまったが、瞬時に封殺された。さーせん。
……というか。こ、この流れは……!
「……で?」
「え」
「今の問いかけに対する答えはまだなのかしら」
「それは、その……ですね!」
流石に歯切れが悪くなる。もう一度怒鳴られる前になんとか答えたい……けども!
アラタさんはアラタさんで何やらにこにこしているし。おいコラその生暖かい目で見守るのやめろ。どんどん言いにくくなるだろうが。
「…………」
「えーと……」
心の中では元気に喚いているものの、口から思うように言葉が吐き出せない。
背中を冷や汗が滝のごとく流れていくのを感じつつ……アルメラルダ様がスウッと息を吸ったのを確認した私は「まずい!」と意を決した。
「あの! 実は!!」
「あーもうじれったい!! さっさと言えよ! でなきゃ僕の諦めがつかないだろ!!」
「……は?」
いざ話そうとした瞬間、誰かが乱暴に部屋へと踏み入ってきた。
……は? 青髪腹黒童顔!? なんでお前がここに!
「阿保め。今まさに言うところだったろうが」
「そーだそーダ」
「ねー。ほんっと間がわるぅ~イ」
腹黒童顔に続いて入ってきたのは緑髪もさ髪ポニテの特別教諭に、紫髪の双子たち。
「……! あ、あいつがのろまだから悪いんだ!」
「女の子にそんな暴言を向けるものではありませんよ」
言葉を詰まらせてから喚く腹黒童顔を諫めた灰色髪は、フォートくんクラスの担当教諭。
おいおいおい。待て待て待て!! どんどん入ってくるんですけど、これは何事。
「貴方達! 外で待っていなさいと言ったでしょう!」
アルメラルダ様が焦ったように怒鳴るが、そんな彼女に声をかけたのは生徒会長の金髪色男だ。
「……でもなぁ。そいつが入った時点で今さらというか」
「ぐ……」
「そんなだから年上に見られないんスよ。外見関係なく」
「中身がおこちゃまですからね」
「……もうちょっと、隠れてみてたかった」
オレンジ髪不良もどき、水色髪優等生、ピンク髪不思議くん。などなど、次々と周りから責められる青髪腹黒童顔だったが……。
そろそろ私が限界である。ついには我慢できなくなって、叫ぶように問いかけた。
「皆さん、いつからおいでに!?」
騒がしい中でなかなか頑張って声を張った私に、しん……と静まり返った後。全員から気まずそうに視線をそらされた。
おい待て気まずそうにするな嫌な予感が増すだろうが!!
「……まだ話し合いがあるんじゃなかったの」
やっと再起動したフォートくんの問いに答えたのは第一王子だった。
「いや……その、だな。我々だけで話し合っても取り合いに収集がつかなかったものだから。もう本人に聞いてはどうかと」
「取り合い? 聞く?」
「ああ。ところがフォートの部屋を訪ねても君は居なかった。アラタにここではないかと言われて来てみたのだが……」
取り合い、とは何のことか。
それについての解答を得られないまま、第一王子はちらちらと私とフォートくんを交互に見る。
彼の表情はさっきからにこにこしているアラタさんの生暖かいそれに似ていた。
「その、なんだ。とりあえず私たちの事は気にせず続けてくれ」
「この状況で!?」
思わず王子相手に敬語を放り捨てた。
だ、だって。続けてくれって、アルメラルダ様の問いに対する答えを言えって……そういうこと!? この場で!?
おい待てふざけるなこのそこそこ広い部屋がパンパンになりそうな人口密度だぞ今。
…………あれ? もしかして今、ひーふーみぃ……私を入れて十五人もの人間がこの場に出そろってる!?
何の祭りだよ!!
「……まあ、いいですわ」
「良くないのですが!?」
「わたくしが良いと言ったら良いのよ! さあ、話しが進まないわ。さっさとわたくしの問いに答えなさいファレリア!」
「お、横暴……」
「……へぇ?」
「すみませんなんでもないですアルメラルダ様のおおせのままに」
……も、もうこうなったらやけっぱちですよ。
私は顔に熱が集まるのを感じつつ、「アラタさん、あんたまったくの他人事じゃねぇですからね、覚悟しろよ」と睨みつけてから……総勢十四人の前で思いっきり叫んだ。
「まずアラタさんには振られました!! 二度目です!!」
「ちょっ!?」
制止の声が入るがもう遅い。へっへーんだ! もう言っちゃったですもんねー!
アルメラルダ様に(本人知らなかったとはいえ)散々私の婿として教育されていたんです。一度ならず二度までも私を振ったとあらばアラタさんもアルメラルダ様に対して気まずいでしょう! そうでしょう! せいぜい青ざめるがいいのですよ!!
ざまぁとアラタさんを見つつ、勢いのままに続けた。
「でも昨日、フォートくんのことが好きだと気づきました! ちなみに両思いです!!」
「ファレリア!?」
フォートくんの方はといえば単純に恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めて私の名を呼んだ。
わぁ。アラタさんとフォートくん、顔がそれぞれ青と赤。リトマス紙かな? あっはっは。笑ってる場合じゃないが。
私はこの公開告白じみた羞恥プレイに二人を巻き込めたことに若干の満足を覚えてほくそえみつつ、しっかり自分もダメージを負った。
ああああああああああああ!! はっずかしい!!
けど羞恥にのたうち回っている場合ではない。おそらくこの後、特大の落雷が待っている。
「ファレリア」
「はい」
待って。静かな声が怖い。
(で、でも。これは逆に穏やかに終わってくれるパターン……では!?)
アルメラルダ様も昨日から怒涛の展開かつ休んでいないだろうから本当は疲れているはず! きっともうへとへとなんだ!
そんな淡い期待を抱きつつ上目遣いにアルメラルダ様を窺った私だが……。
「この!! わたくしが!! わざわざ!! 婿教育までしてやったと!! いうのに!! 今さら他の男に!! 乗り換えるとは!! どういう!! ことですの!!!!」
「ヒィィィィィィィッ!! ごめんなさいーーーー!!」
しっかり一言一言区切って怒鳴られたぁぁぁぁッ! これまでに経験した中での最大音量!!
「アラタ!! あなたもですわよ!!」
「ひっ! は、はい!?」
「一度ならず二度までも……わたくしのファレリアを振るとはどういうことかしら!?」
「も、ももももももももも申し訳ございませッ、いやでも俺はフォートとファレリアの仲を応援したくてですねけしてファレリアが魅力的ではないということでなく推し活の問題というか推しカプを応援したいというかこれは友人としてでもあるのですがともかく本人も自分の気持ちに気付いて無かったみたいだしなら後押ししてやらないとっていうなんていうか振ったは振ったんですが非常に前向きな振り方であって俺なりの気遣いでしてってあれ今わたくしのって言いました? その辺はもう少し詳しく」
あ、アラタさん! ビビりすぎて余計な中身まで出ちゃってますよ! しまってしまって!!
「両思い……両思い……僕のマリーデルがあんな無表情女と両思い……」
こっちはこっちで腹黒童顔が何か言ってるし! ああもう収集つかねぇですねどうするんですかこれ!!
混乱を極める室内。その中で一人、楚々とフォートくんへ近づく者がいた。
「ところでフォートくん。きみ、うちの子になりませんか?」
「!?」
それが聞こえた途端、再び室内が鎮まりかえり……爆発するようにうるさくなった。
「ああーーーー!! 先生、ずるいっスよ!! どさくさに紛れて!!」
「フォートくん、先生の元も良いだろうがもっと選択肢はあると思うのだよ! そう、例えばこの僕! 是非わが家へ養子に来てくれたまえ! 歓迎しよう!」
「だめ。フォートは……ぼくの弟に、なるべき」
「待て待て待て。子だの養子だのは面倒だろう? 重いだろう? 俺が適度に距離を保った上で後見人となってやろうではないか。その方がお前も気が楽なはず」
「貴方にはとても任せられませんね。ここは僕が……」
「ダーメ!! フォートはうちの子になるんだヨ!」
「そうそう。ね、フォート。僕らと兄弟になろうよ! 絶対楽しいって!」
う、うるさ……っ!!
個性の塊どもが無駄にいい声でギャンギャン言い合ってるの普通に煩い。ついでに髪の毛がカラフルなものだから目に痛い! この部屋の情報量さっきから多いんですよ。もうちょっと減らしてほしい。
……それにしても、これってどういうことですか。さっきから養子だの兄弟だの後見人だの。
「あの。今の話って……」
渦中の人物でありながら喧騒にのまれて置いていかれているフォートくん。
呆然とする彼を前に、アルメラルダ様が大きく咳払いをした。するとざわついていた室内が三度目の静寂を取り戻す。
「マリーデル。いいえ、フォート・アリスティ」
アルメラルダ様はフォートくんをエメラルド色の瞳で見つめると、すいっと片手を持ち上げてこの場に居ない第二王子を除く十一人の攻略対象……もとい、星啓の魔女の補佐官候補である男性たちを示した。
「彼らは貴方の後見人を申し出ていますわ。形はそれぞれだけれどね」
「なん……っ」
その内容にフォートくんの動揺は大きくなる。ちなみに私も絶賛置いていかれ中だ。さっぱりわけが分からん。
「なんで、そんな。僕なんかの後見人になったところで、いい事なんて……ひとつも……」
「それがあるんだよネ~!」
「ね! だよね、アルメラルダ」
「肝心な事を言わなきゃだめだよォ」
「そうそう」
双子の軽快なやり取りに促され、アルメラルダ様は深く溜息をつき……渋々といったふうに、驚くべきことを口にした。
「フォート・アリスティ。貴方をわたくしの……次代星啓の魔女たるアルメラルダ・ミシア・エレクトリアの補佐官として任命します。これは決定事項でしてよ」
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