本編裏側こぼれ話③【小旅行の裏側で】(不良もどきと優等生視点)
思っていたより豪快な人。
それが旅行という普段とは違った環境下で得た、マリーデル・アリスティに対する感想だった。
「いやぁ……見事に自然破壊しましたね……」
「ごめんなさい……」
現在ここは海岸沿いの洞窟近く。
その洞窟の入り口は巨大な岩盤で塞がっており、代わりとばかりに近くで大きく口を開けている真新しい大穴と破壊痕。
この大穴は白金の髪を赤い目を持つ少女の前で肩を落としている、亜麻色の髪の少女……マリーデル・アリスティが行ったものである。
どうしてこうなったかといえば、彼女と二人の男子生徒が洞窟に閉じ込められたから。正確には最初はマリーデルと一人の男子生徒だったのだが、気づいて助けに向かったもう一人が加わって二人になった。
しかし男子生徒側には脱出の手段はなく、どうしようか悩んでいた時。……手を挙げたのは星啓の魔女候補としてめきめきと実力を伸ばしているマリーデル・アリスティ。
マリーデルは脱出するために魔法を使い、洞窟の壁を掘削……破壊し、出口を作ったのだ。
すでにそのことに関しては処理や報告が終わっていたのだが。
せっかくだから洞窟の神秘的な光景を見に行かないか、とマリーデルがファレリアを誘いに来たため、所属するグループごと夜の鑑賞会と相成っているのが今である。
そしていざ来てみれば、洞窟の中より先に破壊痕のすさまじさに目を奪われてしまっていた。
「でもマリーデルがどうにかしてくれなきゃ、俺達どうなってたか分からないんで。勘弁してやってください」
そう彼女を擁護するのはマリーデルと同級生の少年で、不良じみた雰囲気に反して対する相手……上級生であるファレリアに接する態度は丁寧だ。
「別に責めてませんって。こうして本来は中に入らにと見られない魔法苔の光景を見させてもらっているわけですし」
「わたくしはそうはいきませんわよ。マリーデル・アリスティ。あとでたっっっっっっぷり、反省文を書いていただきますわ」
「はい……」
軽く許容して見せたファレリアと違い、もう一人の上級生……アルメラルダの対応は厳しい。もう三人の上級生はそれを遠巻きに見つつ、目の前の光景にきゃいきゃいと素直にはしゃいでいた。
それを優等生然とした雰囲気の少年が苦笑して眺めながらも、彼もまた素直な感動を覚えていた。
「ですが、本当に……こんなことでも無ければ、見られなかった光景ですね」
夜の海。
空には極々細い三日月が浮かび、普段控えめな他の星々たちが月光の代わりとばかりにさんざめき存在を主張している。
更には今宵、そんな空の夜会場を新たな客が彩っていた。
ふわり、ふわりと緩やかに舞い上がる金色に発光する綿毛のようなもの。
それが無数に視界を埋め尽くしている。
「魔法苔の空渡り。初めて見ました」
「繁殖時期と重なったみてぇだな。結果的に言えば、俺達と同じく閉じ込められてた魔法苔をマリーデルが解き放ってやったわけだ」
こいつ、粗暴な割に魔法生物学好きだよな……という視線を不良もどきに向けつつ、優等生が頷く。
普段はぶつかることは多いが、実のところ結構この男とは趣味がかぶっているのだ。
魔法苔、と呼ばれているものがある。しかし実際の所それは植物ではなく魔法生物だ。
空気中の魔力を身に取り込み発光する極々微小な生物が暗い洞窟などに住み着き、それが輝く光景は非常に美しい。
しかし身を危険から守るため、彼らが住み着く洞窟は難所だ。普通は見ることが困難なのだが……現在はマリーデルが開けた大穴から、その神秘的な光景を望むことが出来ている。
更に言うなれば魔法苔の一部は宙を浮遊し、空へと舞い上がっていた。
空に浮かぶ星たちと相まって、まるで地上から生まれた星が天へと昇っているような光景である。
これは彼らが繁殖行動に移る時のもので、一生の内で唯一魔法苔がその身を動かす瞬間だ。
「みんな移動してしまうんですか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。……洞窟に残っている魔法苔は親ですね。もう移動を終えて、子を残した彼らはここを終の棲家とする」
「飛んでいった奴らはまだ子孫を残していない子供たちだな……です」
「へぇ~。二人とも詳しいんですね」
素直に感心しているのは素晴らしい美貌ながら、ほとんど表情が動かない人形のような伯爵令嬢。
しかし今回行動を共にしてみて、思っていた以上に軽い性格なのだなと感じている二人である。
現在魔法学園に在籍する生徒の内、一部が知見を広めるための学校主催の旅行に参加している。
その旅行の最中、組まれた上級生グループと下級生グループ。
色んな意味で目立つアルメラルダ・ミシア・エレクトリアがその中に居ると知った時は少々身構えたが、いざ旅行が始まってみれば次第に緊張はほぐれていった。
……というのも、珍しいものを見つけるとすぐにふらふら吸い寄せられるように歩いていくファレリア・ガランドール嬢を保護者のように諫めては連れ返す姿を見ていたからかもしれない。
ファレリアと同じくいつもアルメラルダの取り巻きをしている三人が「いつものこと」といった具合に見ていたので、普段からこうなのだろう。
保護者じみた公爵令嬢に、好奇心旺盛な子供のような伯爵令嬢。
遠くから見る分にはその鉄壁の表情に近寄りがたく感じていたが、共に行動する中で緊張はほぐれていた。
今回の旅行ではひそかに気にかけている相手……マリーデル・アリスティとの仲を深められたらと考えていたものの、思いがけぬ人物たちの新たな内面までも知ることが出来た。
旅行っていいものだな。
そんな月並みの感想を抱きながら、彼らはこの神秘的な光景を楽しむのだった。
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