初恋twilight(1)~一年過ぎ去るのはクソ早い
護衛という名のもとに公の場でもアラタさんと一緒に過ごすようになって、奇妙な組み合わせの四人組で行動することが多い中……一年が経過した。
……一年!?
(う、うわあああああああ! 今気づいた!! 一年はっや!? え、本当に!?)
爆速で恐怖が体内を駆け抜けていった。
年取るごとに一年過ぎるの早くなっていくのは事実だし前世の私が恐怖していたものの一つではあるのだけど、…………私、まだ学生! ぴっちぴちの十八歳!!
学生の時って、もっと、こうさぁ! 時間を濃く長く感じるもんでしょうが!?
いや、確かに濃くはあったのですよ。
濃かったんだけど、濃度高すぎて時間間隔まで圧縮されたっていうか……。
……いやぁ、本当に色々あった……。
アラタさんが護衛についてから直近のイベントは、一番最初の突発的決闘と違った星啓の魔女を決めるための正式な定期決闘。
その第一回
決闘後のアルメラルダ様の荒れっぷりといったらなかったわね……。本人に悪気は無いんだけど、部屋のあらゆる調度品が破壊された。何か握ればひしゃげるし、ちょっと強く叩けば分厚い天板の机すらも真っ二つに割れるしで傍から見てて恐怖だったよ。これを「あっ、またやってしまった」みたいなノリでやるんだもんな……。
アルメラルダ様、蛮族な上に単純に膂力が令嬢のそれじゃないんですよ。
多分だけど、これって星啓の魔女候補として選ばれるだけ強い魔力が無意識に筋力のブーストとして変換されてんじゃないかな……。
アラタさんとの決闘時、四属性同時自己
そういえば以前ヨガのポーズを教えていた時に「なかなかよいですわね。魔力の循環もよくなりますわ!」って言ってたんですよねアルメラルダ様。
特別教諭の野郎が私が行ってるヨガに妙な言及をしていたので、もしかして他にも魔法的要素に効果を表す何かが備わっているのか? などと勘ぐってしまう。
ともかく第一回目の正式決闘ではアルメラルダ様が負けたわけだが、決闘の方法は二種類。
一回目は私とフォートくんが決闘した時のような化身を戦わせる方法だったものの、決闘方法を毎回選べるゲームとは違い、ランダムに決められた第一回以降は前回とは別の決闘方法となる。
まあわざわざ二種類用意されているわけですからね。どちらか一方だけを見る、ということはないのでしょう。
ので、二回目は魔力を用いた直接戦闘となり、そちらはアルメラルダ様が勝利。
年に二回の定期決闘だが、現在の所その勝敗は半々である。
どうもフォートくんは後衛軍師タイプというか、自分が直に戦闘を行うより他の対象に指示を出すのが得意のようだ。
対してアルメラルダ様は自分で戦うのが得意。前衛戦士タイプ。
逆じゃない? と思わなくも無いが、それぞれ得意分野が決定的に異なる模様。
二人とも負けた後はそれぞれ次の対策を念入りに考えているようなので、"勤勉"という点では共通するんですけどね。偉い。
更にここ一年で変わった事といえば、"攻略対象者"たちと微妙に接点が出来てしまったことも含まれる。
アラタさんが私たちの護衛についたあと、便乗して行動を共にすることにしたらしいフォートくんなのだが。もともと彼のスケジュールはイベント管理のために超タイトである。
そんな中で一緒に行動するわけだから、時短! とばかりにフォートくんは私達が居てもお構いなしにぐいぐいとイベント進行をした。
でもって、
そこまでして一緒に居る必要ある!? などと思ったりもしたけれど、これについては……うん。
フォートくんなりに一度殺されかけた私を心配してくれているのも分かるので、強くは言えなかったんだよな……。
一緒に行動する事については、原作を極力変えたくないアラタさんも一度苦言をこぼしていた。
が、フォートくんの「目標を達成できるなら方法はある程度現場に任せる。臨機応変に対応してくれ。……そう最初に言ったのはアラタだよね。それに変えたくないも何もアラタが一緒に行動している時点で……ねぇ?」という台詞に撃沈していた。
フォートくん、近くで見ていて思ったが好感度管理マジでほぼほぼ完璧だからな……。
ライバルであるアルメラルダ様が近くに居ても、問題なく稼ぐべき好感度は得ていたように思う。
で。
そんな距離に居ればおのずと攻略対象者達と、ちょっとした顔見知りにもなるわけで。
「ハロハロハロ~。ファレちゃんげんき~?」
「ワーォ、今日も見事に無表情! たまには僕らにも笑顔を見せてほしいな~」
なかなかに馴れ馴れしい呼び方をしてくるよく似た声の主が二人。
「あ、その一とその二」
「双子、まで省略するのやめない? せめて双子その一、って言ってよ! 相変わらず容赦ないネ」
「まあ思ってたより愉快な人で、ボクらは楽しいけどサ」
中でもちょいちょい私個人にまで絡んでくるのは、距離感とコミュ力がバグっている双子だ。
ちなみに同級生ですね。
よく似た顔で二人とも紫髪だけど、赤っぽい紫と青っぽい紫なので特に見分けがつかないとかは無い。
こいつらとは学園祭で縁が出来た。
でもこの二人、個性的なのを気取りたい基本常識人寄りの人種なので、ウザ絡みを許容できれば比較的付き合いやすい。
情報通だから色々教えてくれるしね。
秋に行われる学園祭。
これは保護者や学園関係者に魔法を用いた発表を見せ、生徒たちの現在の実力を示す場として設けられている。
準備から始まり、ゲームでは攻略キャラの好感度を上げたりスチルをとるための重要イベントの一つだ。
重要イベントのくせして制作陣のおふざけがここでもよく発揮されており、その内容は貴族学校のわりに庶民臭かったりするし何より濃い。
いや、ちゃんとそれぞれ由来はあるんだけどね?
体育祭のような面も含まれており、借り物競争で「今宵のパーティーでダンスに誘いたい相手」を引いた双子は双子その一がアルメラルダ様を。双子その二が
それぞれ彼女らの手を取ってゴールへ向かおうとしたのだが……。その時、「親友」という借り物カードを引いていたアルメラルダ様とフォートくんが(お題カードかぶりすぎなんだよ!!)私を左右から取り合っていたので、何故か右から順に双子その一、アルメラルダ様、私、フォートくん、双子その二で手を繋ぎ大きく広がって五人でゴールする事と相成った。なんで???
親友、というカードでアルメラルダ様とフォートくんの二人が私を選んでくれたのは嬉しいのだけど。
最終的に目立つ人間ども四人に囲まれ、センターでのゴールとなった私はクッソ恥ずかしい思いをしたんだよな。
しかも一見「みんなでゴール!」っていう感動的な場面なのに、捕まってた私はお題達成できてなかったのですが。私も参加者だったよ。
「おっ、リア先輩じゃん。今日もちっけぇな。飯食ってるか?」
「ガランドール先輩、この無礼者は無視して構いません」
「んだとテメェ!」
「馴れ馴れしいのだよ貴様は」
食堂で食事をしている時に声をかけてきたのは、フォートくんと同級生のオレンジ髪不良もどきと水色髪眼鏡の優等生。この二人は比較的優しめ難易度なので、ゲームでも攻略したことがある。
一見犬猿の仲っぽいが、だいたいいつも行動を共にしている仲良しさんだ。
そういえば乙女ゲーなのに同人誌でよく薔薇薔薇されてたなこの子達……。
学年合同プチ修学旅行みたいなので学園外に出かけた時、後輩と先輩でグループを組むのだけど。そこでこの二人とアルメラルダ様、私、取り巻きーズの組み合わせになったのよね。
まあ、あれ。それぞれ態度は違えど先輩を立ててくれる良い子たちよ。
「ファレリアさん。先日の試験、頑張りましたね。ここ一年の成長には目を見張るものがあります。あなたは頑張ればもっと出来る子だと先生思っていました」
「ありがたいお言葉です、先生」
定期試験でそう褒めてくれたのは、柔和な笑顔と灰色の髪が特徴のフォートくんのクラスの担当教諭だ。
彼はクラスの受け持ちの他、歴史や魔法実技も一部担当しているので入学以来お世話になっている。特別教諭とは違って癒し系だ。特別教諭とは違って。……でも妙に仲は良いんだよな、あの変人と。
生徒一人一人を見ていてちゃんと褒めてくれるめっちゃ良い先生。
ちなみに私が褒められている時はいつもアルメラルダ様が横でドヤ顔している。
そ、そうですね。アルメラルダ様が私のケツ引っ叩いて勉強とかさせてくださってるおかげですものね。ハイ。
「…………マリーデルは、げんき?」
「ご本人に聞いてくださいませ」
「いつも、いっしょに居るから」
前振り無しに好きな子情報を求めてきたのは一つ下の後輩、フォートくんにとっては一学年上の先輩であるピンク髪の不思議くん。
しょぼんと肩を落としている所は可愛いが、もう少しコミュニケーション頑張ってほしい。ゲームではよくある不思議ちゃん系個性だな~で流していたけれど、実際に接してみると大分不安になるぞこの子。
年末パーティで会った時は
そしたら以来よく
「おいおい、あんま嬢ちゃんに迷惑かけんなよ」
「……かけて、ない。いじわるされた」
「言いがかりです」
「ほら、困ってる」
「むぅ……」
けど不思議くん相手に困っていると、こうして保護者が引き取りに来てくれるのでありがたい。
ど派手な金髪に、本当に学生か? と言いたくなる大人フェロモンむんむんなこの色男。攻略キャラの中だと前世の私一番の推しである。
顔も性格もアラタさんとは正反対なんだけど、単純にキャラクターとして見る分にはこういう自信満々包容力タイプも好きなんだよね。恋愛対象というよりキャラクターとして好き。
ちなみに五年制であるこの学校において彼は四年生。先輩だ。今年で最終学年となる。
ゲームだと彼は途中で卒業してしまうから、一年で好感度を上げる必要のある難易度高めのキャラ。
「生徒会長、ありがとうございます」
「いいって。ああ、そうそう。アルメラルダ、今日は会議があるからな」
「ええ、もちろん承知しておりますわ」
気を遣わせない態度でお礼を流すと、シームレスにアルメラルダ様へ連絡事項を告げる色気先輩もとい生徒会長。ちなみに不思議くんも生徒会役員だ。
「やあやあやあ! 奇遇だね。ところでそろそろ演劇部に興味は湧かないかい? 君たちなら僕ほどではないがスターとして輝けること間違いなしさ!」
「あ、結構です。でもあなたは今日もギンギラに輝いていますね。ひゅーひゅー、さすがすたぁ、ですわ~」
「ああっ! おざなりな賞賛にも喜んでしまう自分が憎い! けどそんなところも僕のチャームポインッ! 自分の魅力が恐ろしいよ!」
劇場の近くを通りかかると毎回おもしろポーズを決めて登場するこの茶髪ナルシストとは、音楽祭で知り合った。ちなみにこれまでに接点は無かったが同級生。
音楽祭での催しの一つに歌劇があったのだが、ハプニングで不本意ながら私、アルメラルダ様、フォートくん、アラタさんが劇に出ることになった時に場を取り仕切っていたのが彼だ。
演劇部の部長であり、楽器も歌も演技も監修も高クオリティでこなせる多彩な男である。
挙動は攻略対象の中でも段違いに面白いが、一番泣けるエンディングがこの人なんだよな。
「やっ、ファレリアちゃん。ねえねえ。このあいだマリーデルにお菓子をもらったんだぁ~。すっごくすっごく、美味しくてね! 僕感動しちゃった~。僕のためにいっしょうけんめい作ってくれたんだってぇ~! かわいいよねっ!」
「ええ、とても美味しかったですよね」
「……君も食べたの?」
「一緒に作りました」
「…………。ふ~ん」
(含み多いな)
きゃぴっとしたノリで話しかけてきた一見中学生……ギリ小学生にも見えなくはない青髪の童顔。
ナルシストと同じく音楽祭をきっかけに接点が出来たのだけど、もう分かり易いくらいに腹黒だし独占欲強いしで
自分の幼い容姿を存分に活用して周囲の庇護欲を煽ってくるあざと師。作中屈指のひねくれ枠だ。
調整していても勝手に好感度が上がっていくらしく、フォートくんがよく頭を悩ませている。
というか私は先輩だぞ。なにちゃん付けで呼んでんだよこのガキが。可愛いから許すが。
……可愛いっていうのは、ある種の暴力だと思う。ある程度は無礼な態度も許容してしまうからずるい。
「やっ。アラタは元気にしているようだな。安心した」
「さすがに慣れたようだしね。まあ弟の護衛をクビにしたわけでも無いのだ。今しばらく……例の犯人が見つかるまで、彼女らを守ることに専念してほしい」
「はい。誠心誠意、守護の任を務めさせていただきます」
第二王子と第一王子はちょくちょくアラタさんの様子を見に来るし、例の犯人探しに積極的に協力してくれているので一番会う機会は多いかもしれない。
第二王子は快活かつ気さくな人で、第一王子は高貴で雅やかな雰囲気を纏いつつも朗らか。
二人とも王族のわりに親しみやすいお人柄である。
「おや、ファレリア・ガランドールではないか。今日は……」
「…………」
「おい無視をするな!」
特別教諭は置いておくとして。
などなど。
アルメラルダ様と行動しているのでそれぞれ顔見知りではあったのだけど、今ではその「顔見知り」が「知り合い」程度にはなった。
まあ、なんというか。
一年前よりも、中々に賑やかな日々を送っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます