閑話:本編とはあまり関係のない四方山こぼれ話×3
■□ 本編とはあまり関係のないこぼれ話 □■
【なぜなにどうして。女の子への変身どうやるの?】
「そういえばフォートくんてさ。体型は魔法アイテムで整えてるって聞いたけど、ちんちんどうなってるの?」
フォートくんがむせた。
「……ッ! ……! 君さぁ! なんでそう直接的なの? というか、聞く? 恥じらいとかないのかよ」
「いや、実はずーっと気になってて……。だってこの間の着替えイベント、どう見たって股間が」
「年頃の女の子が股間とかちんちんとか言うんじゃありません!! 僕、姉さんがそんなこと言ってたら泣くよ!? ファレリア、僕に女の子の作法を説く前に自分がどうにかした方がいいぞ」
フォートくん、まだ女子に夢見てるようだな。この世界ではどうか知らないが、女の方がえぐい下ネタ言ってたりするぞ。今の発言に関しては男子小学生寄りだけど。
ともかく、私は気になっていたのだ。
ついこの間。着替え中に攻略相手が入ってきてしまう、それって乙女ゲーとかいうよりラッキースケベの文脈では? という不可避イベントがあった。
その時の対策として私が一度フォートくんの下着姿を検めていたのだが……。
どう見ても女子。
柔らかくなだらかなラインにくびれた腰、控えめながらはっきり形を主張する胸元、きゅっとあがったこぶりな桃尻。
更にはそれらに反し……ふくらみが一切見えない、股間!
どうなってんだよ気になるだろ。
「ごめんごめん。で? 実際は?」
「反省してないだろ君。グイグイくるの、何」
「き~に~な~る~の~。お・し・え・て」
「~~~~!」
フーっと耳元に息を吹きかけてみると、フォートくんが飛びのいた。お、良い反応。
「ファレリアさ。アルメラルダ様はいつも人の話を聞かないし強引だって言うけど、たいがい君も影響受けてるよ!」
「お。そんなこと言うのはこの口ですかぁ~?」
「!!!! やめ、馬鹿、おい!! アラタぁッ! たすけっ、!!!! あはははははははははははははッ! やめっ、ファレリア!!!! この馬鹿!!」
「アラタさんはまだ今日来ませんよ~。第二王子の狩りにつきそって遠征中だとか」
反抗的だなこの野郎とばかりにくすぐり攻撃を仕掛けてみると、面白いくらいに笑ってくれる。
フォートくん、口は悪いけど紳士だからな。馬鹿とか言いつつ絶対手は出してこないのよ。ほほほ!
……とはいえ少しやりすぎたか。
涙目になってきたフォートくんを見て脇下に突っ込んでいた手を引くと、顔を真っ赤にしてぜーはー荒く息をついている彼が睨んできた。
ひゅ~っ、美少女少年。ちょっと新たな扉を開いてしまいそうだわ。……いけない、いけない。
「ごめんね。やりすぎたわ」
「本当だよ。まったく……」
調子に乗りすぎた。
だからこれはさすがに教えてもらえないかなと諦めたのだけど……。肩を落とす私の耳に、なにやらボソッとした声が聞こえた。
「これは僕の尊厳のために言うだけなんだけど。……小さくしてるだけで、無くなってないから」
「え?」
「無くなって!! ないから!!」
悲鳴のように耳をつんざいたその主張に、さすがに申し訳なくなった私なのだけど……その前に口から飛び出ていたのは、追加の謝罪などではなく。
「それって生殖機能に影響とかない!? 副作用とか大丈夫!?」
「ああああ~! もうっ! これ以上聞くなよ馬鹿ファレリアー!」
「や、でもさ! そこはちゃんと確認しておかないと安心できないんだけど!?」
「うるさいうるさいうるさ~い!」
その後。
アラタさんが帰ってきて魔法アイテムに副作用が無いことを確認するまで、このやり取りは続いた。
【推しへの課金】
「ねえねえ、アラタさん。前から聞きたかったのですけど、マリーデルちゃんの引っ越しや国外での住居にそこでの仕事の根回しとか、フォートくんの見た目を整える魔法のアイテムとか。その他もろもろで、結構な金額を使われたのでは?」
「ああ……。まあ、そこそこ」
「そこそこ、なんてものではないと思うよ。普通に暮らしてたら一生かけても払いきれない金額というのもあるから、僕はこんな格好でここに通ってる」
「ですよねぇ……」
「フォート、だからそこは気にしなくていい。こっちは手伝ってもらっている身だ」
「そうは言ってもね」
ある時ふと気になったので聞いてみれば、歯切れの悪いアラタさんやフォートくんの言葉から推測するに、アラタさんが大団円エンドを目指す下準備のため、かなりの自腹を切った事が窺えた。
国の滅亡がかかっているとあらば安いものかもしれないけど、それを個人で負担しているとなると恐ろしい。
マリーデルちゃん関連だけなら、アラタさんの稼ぎ(推測)であれば懐は痛まないだろう。むしろ他国への就職などという根回しの方が大変だったと思われる。
けどフォートくんに使われている魔法アイテムの性能を考えると、特殊アイテム入手の伝手を維持するための金額込みで継続的に購入する額は恐ろしいものになるのでは? というのが私の見立てだ。
私も何か支援出来ればいいのだけど、個人で動かせる現金とかほぼ無いからなぁ……。
せいぜい自分の持ち物を売るのがいい所だけど、それだと足がつきそうだ。
何のために売ったのか問い詰められた時に「友人のチンと玉を小さくするための薬費用に使いました」なんて口が裂けても言えないのよ。
けど私がうんうん唸っていたからか、アラタさんは少し考えてから「良い表現を思いついた」とばかりに顔を明るくした。
そして。
「ファレリア。俺はアルメラルダ推しだが、もちろん主人公であるマリーデルも大好きだ。……キャラクターとして」
フォートくんからの視線が強くなったからか、最後をとってつけたように付け加えたアラタさん。
彼はまっすぐな目で言った。
「推しに課金する時、理由なんているか?」
「納得できるんですけど曇りなき眼で闇深いアンサー出すのやめろ」
「これ以上に通じる例とか無いだろ!?」
心外! とばかりに驚かれるけど、いやいやいや。
「すみません。前世あなたがどれだけ推しに課金してたか聞くの怖いんですけど」
「いっせ……」
「あーあーあー! 聞こえない!!」
ヤバい数字出てきそうだったから聞くのをやめた。
世の中にはそういう人も居ると知ってはいるが身近で居ると怖い!!
そういえばこの人、同人ゲームの激レアスピンオフまで網羅している人だった。
私なんかとは原作への熱の入れようが違う。しかも現在の活動は娯楽目的などではなく国の存亡とリアル推しの命、幸せがかかっているのだ。歯止めなどきくものか。
「この話は聞かなかったことにします」
世の中、聞かない方が心穏やかに過ごせるものはたくさんあるのだ。
【薔薇の髪飾り】
※魔法学園入学一年目くらいの時期。
「ファレリア様。僭越ながらお聞きしたいことが……」
「あら、なにかしら」
め、珍しい! 取り巻きーズ達がひっじょーに珍しく私に話しかけてきた!
普段は同じ取り巻きなのにわたしの事をハブって自分たちだけで楽しそうにしているくせに!
浮かれているのを知られると「こいつマジで友達いないんだな」と思われそうなので、平静を装って聞き返す。
どうした。聞きたいことがあるなら何でも言ってごらん。ファレリアお姉さんが答えてあげよう子猫ちゃん達。
「ファレリア様の……その。胸元にいつもつけてらっしゃる薔薇のアクセサリーって、アルメラルダ様の髪飾りと同じものですわよね?」
「とってもとっても素晴らしいお品ですわ~!」
「是非、どちらで手に入れたものかお聞きしたく……」
三人娘が興味津々! とばかりに見てくるのは、いつも身に着けている大輪の薔薇を象ったアクセサリー。彼女たちが言う通り、アルメラルダ様が身に着けている髪飾りもこれも、つける場所が違うだけで同じものだ。
この飾り、花びら一枚一枚の造りが精巧でまるで瑞々しい生花のよう。幼い頃の私が目を輝かせたように、彼女たちが興味をもつのも分かる。
けど入手場所となるとなぁ……困った。
「私は誕生日プレゼントの一つとして頂いたのですけど、もうどなたが下さったものなのか覚えていないの」
「まあ……そうなのですか」
「とてもとても、残念ですぅ……。わたくしたちも、ファレリア様、アルメラルダ様とおそろいの物を身につけたかったですわぁ……」
あらやだ、可愛い事言ってくれるじゃない。
「では偶然アルメラルダ様も同じものを持っていた、ということですか?」
「ん? ああ、いえ。えーと、なんといえばいいのかしら。私が頂いた誕生日プレゼントの薔薇は、アルメラルダ様が身に着けているものなの。……そうだ! 入手場所を知りたいのならば、私よりアルメラルダ様に聞いた方がよろしいわ」
「へ?」
「んん?」
「え?」
思い至ってパンっと手を叩いたが、取り巻き三人娘は要領を得ないという顔をしている。
まあ、そうよな。
「……その、ね。私もこの薔薇のアクセサリーがお気に入りで、貰ってから毎日身に着けていたのよ。そしたらある日、アルメラルダ様がこれを欲しいとおっしゃったわ。エレクトリア公爵家の家紋に薔薇が入っているから、きっとお気に召したのね。そしてアルメラルダ様がお望みならばと私はそれを差し出したのだけど……後日。アルメラルダ様がまったく同じものを見つけだして、私にくださったのよ」
「!!」
「まあ、まあ!」
「ほう……!」
え、何。なんかえらく食いつきが良いな。全員身を乗り出している。
「……以来、これを身に着けていないとアルメラルダ様が不機嫌になるのよね」
きっと下僕の証とか犬につける首輪とかと同じ感覚なんだろうなと思いつつ、それだけで不機嫌になられても困るので一応毎日身に着けている。
「ええと……。だから同じものが欲しいなら、アルメラルダ様に聞いてほしいのよ。きっとどこで買ったか知っているはずだから」
そう提案するが、何故か全員がすごい勢いで首を横に振った。
「いえ!」
「そんな!」
「その薔薇はお二人の絆そのもの!」
「わたくしたちが!」
「身に着けるなど!」
「おこがましい!」
なになになに。怖い怖い怖い。
三人で一つの会話を繋いでるんだけど!? 仲良しにもほどがあるだろ! 見せつけてんのか!
「ま、まあ入り用でないのなら、よかった? です」
勢いに押されてそのまま会話を終わらせてしまったが、いったい何だったのか。
その後私は三人がおそろいのマリーゴールドの髪飾りを身に着けているのを見て、またもやハブられたことに歯ぎしりをすることとなる。
+++++
「~~♪」
「お嬢様。本日もお美しゅうございます。髪飾りもよくお似合いですよ」
「ふふっ、当然でしょう」
朝。
身支度を整える時、アルメラルダは髪の毛をとても楽しそうに、嬉しそうに編む。正確には編んだ髪の根元に薔薇の髪飾りをつける時が最高にご機嫌だ。こればかりは使用人に任せず、必ず自分でやる。
それを褒めるのも、長年仕えているメイドの仕事の一つだ。
『アルメラルダ様の黄金の髪に薔薇色はとてもよく映えますね。よくお似合いになると思います。どうぞ、おもちください』
幼い頃。ファレリアが大事そうに身に着けていた薔薇の飾り。
それが自分以上に大切にされているようで気に食わなかったアルメラルダは、理不尽にそれを自分によこせと強請った。
しかしファレリアは大事にしていたはずのそれを、あっさりアルメラルダに譲った。しかも「似合う」と微笑んで。
それ以来アルメラルダはずっとその飾りで自分の髪を彩っている。
その後、せっかく同じものを見つけだしてプレゼントしたのに自分の様に髪に飾らないファレリアに最初はむっとしたが、その飾りをつけた位置が左胸元……心臓の真上であることに気が付いて、とりあえず満足をした。
それほど自分からの贈り物が大事だということだなと。
「黄金に似合うのは赤色。当然よね」
アルメラルダは幼馴染の少女の目の色を思い出しつつ、嬉しそうにほほ笑んだ。
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