2章
取り巻きを取り巻く勘違いのet cetera(1)~取り巻き令嬢たちの場合
■□ とある取り巻き令嬢たちの場合 □■
「ああっ、今日も朝からアルメラルダ様とファレリア様をお側近くで見ていられる。なんて幸せなの!」
「ですわですわ、本当ですわ~。お父様達のご命令など無くとも、この場所は絶対手放してなるものかですわ~!」
「ファレリア様、今日も流石ですね……。アルメラルダ様の厳しい訓練にも、顔色一つ変えていません」
とある昼上がり。
優雅に歩く高貴な令嬢二人の後を追いつつ、絶妙な小声できゃーきゃー言い合うという器用な事をしている三人の少女がいた。
彼女たちはアルメラルダ・ミシア・エレクトリアの取り巻き二、三、四である。
そして取り巻きその一であるファレリア・ガランドールであるが、本日も「只今魔法訓練中」の札をぶら下げながら過酷な修行を課せられていた。
ここ最近突如として行われ始めたそれも、今やすっかり日常風景の一部である。
見れば彼女の足元には燃え盛る魔法の炎がまとわりついている。それが彼女の白い足を焼くことは無いが……歩く先々の地面を熱しており(もちろんアルメラルダの高度な魔法が用いられているので、ファレリア以外に影響はない)常に火渡りを強いられている状態だ。
だが人形のような美貌を誇る少女は今日も見事な無表情。ときおり浮かべる微笑にはある種の"凄味"がある。
更には「アルメラルダ様って拷問官の才能有りますよね。何処からネタ仕入れてくるんですか?」と軽口まで発する余裕。
その姿に三人は「流石ですファレリア様」の心を隠せない。
先日魔法の訓練だと言って、ファレリアを水責めにしていたアルメラルダにぎょっとしたのが最早懐かしい。
「ああ、本当に……。最初、ファレリア様に嫉妬していた自分が恥ずかしい。そんな考えを抱く事すら烏滸がましいというのに」
「ええ、ええ。やはりあの方の隣に並び立つに相応しいのはファレリア様以外おりませんわ」
「聞けば入学前もあのような"お遊び"を行われていたとか。アルメラルダ様も彼女ならば耐えられる、という確信と信頼あっての事なのでしょうね」
魔法学園入学以来、将来"
しかしその時すでに彼女の横にはファレリア・ガランドールがいた。
アルメラルダから常に厳しく当たられ顎で使われるファレリアを見て、当初は「ああ下僕なのだな」と感想を抱いた。が、共に過ごすうちにそれは"信頼"なのだと思い知る。
ファレリアもまたアルメラルダに対しなかなか失礼な態度を繰り返していたが、それが許されるほどの絆が二人の間にはあったのだ。
ファレリアの何を考えているか分からない無表情に加えて、常にアルメラルダに構われている状態。それゆえに臆し、二年も共に過ごしているのに話したことは驚くほど少ない。
だが取り巻き令嬢三人の中では、ファレリアのタフさにアルメラルダに対するものと同質の感情が育っていた。
すなわち「憧憬」である。
「大きな声では言えませんけど、アルメラルダ様。急にファレリア様を鍛え始めたのは、あの方を史上初の女性補佐官として迎えるためだと思うのよ」
「まあ! ありえますわ! ありえますわ! あの庶民の小娘が星啓の魔女になるなど万が一にもありえませんし。アルメラルダ様はすでにご自分が星啓の魔女となった未来を見据えて行動なさっているのですわね~!」
「なるほど。しかしそれも納得です。あの方の横に並び立つ補佐官は、たとえどんな優れた男性が居たとしてもファレリア様以外考えられない。我々も動じず、あの方々の訓練を見守りましょう。むしろお手伝いをするべきです」
「確かに」
「確かに」
この会話をファレリアが聞いていたら「おいやめろ」とストップをかけるだろうが悲しきかな。
二人の交流を邪魔してはならぬと気遣った三人は常に小声で話しているため、その耳に不穏な会話が入ることは無かったとか。
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